不安定な魔力1
やっとお昼休憩だ。
もう昼と言えるのか分からないような時間だけど……
せめて今日は天気がいいから外で食べよう。
そう思い、手作りの塩むすびを持って会社の建物から出たその時、知らない番号から電話がかかってきた。
不思議に思いながら電話に出ると――
「聞いたわよ。結婚するんだってね?」
その声を聞いた瞬間、私の体が震え始めた。
「親の私たちを呼ばないなんてどういうつもり!?」
……どうして?なんで、そんなこと知ってるの?
っというか、連絡しないっていう約束はどこに行ったの?
「誰のおかげでそこまで育ったと思ってるんだ!タダ飯食わせてやってただろうが!この恩知らずが!!本当、お前は感謝というのを知らないね!!」
恩知らず……?感謝……?
あんたたちに、どこに感謝する所があるっていうの?
何かと理由を付けて私をサンドバック代わりしたり、まともにご飯も食べさせてもらえ無かったり、勉強より家事を優先させられたり、服だっていつもボロボロだった。
15歳になって働くようになってからは、家に全額の給料を入れさせられていた。
一緒に住んでいた頃は、友達の親とは違うなとは感じていたけど、それでも『うちとは違う』くらいにしか思っていなかった。
でも、離れてみてやっと気づいた。
自分の両親は、思っていた以上に『かなりおかしかった』んだと。
今まで生きて来て楽しいと思った事なんて一度も無かった。
死にたいと思う事なんてしょっちゅう。
でも、死ぬ勇気もなくて……
そんな中、奇跡的に割の良い給料が出る会社の採用が決まった。
でもそのことは両親には告げず、残業をたくさんして、今まで以上に家にお金を入れるから、『家を出て連絡を一切取らないことを認めてほしい』とお願いした。
お金に目がくらんだ両親は、あっさり二つ返事をしてくれた。
なのに……これは一体どういう事?
やっと縁が切れたと思ったのに。
当たり前みたいに電話をかけてくるなんて、おかしいって頭ではわかっているのに、この声を聞くと何も言い返せなくなる自分が情けなくてたまらない。
「で、式には何人くらい参加するんだい?」
電話越しに飛んできた謎の質問に、不思議に思いながら人数を伝えると、「ふぅん……へぇ……。まぁまぁね」
と、やたら嬉しそうな声が返ってきた。
「とにかく、今すぐ招待状を送りな!もし送ってこなかったら式場で大暴れしてやるからな!」
脅し?そんなことをして、恥ずかしくないの?
……でも、本当にやりかねない。
この人たちは目的のためなら平気でそういうことをする。
その目的は、一体なんなんだろう?
私には一切興味無いにはずなのに……
震える手で母親との電話を切った私は、魂が抜けたような体で、ふらふらと社内に戻った。
大きな吹き抜けがあるエントランスへ入ると、普段めったに顔を見ない取締役たちがずらりと並んでいるのが見えた。
「え……?」
不思議に思ってぼんやり立ち尽くしていると、受付嬢たちが声をひそめて慌ただしく指示を出す。
「ちょっと、ぼーっとしてないで下がって!」
受付嬢に促されて、私は端に追いやられながら壁際から様子を見守った。
何事……?




