展望台5
今日、一人で泣いているあいつを見た時、胸が張り裂けそうで、放っておくなんて出来なかった。
あいつを泣かせた原因が心底気になる。
分からない事があるなんて吐きそうなほどに気持ち悪りぃのに、魔法で吐かせる事も、シエルに無理に言わせる事も出来なかった。
そんな簡単なことに躊躇う自分に自分に苛立ちを覚えながら、片手で顔を覆った。
この得体の知れない感情が、鬱陶しくて、煩わしくて
……恐ろしい。
こいつがスパイだという証拠は見つからなかったが、こんな感情を抱かせる存在そのものが、恐ろしくてたまらない。
なら――
「……殺るか?……それとも、見えねぇ所に隔離するか……」
心の底から漏れた言葉が小さな部屋に響く。
俺は、躊躇う自分を心の奥に封じ込め、奮い立たすようにしてシエルの首に手を伸ばした。
伸ばした手がシエルの首元に触れた瞬間、
「ディオン……」
不意に名前を呼ばれた。
一瞬、手が止まり、目を大きく見開く。
「……なんだよ、起きてたのか?」
そう問いかけるが、シエルは目を閉じたまま、ヘラっと笑みを浮かべる。
「……がと」
かすれた声で何かを呟いたかと思えば、その後は人間の言葉とは思えないような音をムニャムニャと発した。
「……寝言、か?」
驚かせやがって、と軽くため息をつき、俺はシエルが横になっているベッドの端に腰を下ろす。
見下ろせば、穏やかな寝顔が視界に入る。
「馬鹿みたいに幸せそうな顔をしやがって……あーあ。なんか、殺る気が失せたな」
言葉とは裏腹に、どこかでホッとしている自分がいるのが分かる。
月の光が窓から差し込み、シエルの顔を優しく照らしている。
その光景に、吸い寄せられるように目がいく。
ふいに手をついてベッドが軋む音を立てた。
顔に垂れた長い髪を指ですくって耳に髪をかけると、シエルは「う……ん……」と小さな声をあげた。
まただ。
こんなにも、こいつに触れたくなるのはどうしてだろう。
こんなにも……
「もう……知らね……」
俺は理性を手放すように、ゆっくりとシエルとの距離を縮めていった。
ああ…………やっぱ、どうかしてる。
眉間に皺を寄せ、混乱を振り払うように、俺は――
「全部、お前が悪い」
シエルの唇を奪った。
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