進級試験前4
「ねぇ、やっぱり昨日、私が何か言ったんでしょ?」
「は?だから何も言ってねぇって……」
「絶対違う!だって今日のディオンなんかおかしいもん!それしか考えられ……」
「煩せぇよ、離せ!」
掴んでいた手を振りほどかれて、胸が苦しくなる。
昨日、凄く優しくて、凄く嬉しかった。
心の距離が一気に縮まった気がしていたのに……全部、私の勘違いだった?
それとも……ただ寝不足なだけなの?
どちらにしても、今は出直した方がいいのかも。
「ごめん。私が出て行くから」
低い声でそう言って立ち上がると、ディオンは私を確認するように首だけ振り向く。
「あんまり寝てないんでしょ?私のせい、だよね。昨日は本当にありがとう……。ただ、そうお礼を言いたかっただけなの。ディオンが一緒にいてくれて、嬉しかったから……」
そう言うと、ムッとした顔で自分の首の後ろに手を回した。
ドア前から一歩も動く様子もないディオンの手を取り、ソファ側に手を引こうとした。
その時――
「ん?」
私よりも温かい体温が手の平に伝わった。
「あれ?ディオン……もしかして熱あるの?」
ディオンの前に回って首に手を伸ばす。
私が首元に触れた瞬間、驚いたように目を見開いて一瞬ビクっとした。
ディオンの顔を見上げると、ディオンの顔の血色がいつもよりも良く感じた。
「やっぱり、熱あるんじゃない?頭痛とかはないの?」
手のひらで頬を触ってみると、やっぱり少し熱を感じる。
「ベタベタ触んじゃねぇよ」
少し嫌がってはいるけど、かまってなんてられない。
途中から自分でも寒さなんて忘れていたけど、ディオンはずっと私に付き合わせてくれていたんだよね。そのせいかも……
「だって、なんか……熱いし……。うーん、でもやっぱりおでこじゃないと分かりにくいな」
私は背の高いディオンの後頭部に手を回し、つま先立ちで顔を自分の方に引き寄せた。
額を合わせようとグンと力を込めて背伸びするけど――それでも全然届かない。
必死におでこで熱を測ろうとする私に、ディオンは目を見開いて問いかけた。
「お前、何してんだ?」
「おでこで熱を測ろうと……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、ディオンの雰囲気が変わった気がした。
「昨日も思ったけど……そろそろ自覚した方がいいんじゃねぇか」
据わった目が、まっすぐに私を射抜く。
「……え?なんの?」
「お前が……馬鹿で、呆れるほどに無防備だってことだよ」
その目は、まるで獲物を捕まえる寸前の猛獣のようだった。
ディオンの言葉の意味は分からなかったけど、体が本能的に危険を察知したのか、一歩だけ後ずさる。
「な、何?」
すると、まるで逃がさないとばかりの手が伸びてきて、力強く背中をソファに押し付けられた。
「きゃっ!!」
驚く間もなく、ディオンが私を組み敷くように覆いかぶさってきた。
「ディオン!?」
えっ!?何!?
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