進級試験前9
「ちょっと、何して……」
再び押し倒されたと分かって慌てて起き上がろうとしたけど、また肩を押されて呆気なく背中をソファに預けてしまう。
「だから、さっきの続きをすんだよ。何回言わせんだ」
「さっきの続きって……」
「また質問かよ。ほんと懲りねぇな」
無遠慮に私の足を割って来たディオンは、片手で自分のシャツのボタンを外しながら私を見下ろしている。
その様子は異様なほどに色気を纏っていて、思わず生唾を飲み込んでしまった。
「どうせ……分かってんだろ?」
髪をかきあげ、大人の男性らしい低く落ち着いた声が落ちて来て、心臓がバクバクと酷い音を立てる。
「わ、わ、分からないよ」
ディオンがこんな事をするなんて。
「ふぅん。じゃあ、なんでさっきからビクビクしてんだよ」
「えっ、ビクビクなんか……」
「へぇ……そうか」
ディオンは自分のシャツのボタンを外すのを止め、そっと私の太ももを掴んだ。
その瞬間、自分でもハッキリ分かるくらいにビクっと震えてしまった。
「嘘つき」
囁くようにと言われ、更には笑われる。
なのに屈辱を感じる間もなく、太ももにあった手がじらすように私の足の付け根側に滑って行く。
そんな状況に、慌てて両手の手の平をディオンに向ける。
「ま、待って!ちゃんと、は、話をしよう!」
「は?」
「む、無防備だからって、こんなのおかしいよ!」
「……お前さ、いつも思うけど、俺が男だって分かってんのかよ」
「えっ……?わかってるに決まってんじゃん。どう見ても女の人には見えないし」
めちゃくちゃ綺麗だけど。
「ちげーよ馬鹿!『男』だって意識してんのかって言ってんだよ」
男……
意識……?
どうしよう。ディオンの言いたい事がサッパリ分からない。
「全然わかってねぇって顔だな。お前が隙だらけで無防備なのは、俺をなめてかかってるからだろ」
なめてかかってる!?私が!?
「あんな風に顔近づけたり、俺の前でグースカ寝たり……」
「別に……なめてなんて……」
「いいや、お前はなめてる。ジョウガサキ・アランも……あの胡散臭い顔が貼りついてるサオトメ・ロレンツォって奴に対してもだ!お前は男に警戒心が無さすぎんだよ!だからこんな事になるんだろ!完璧に自業自得だ!」
吊り上げた目のディオンは、私の顔よりも少し下側に手を伸ばして来る。
その手の角度に、ネックレスを強引に取られてしまうと思った。
でも、そうじゃなく――
その手は私の胸をわし掴んだ。




