進級試験前6
ディオンのその言葉に、それまで惚けていた私の意識が一気に覚醒した。
勢いよく体を起こし、すぐにソファの端に背中を押し付けるようにして距離を取る。
「さ、触らないで!!」
咄嗟に胸元を押さえ、ネックレスを隠すようにぎゅっと握りしめた。
どっ、どうしよう!
今……絶対見られた、よね?
私の様子に、ディオンは分かりやすい位に片眉を上げ、見透かすような目で見てくる。
「おい、それはなんだ?」
そう聞かれて胸をギクっとさせた。
「それ、普通のネックレスじゃねえな」
その質問に、一瞬で逃げ出したくなったけど、逃げようとしたところで相手はディオンだ。
その行動に意味がない事くらい想像するまでもない。
「……こ、これは……」
急いで言い訳を考える私に、ディオンは逃げ道を塞いでくる。
「学園の物じゃねぇな。それを一体どこで手に入れたんだ?」
「うっ……」
やっぱり、ディオンに適当な嘘なんて通じそうにない。
なら、言うしかない?
本当は絶対に持っていてはいけない私物を、この年まで隠し持っていたことを……
ディオンは講師なのに、生徒が絶対に入ってはいけない書庫に入れてくれた。
秘密を分かち合うって意味では、言っても大丈夫かもしれない。
どちらにしても、ここまでバレてるのに、ディオンに隠し通すのは無理な話だろう。
だったら、潔く話してしまった方が……
「絶対……誰にも言わない?」
「言うなって言うのなら言わねぇよ。って、俺は誰とも慣れ合わねぇからわざわざ言う奴なんていねぇけど」
ディオンは冷酷で訳の分からない奴だけど、今の所、言った事は守る人だと思ってる。
だから言ってもいい、よね……?
無理やり自分の中で納得をさせてから、観念した気持ちで口を開ける。
「実はこれ、小さい頃に親からお守りとしてもらった物なの」
「え?親?」
「……うん」
「へぇ、凄げぇな。その年まで学園にバレねぇとか。衣類さえもこの学園には持ち入れないのに」
ディオンは目を丸くして驚いた。
「そうらしいんだけど……入園検査の時、タンクトップの中に入ってたから気付かれなかったみたいなの。私も、どうせすぐに気付かれて取り上げられるんだと思ってたんだけど、運よくこの年までバレなくて……」
「確か、5歳以上の女子は、全部剥いてまでして入園検査しねぇんだったな。まさか、学園側も下着姿の中に私物を隠す幼児がいるなんて思ってもしなかったんだろうな……」
「うん……」
その時、突然ディオンが溜め息をついて額に手を当てて目を向けてくる。
そして、手をこちらに差し出してきた。
「そのネックレス貸せ」
その台詞に、心の奥底で焦りが湧いた。
「え?……なんで?」




