展望台1
それは、ディオンの魔法が切れてきいるというのもあるけど……こんな気持ちのままであの場にいるのが申し訳なく感じたからだ。
途中までは無理をしてでも行くつもりだった。
アンカーである自分だけが行かないなんて、どんな理由を付けても気を使わせてしまいそうで。
だからこそ久しぶりにお気に入りのワンピースを着て、髪も巻いてもらい、可愛いお化粧までしてもらった。
なのに……
「……無駄になっちゃった」
誰もいない展望台には、2つの月が輝いている。
その光は、私の白いワンピースとカーディガンを眩しいくらいに輝かせている。
ここから見える景色は、唯一外の景色。
学園は木々で囲まれていて辺りには建物もない。
でも、この展望階からならスカイツリーらしき建物や高そうな建物の先端が見える。
こっちの世界に来てから、閉ざされたあの自宅と学園の中しか知らない。
だから時々、こうして展望台に来ては、遠くに見える景色の向こうに、見たことのない街や人々を勝手に思い描く。
そうでもしないと、時々息が詰まりそうになるから。
「ふぅ……」
溜息とともに、書庫で読んだ本の内容が浮かんでくる。
――平行世界を渡る理論。
あの本には、平行世界の存在や移動の可能性について書かれていた。
『平行世界は存在する。理論上、魔力に長けた者なら越えることも不可能ではない』
その辺りまでは胸を躍らせながらページを進めていたけれど……
たった一文で、私は奈落の底に突き落とされた。
『長年、魔法研究者たちが研究を続けているが、未だ実現できた者はいない』
研究者たちの苦悩が綴られた内容に、目の前が真っ暗になった。
結局、まだ誰一人として平行世界へ行くことは叶っていない。
ちなみに、前世という概念については書かれていなかった。
研究すらされていないのか、生まれ変わりについて触れている本も一冊も見つからなかった。
やっぱり、前世に戻るなんて不可能なんだろう。
僅かな希望だった平行世界への移動も、現時点では――
『復讐は不可能』という烙印を押されたのも同然だった。
その事実がショックで、あの時、私は放心状態に……
それでも、魔法が存在するこの世界ならなんとかなるかもしれない。
そう思いたかったけれど……
たった10年ちょっと魔法を習っただけの私が、何百年も研究されてきたことを実現させるなんて、無理に決まっている。
でも、もしかして……
研究者ではなく、世界でもトップクラスの魔力を持つ『大魔法使い』なら……
過去に『大魔法使い』について調べた事があった。
でも『大魔法使い』というのは役職ではなく、魔力に優れた者に与えられる称号。
だから、個人情報保護の観点からか、詳しい情報を得ることはできなかった。
図書館にある本の情報で分かったのは、大魔法使いは現在、世界に2人しかいないこと。
そのうち1人は、NIHONではなく、世界一の国にいるらしいということ。それだけ。
なら、もうこの際、卒業したら大魔法使いを探す旅にでも出てみる……なんてのはどうだろう?
見つけたら研究者になってもらえないか交渉をして……
なんて。なんだか途方もない話だ。




