不安定な魔力8
ずっと、両親と私しかいなかったのに……
「誰って……、まさか俺を忘れてるのか?」
「忘れてる……?」
「いや、こんなチビになってるし、もしかして精神までもこの年に戻ってるのか?」
そんな独り言を言うこの人を、絶対に知っている気がする。
なのに、どうやっても思い出せない。
まるで記憶の奥に閉じ込められているみたいに。
「もういい。とりあえず行くぞ」
と言って、彼は強引に私の手を引くから、私は全力で抵抗をした。
「いや!行きたくない!」
「は?なんで」
本能が警鐘を鳴らす。
そっちには行っちゃいけない。
何か、とてつもなく恐ろしいことが待っている――そう感じるから。
「わ、分からないけど……分かるの」
「意味わかんねぇ」
「そっちだけは駄目……。怖いの……」
自分の身を守るように両手で抱える。
ここが何処なのか、そこが何処なのかさえも分からない。
でも、そっちに行ったら……今より、もっと辛いことが待っている気がしてならない。
「なんだそれ。それでずっと、そんな餓鬼の恰好で、こんな陰気臭い所に引きこもってんのかよ」
餓鬼の恰好?
引きこもってる?
「言ってる意味が……」
「ああ、もういい!ここにはあんま長居出来ねぇんだ。馬鹿みてぇな事ばっか考えてねぇで、さっさと行くぞ」
と、彼は私の腕を強く引く。
「馬鹿……?いま馬鹿って言った?」
「ああ。言った」
「酷い……
私の気持ちなんて分からないくせに!!」
そう叫ぶと、彼は無言で見下ろした。
「あ……愛されたいのに、愛されない私の気持ちなんて、誰にも分からない!あなただってそう!だからそんな風に馬鹿だなんて言えるのよ!」
自分の悩みを馬鹿にされて悔しくて、涙が溢れてくる。
「……なんの話してんだ?」
その時、背後にいた前世の両親と今世の両親が、揃って私を罵ってくる。
「なんだ、あいつらは……?」
彼がそう言った後に両親側へと振り返ると、冷たい視線と目が合って、すぐに目を伏せた。
「私を、愛してくれる人も……分かってくれる人も、この世にも居ない……
私だけがいつも不運で、私だけがいつも人生うまく行かないっ!……なん……で……どうして……いつも……」
気付いたら、涙が止まらなくなっていた。
どんなに拭っても、溢れてくる。
知らない人の前で、こんなにも涙を流すなんて、自分でも信じられない。
「私が……何をしたって言うのよ……っ」
彼は、呆れたようにため息をつくと、突然両親の方に手をかざした。
私がその手の動きを追った瞬間、両親が跡形もなく消え去ってしまった。
「……っ!お、お父さん!お母さん!!」
私は声を震わせ、両親が消えた場所に手を伸ばす。
「あー、あのウザいの、お前の親だったのか?ってか、なんで4人もいんだよ」
「あんた!私の両親に何をしたのよ!!」
拳を握って掛かろうとすると、頭を押さえられ、彼との身長差が酷すぎて叶わない。
慌てて作戦変更をして弁慶の泣き所を蹴ろうとしたけど、華麗に避けられてしまう。
「お前のやる事なんて、だいたい読めてんだよ」
そう言うと、彼は私と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
彼は私の頬をペチッと叩いて来る。
「何するのよ!……あれ?」
でも、頬には驚くほどに傷みが無い。
鋭い瞳が私を捉える。
「あいつらは別に死んだわけじゃない。お前が勝手に作り出した幻想だ。煩さかったから、ここから消しただけだ」
「……幻想?」
私が作り出した?
「愛された事がない?だっけ?」
「え?」
「勝手に決めつけんな。お前……それを毎日泣きそうな顔でお見舞いに来るメイやクラスメイトの前で言えるのかよ?」
「……メイ?」
ふわっと脳裏に浮き上がってくる謎の女性の姿に、心が乱れる。
「そのデけぇ目は、何を見るためについてんだ?」




