4カ月遅れの誕生日1
あの後、私が目覚めたという情報を聞きつけたクリフオジサンが、勢いよく部屋に飛び込んできた。
私の姿を見るなり、涙を浮かべて手を広げ、駆け寄ろうとするクリフオジサン。
でも、そんな彼をすぐさまアランとローレンが肩を掴んで引き留めた。
何やら小声で言い合った後、話の決着がついたのか、クリフオジサンはコホンと咳払いをして気を取り直す。
そして、ラジオのような懐かしい機械を取り出しながら言った。
「じゃあ、とりあえず魔力の状態を見てみようか」
診断結果は、『安定しているように見えるが、魔力の暴走の危険性がある』というものだった。
目覚めれば状況が改善するかもしれないと期待されていたらしいけど、大きな変化はなかったらしい。
私は3カ月ぶりに目を覚ましたというのに、暫くの間引きこもり生活を余儀なくされることになった。
魔力の暴走の危険性から、部屋には厳重なシールドまで張られ、一歩も部屋から出られない日々が始まった。
でも、ディオンやメイ達が毎日会いに来てくれたお蔭で、思ったよりもあっという間に時間は過ぎ――
「よし。これくらい安定していたら、部屋から出ても大丈夫だろう」
待ちに待っていたクリフオジサンのOKサインに、「やった!」と小さくガッツポーズを取った。
「でも、しばらく無理はすんなよ。まだ完璧じゃない。実技の授業は念のためしばらく見学にしておくこと」
「分かりました」
そう返事をすると、クリフオジサンは私の頭に手を置いて笑顔を残してこの部屋を去って行った。
ディオンと二人だけになった部屋に、「よかったな」と心地いい低音が響く。
「うん」
その声にドアに送っていた視線をディオンに移すと、やっと俺の役も終わりだな、とでも言いたげなディオンが私の頭の上に手を置いた。
ディオンに頭の上に手を置かれた事なんて無くて、思わずドキっとしてしまう。
「ディ……ディオン、ありがとう」
「何がだ?」
「毎日来てくれた事もそうだけど、こんなに早く回復できたのは、多分ディオンのおかげだと思うから……なんとなく、なんだけど……」
ディオンは私の言葉に、腰に手を当てて私を覗き込んできた。
「お前、なんか最近妙に素直だな」
「え?そう……かな?」
「やっぱまだ復帰しない方がいいんじゃねぇか?」
からかわれて、私はムッとして口を膨らませる。
「それ、どういう意味よ!」
ディオンは、めちゃくちゃな講師だと今でも思う。
私やアランを殺そうとした。
そして押し倒したり、ローレンの前でキスまで……本当に信じられないことばかりする。
でも、私はディオンに感謝しかない。
だって……
呪いが理由だとしても、私を――命をかけて助けに来てくれたんだから。
あの時の状況をディオンに聞いても、面倒くさがって教えてくれなかった。
けど、ディオンが居ない時に、メイが代わりに教えてくれた。
メイが言うには、ディオンは私の夢の中に入り込んで助けたらしい。
夢の中に入る行動は命の危険を伴い、万が一、私が途中で目を覚ましたら、ディオンは一生戻れなくなる状態だったらしい。
あの暗い洞窟みたいな場所は、私が作り出した夢の中という事になるんだろう。
『夢に入れるのは、大魔法使い級の魔法使いじゃないと使えないらしいよ。なのにカミヅキ講師って、本当に凄いよね』
そんなメイの言葉に、私は『へぇ』と知らないふりをしたけど、実はその真相は知っていた。
それは――
ディオンが、大魔法使いに限りなく近い存在だという事だ。
なぜそんな事を知っているのかというと――
見えるようになってしまったからだ。
……みんなの……、魔力が……




