ついに進級試験5
…………
……
どうしよう……
ついにメイにネックレスの存在がバレてしまった……
『何これ?』と聞かれて、咄嗟に『学園で買ったもの』って答えたけど……絶対怪しいよね……
だって、普段からそういうのを売っているお店にすら入らないし、お金が全然無いのも知っているから。
でも、メイはその事に関しては深く追求してこなかった。
……なんで?
「それでは本日のパーティの主役、タチバナ・シエルさんとジョウガサキ・アランさんに登場していただきましょう。みなさん、盛大な拍手でお迎えください!」
アナウンスが響いた瞬間、考え込んでいた私は現実に引き戻された。
突然、大きな音楽が鳴り響く。
「はい」
そう言われて見ると、隣に立つ正装をしたアランが私に手を差し出す様子が映った。
その瞬間、パーティ会場のステージ裏で入場のタイミングを待っていたことを思い出した。
「どうぞ、お手を。お姫様」
そんな恥ずかしいセリフを、恥ずかしげもなくサラっと言ってのけてしまう所がアランらしい。
普段と違ってアンティークなグレーのスーツが、とてもよく似合っている。
悔しいけど、カッコイイな。
ディオンとの約束もあるし、アランをほぼ振っている相手ということもあって、私はこの手を取るわけにはいかない。一応、今日はディオン不在の日だけど。
アランは、いつになったら諦めてくれるんだろう……
気持ちは嬉しいし、時々、話していると時間を忘れてしまうほど楽しい。
でも……どうしても特別な異性として見ることはできない。
それに、大前提として――
復讐の事を考えると、恋愛はただの邪魔でしかない。
そんな事を考えている間に、アランが私の手を優しくすくい取った。
「ちょっと……!」
そしてそのまま、私をステージ側に引っ張るようにして歩き出した。
「行こう」
ステージの明かりが私の顔を照らした瞬間、これまで感じていた不安が再び胸に蘇り、思わず立ち止まってしまった。
『お前にドレスなんて似合わねぇっつーの』
『ミジンコに真珠じゃない?鏡見たらぁ?』
『また調子に乗って……』
未だにまだ陰口を言われている。
その人達が、こんな衣装負けした私の姿を見てなんて思うのか、想像するだけで怖くなる。
「シエルちゃん?」
「アラン……やっぱり私……」
こんなに素敵なドレスを着て、全校生徒の前に立つなんて、やっぱ無理だ。
メイたちは綺麗だって言ってくれたけど、それは友人ならではの言葉に決まってる。
「なんや緊張してるんか?」
首を振ってから覗き込むアランをチラっと見る。
「ああ……。そういう事か。なら、出た方が早いな」
「えっ」
「行くで!」
アランは優しく笑いながら、私を励ますように引っ張り、ステージへと誘った。
「ちょっとアラン!」
すると、すぐにステージの眩しい照明が私を包み込んだ――
「え……嘘っ」
「かわいい~」
「超綺麗……」
「ヤバ、いつも以上に可愛いんだけど……」
周りからそんな声が聞こえ、閉じていた目をゆっくりと開ける。
「見てみ。シエルちゃんを見るあの子らの顔を。憧れの目に見えへん?」
アランの言葉を受けて見てみると、確かに私に向かう目が輝いているように見えた。
「あれは、それだけシエルちゃんが可愛いって証拠や」
白い歯を出し言われたアランの言葉に、まるで魔法がかかったみたいに不安が消えていく。
「だからもっと自信持ってええんや。可愛いのは俺が保証する!」
アランに励まされるように背中をトンと叩かれて、勇気まで貰う。
そんなに顔に出てたのかな?
……優しければ優しいほどに、気持ちにこたえれない罪悪感で心が痛む。
渡されたマイクで、笑いも混ぜながら悠長に挨拶をするアランは、もうどっからどう見ても学園の人気物だった。
そんな姿を見ながら、本当はこんな人と人生を共にしたら、きっと幸せなんだろうな……と思った。




