不安定な魔力10
真っ暗な暗闇の中を進むうちに、上下の感覚が失われ、ここがどこなのか全く分からなくなる。
本当に、ここは一体どこなんだろうか……
なんとなくだけど、ディオンが絶対に足を踏み入れてはいけない場所のような気がする……
「……どうして、こんな所まで来てくれたの?」
そう問いかけると、ディオンの返事は予想外のものだった。
「……呪いだ」
面倒くさそうに口を歪めながらそう言うのを聞いて、思わず目を見開いた。
「えっ!?呪い!?」
「じゃなきゃ、こんな所までくるかよ。下手したら一生戻れないかもしんねぇんだぞ?別に生に未練もねぇけど」
なんとなく感じていたけど、やっぱりここはそういう場所なんだ……
「ディオンは誰かに呪われてるの!?」
「多分な」
「大丈夫なの!?」
心配になって、ディオンに変な所が無いか、視界に入る部分をすべて見回してみたけれど、特に異常は見当たらない。
「大丈夫じゃねぇよ」
と吐き捨てるとうに言った後、ディオンは、まるで何かを見透かすような目で私をじっと見つめて続けた。
「……ねぇとは思うが……、この呪いはお前が掛けたんじゃねぇよな?」
「へっ!?わ、私が!?」
いきなり何を言い出すのよ!
「そんな事するわけないじゃない!っていうか呪いをかける方法さえ知らないわよ!」
「だよなぁ……。誰なんだよ。こんな変な呪いかけたのは」
ディオンは口元を歪めると、意気込むように続けた。
「見つけたら絶対に倍返し……いや、100倍返しにしてやる!」
「それって、どんな呪いなの?」
「え、それはお前が……」
話の途中で急に固まったディオンは、そのまま視線を真っ暗な空間に向けて渋い顔をした。
「私……?」
と聞いて、ディオンの視線の先を追いかけてみる。
でも、そこに何かがあるわけではなく、ただの闇だった。
「私が……なんなの?もしかして、私が呪いと関係あるの?」
ディオンに向き直ってみると、どこか不機嫌そうな口調で返される。
「煩せぇな。集中出来ねぇから黙っとけ!」
「何怒ってるの!?私と関係あるの、って聞いただけじゃん!」
「それ以上喋ったら、ここに置いてくぞ」
その言葉に、私はぐっと口を噤む。
一体なんなの?と不満がふつふつと湧いて来る。
でも、ディオンの体温が伝わってきて、それが驚くほど暖かくて心地よい。
引っ付いているこの時間が、なんだか特別に感じられてしまう。
呪いが原因だと言われても、こんな場所まで迎えに来てくれたことが、どうしようもなく嬉しい。
長居してはいけない場所だとなんとなく分かっているのに、ディオンの体温をもっと感じていたくて、まだ目的地に着かないでほしいと願う自分がいる。
なんてワガママなんだろう。
ふとディオンの横顔を見つめると、胸がぎゅっと締め付けられるように苦しくなった。
もしかして、これが……
『意識する』というやつなんだろうか?
そんな事を考えていると、突然、辺りが目も開けられない程に眩しくなった。
…………
……
「……ル……」
「……シエル……」
そんな声にだんだん意識が戻ってくる。
「シエル!」
ゆっくりと瞼を上げた私の視界に、自分の部屋の天井を背景にしたメイの泣き顔が映った。




