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【大賞受賞作】私を殺したのは、大魔法使い様ですか?~あなたがくれた幸せの呪い~  作者: 花澄そう


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不安定な魔力3


「どうしたんですか?」

私は警戒心たっぷりで聞いてしまう。


「いつもこんな時間まで働いてんのか?」

「えっ……はい」

「ふぅん」

ん?なんだろう。なんか不満そう?


というか、まさかこの人、私を待ってた……?

もうすぐ日付が変わる時間なんだけど……


前回は偶然通りかかっただけみたいだったけど、今日の様子は明らかに待ち伏せに見える。


私の考えすぎかな……?



ジッと私の手を見ているなと思ったら、突然手首を掴まれた。

「えっ!?」

心臓が跳ね上がる。


「やせ細ってんじゃん。ちゃんと食ってんのか?」

前も思ったけど、なんてデリカシーの無い人だろう。

当たり前みたいにズカズカとプライバシー領域に足を突っ込んでくる。


「こんなになるまで働くんじゃねぇよ」

「せ、生活のためなので」

やせ細ってるって、私ずっとこの体型なんだけど。

1日3食キッチリと食べてる普通の人たちと比べないでほしい。


「嘘だ」

「え」


目の前の美男子は、怒りを抑えきれない様子で首を傾け、冷たく見下すように続けた。


「……あの、クソ親のせいだろ?」

その言葉を聞いた瞬間、一瞬で寒気が走った。



なんで!?

この人に両親の話をした事なんてない。

そもそも、誰にも詳しく話したことなんてないのに。


どうして知ってるの!?


「私の両親を知ってるの……?」


私は身を守るように、二の腕を掴む。


まさか……両親の回し者?

それなら、一体何のために……?


「お前が話たんだろ。いや、お前か……?」

美男子は、自問自答するように訳の分からないことを呟き、空を仰いだ。

その様子に、警戒心から心臓がバクバクと音を立てる。



やがて視線が戻り、無表情のままグッと私に近づくと、静かに目を覗き込んだ。

そして、とんでもない事を口にしてきた。


「殺してやろうか?」

「え……」

「お前を苦しめる奴ら、全員」

そんな物騒なセリフに、変な汗が出てくるのが分かった。


私を……苦しめる人、全員……?

殺す……?


え……っ?


一瞬で鮮明に浮かんできた両親の顔に、ぶんぶんと頭を振る。


「な、何言って……」

「俺なら出来る」


美男子は、堂々とした風にそんな現実離れしたような事を言ってのけるから、思わずゴクリとつばを飲み込んだ。



「へ、変な事言わないで下さい!こういうの、冗談でもよくないと思いますよ!」


「冗談じゃねぇよ。お前はすぐ大事な時に冗談だって言うな」

「えっ?私?」

そんな話、した事あったかな?


「とりあえず、私は大丈夫ですから。もうこんな生活……慣れてるので」

疲れでクラつき、ひたいに手を当てた時、胃がさらに痛みを増している事に気付いた。


「は?慣れんじゃねぇよ!」

この人、怖いのか優しいのか、一体どっちなんだろう。

本当におかしな人。


とりあえず早く帰って、今日こそはある程度寝たい。


「お前はそれでいいのかよ!」

「いい……とか……そんなの……」

いいわけ無い。

でも、望んだ所で悲しくなるだけだから……


「これでも前よりはマシになった方なんです。それに私、もうすぐ結婚するんです。そしたら……こんな生活も、少しは良くなるかもしれな……」

そう。結婚したら支え合える人が出来る。

包容力もありそうなあの人となら、もしかして……きっと……


「……は?結婚だ!?」


その瞬間、美男子の目が一気に吊り上がり、背後の大理石の壁をダン!と強く叩いた。


「今、結婚って言ったか!?」

その行動に驚いて、私は目を見開いた。

「えっ……?」


会社帰りの人たちが、ちらっとこちらを横目で見ながら通り過ぎていく。

そのことが恥ずかしいと思った次の瞬間――彼は両手を使って、私を壁際に追い込むように挟み込んだ。


「お前、まさかそいつの事が好きなのか!?」

「えっ……!?」

な、なんでそんな事を聞くの?

というか近い!!


「どうなんだ!」

「えっ、好き……とかじゃないけど……。でもいい人で……」

「いい人?お前……それだけで結婚なんてすんのかよ!」


同じことを友人にも言われた。

でも、もうこんな毎日はうんざりで、辛くて……早く何かを変えたかった。


話をして知った。

婚約者である彼も、私と同じような気持ちだって。

だから、お互い『好き』とかではないけど、今の生活を変える為にすぐに結婚をすることになった。


今よりは幸せになれるという、希望を抱いて……



「結婚なんて……するなっ!」

その時、さっきまで黒かった彼の瞳が、突然寒色(かんしょく)に変わったのが見えた。

目の錯覚かと思い、何度か瞬きをしたが変わらない。



「な、なんで、会ったばかりのあなたにそんな事言われなきゃならないの!?もう終電出ちゃうから帰らせて下さい!」

彼と壁で板挟みになっている私は、勢いよく抜け出す。


「待て!」

すぐに腕を掴まれて振り返る。


「結婚しないって約束しねぇんだったら、一生帰さない!」

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