不安定な魔力4
「なんで……っ。あなた、前から一体何なんですか!?」
こんなに付きまとわれるくらいなら、助けなければ良かった。
そう思った時、彼はまた大理石の壁を殴った。
すごい音がして、その手を横目で見ると、拳から血が滲み出しているのが見えて、ギョっとした。
「俺が……どういう思いで……っ!!」
とても苦しげな顔をしていていた彼の表情は一変して、鋭い目つきに変わる。
「……結婚なんてしてみろ。絶対、お前をぶっ殺してやるからな」
殺意が込められたような目でそう告げると、この世の終わりのような顔をしてこの場を去って行った。
私は、すぐに壁伝いにその場で崩れ落ちた。
心臓が驚くほどバクバクと鳴って、暫く歩けそうもない。
「一体……なんなの?」
この後、私が終電も逃したのはいうまでもない。
そして、この数日後の結婚式当日――
私は予告通り、髪の長い人物に殺されてしまった。
…………
……
夕日色に染まるシエルの部屋――
ずっと目を閉じたまま動かないシエルを見下ろす。
「おい、いつまで寝てんだよ」
前髪をサラりとすくうと、近付いてくる魔力と足音を感じてシエルから手を放した。
ドアが開くと、浮かない顔のシエルの親友のメイという女が顔を出した。
メイは、シエルを見ると眉をしかめて口を開けた。
「カミヅキ講師、シエルの様子はどうですか?」
毎日顔を合わすせいで、最初の方は交わしていた形式的な挨拶も、いつの間にか割愛するようになった。
「変わりない」
俺はベッド横に出していた、自分用のロッキングチェアに腰をかけ、軋む音を響かす。
「やっぱり……おかしいよ……。もう、3か月も経ってるのに……」
メイは眉を下げ、今にも泣きそうな目をしてこの部屋に足を踏み入れる。
「……2回も魔力の覚醒をするなんて、理論上無いって学園長も言っていた。なのに、どうしてシエルだけ……」
2回目の覚醒。
そりゃ理論上おかしいだろ。
俺も聞いた事がないし、そんなのはこの世に無いと思う。
でも、シエルは何もおかしくない。
シエルは……
一度たりとも、魔力の覚醒なんてしていないのだから……




