魔法会16
クリフおじさんがズイっと顔を出して聞くと、審査協会会長はニコリと笑ってから静かに頷いた。
「そうだね。そういう事になるね」
クリフおじさんは審査協会会長の言葉を聞いてから、信じられないというような目でゆっくりと私を見た。
そしてクリフおじさんは静かにウインクすると、マイクを手に空に向かって叫んだ。
「Fクラスの優勝ーー!!」
その声がグラウンド全体に響き渡った瞬間、クラスメイトたちは一斉に立ち上がり、歓声を上げながら駆け寄ってきた。
「シエルお姉ちゃん凄いーー!!」
「やったー!」
「優勝だよ!信じられない!」
「ママとパパに見てもらえる!!」
「プレミアム食べ放題だ!!」
抱きつかれながらも、私はまだ状況が信じられず、夢の中にいるような気分だった。
「優勝したの?……本当に?」
まだ全然実感が湧かない私はルイーゼに聞く。
「さっき言ってたでしょ。ほら、証拠にあそこを見て」
ルイーゼが指さす空を見上げると、そこにはFクラスのシンボルカラーである、黄色の花火が上がっていた。
毎年、優勝したクラスのシンボルカラーの花火が、この広い空に上がる。
私の瞳に映る空は、紛れもなくFクラスが優勝したこと示していた。
奥が少し赤くグラデーションがかっている冬の空に、今年はキラキラと輝く黄色の花火が休みなく上がっていく。
ふと講師達がいるテントに目をやると、腕を組んだディオンと目が合った。
『どうせ優勝なんて出来ない』
そう言ってたディオンを見返した気分で視線を送ったのに、ディオンは悔しがるどころか、どこか優しく穏やかな目でこちらを見返した。
その表情に驚いて、胸の中が妙にざわつく。
「……え?」
思わず声にならない言葉が漏れた。
「優勝おめでとうございます。今のお気持ちはいかがですか?」
突然の声に顔を向けると、目の前には小さな丸いボールが浮かんでいた。
「えっ!?」
驚いたと同時に、そのボールにレンズのようなものが見えた。
それがカメラなんだと知る。
え?もう、撮影されているの!?
全然心の準備とか出来ていないのに。
「えっと……気持ち……」
考えがまとまらないまま、ぎこちなく答えようとして――その時、ふと頭をよぎった。
これ、お父さんもお母さんも見てるんだよね?
今の私の姿を見たら、大きくなったねって、少しは喜んでくれるかな。
それとも……
もうどうでもいいって思ってたりして……
手紙は頻繁にくれているけど、送金は昔から無いに近い。
他の子たちは誕生日になったら学園口座に沢山の送金があるのに……私にははそんなのは無い。
本当は、ただお金に困ってるだけかもしれない。
けど、でも、そんな事情なんて知らない。
顔が見れない、会えないから、まだ私の事を愛してくれているのかと不安になる……
「パパ、ママ……」
会いたい……
グッと胸が熱くなって目頭に熱が帯びてきた。
その時、毎年魔法会の前に講師から聞かされる言葉が脳裏をよぎった。
『いいですか?優勝時の収録では、悲しい発言や学園内の情報を暴露することはやめてください。そうした場合、放送されなくなってしまいます。両親にちゃんと自分達の姿を見せたいなら、その点に十分に気を付けてくださいね』
そうだ。今、泣いちゃ駄目だ。
頭をブンブンと振り、必死に気持ちを切り替える。
「ゆ……優勝出来て、とても嬉しかったです!これもみんなで頑張ったからだと思います!」
「そうですか。優勝の秘訣のようなものはありますか?」
「優勝の秘訣……」
考え込むけれど、正直分からない。
練習は確かに頑張ったけど……
その時、丸いカメラのレンズが私だけを映していることに気づいてハッとする。
「それはよく分からないんですけど、あえて言うならクラスメイトの仲の良さかもしれません」
「仲の良さ、ですか?」
「はい。年齢は本当にバラバラなんですけど、困った時は助け合って、嬉しい事は分かち合える。そんな仲間だからこそ一致団結して優勝出来たんだと思います!」
そう言って、私は笑顔を作りながらクラスメイトを手招きして呼んだ。
この後、無事にクラスメイト全員の様子が全国に放送されたそうだ。
夜、展望台――
クラスメイトたちは、貰ったばかりのプレミアムバッジを嬉しそうにクラスバッジの横に付けて、お祭り騒ぎで食堂へと向かった。
――私、一人を除いて。




