4カ月遅れの誕生日5
「分かった」
ディオンのその一言が耳に届いた瞬間、目の前の景色が一変していた。
気がつけば、私はヘリポートのような場所に立っていた。
目の前には、まるで星が地上に降りたように、街の光が無数に広がっていて、湾曲した大きな川の奥には赤い東京タワーが光り輝いていた。
生まれて初めて見る本物の夜景に、言葉を失ってしまう。
「すごい……」
思わず呟いたその言葉は、夜空に溶け込んでしまいそうなくらい小さな声だった。
「まさか……ここがスカイツリー?」
「それ以外にどこに行くんだよ」
「綺麗……これが夜景というものなのね」
「綺麗か?こんなの、ただの光の集まりだろ」
せっかく人が感動しているのに、ディオンが残念な目を向けてくる。
この綺麗さが分からないなんて……と、私も残念な目を返してしまう。
「んだよ」
「そうだったとしても……綺麗なのは綺麗なの!」
「……ふぅん。光の粒やら、花やら、お前が惹かれる物って意味不明だな」
その言葉にイラっとしそうになるけど、せっかくの外だ、とグッと我慢をした。
意外だった。
遠くからしか見たことのないスカイツリーの先端は、糸のように尖って見えたのに、実際に来てみるとヘリポートのように広い場所だったようだ。
いつも思うけど、ディオンは仕事が早すぎて毎回驚いてしまう。
移動するならすると、前もって言ってくれると助かるんだけど……
でも、嬉しい。
息が詰まりそうだった、あの学園から出れたという事もだけど……ディオンが連れて来てくれたという事が――本当に嬉しい。
夢の中まで助けに来てくれたあの日から、私は、ディオンに強く『意識』をしてるように思う。
他の人には感じ無い、『男』という存在。
それは生涯通じてディオンしかない。
そんな事を考えながら夜景を眺めていると、ディオンの視線を感じた。
「お前、さっきから何考えてんだ?」
ディオンの言葉に、胸がドキッと跳ねた。
あまりにタイミングが良すぎて、まるで心を読まれているようだと思った。
「えっ、べ、別に……」
嘘。本当はディオンの事を考えていた。
今だけじゃない。最近ずっとだ。
ディオンの視線に、一言一句にドキドキしてしまう。
今までこんな感情なんて、感じた事ないのに……
「ふぅん」
ディオンは興味がなさそうに声を漏らし、宙に浮いてリラックスした態勢を取った。
その瞬間、足元から勢いよく春風が吹き上がった。
ふと下を見ると、足元には網目状のフェンスのような床が広がっていた。
その隙間から、遥か下に小さく見える建物が映り込み、一瞬で全身がすくみ上がった。
「い、いま気付いたけど、ここ結構怖いね……」
「ん?怖くなんてねぇだろ。さっき居たとこよりか低いだろ」
「た、確かに、さっきよりは低いかもしれないけど……」
そう言って浮いているディオンを見上げると、とても余裕そうに見えた。
「きっと、ディオンは飛べるから怖くないんだよね」
「は?」
「自分で浮けるから、落下するとかいう不安もないもんね。いいなぁ……私も飛べたら違ったのかな……」
「何言ってんだ。お前、もう飛べるだろ」
「へっ……?」
訳の分からない事を言われて、豆鉄砲を食らったような顔をしてしまう。
「やってみろよ」
「え!?やってみろって……そんなの、飛べるわけないでしょ!?あれはSクラスでもほとんどの人が出来ない魔法で……」
「つべこべ言わず、やってみろって」
と、ディオンに指さされた瞬間、私の身体はふわりと浮き上がった。
「ちょっ、何して……」
クレーンゲームで釣り上げられてるかのような私は、手足をばたつかせ、向かう方向から嫌な予感が一気に湧き上がる。
「どうせさっきだって実は怖かったんだろ」
と言われてギクリとしている間に、展望台の床を超えそうな場所まで移動していた。
「飛べたらこんな所なんて怖いなんて思わねぇよ」
「ディ、ディオンッ……待ってぇぇーー!」
そう叫ぶと、グンと外に引っ張られる感覚が走った。
そして次の瞬間、私は予想通りにスカイツリーの外にほっぽり出されてしまった。
「きゃぁぁぁぁ~~~~!!」
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