魔法会15
「――Sクラスの勝ちです」
その言葉を聞いて、愕然とした。
そして、すぐに不服感が湧き上がってきた。
確かに、Sクラスの宝石はすごく綺麗だ。
でも、チラッと見ただけで即決できるほどの差があるようには思えなかったからだ。
かといって、いくら不満を言ったところで結果は覆らない。
優勝はSクラス。……それが現実なんだ。
私のせいで、クラスのみんなも、全国放送に出られなくなったし、楽しみにしていたプレミアムメニューの食べ放題もなくなってしまった……
ごめん、みんな……
心の中でそう呟いた時、クリフおじさんが続ける。
「……そして2位はFクラスになりま……」
……悔しい。本当に……
今回こそは優勝を狙えそうだったのに……
その時……
「待ってください!」
スピーカーから年配の男性の声が飛んで来た。
歓声が沸いていたグラウンドが、その声に一瞬で静まり返る。
何事かと、みんなが視線を向ける先に立っていたのは、審査委員会の会長だった。
会長は手を上げて、ゆっくりと口を開く。
「その宝石、私に審査をさせていただきたい」
その言葉に驚くと、目の前のクリフおじさんは、キョトンとした顔でマヌケな声を出した。
「え?審査?……なんで?」
…………
……
再審査と言われて、学園長、審査員、役員などがいるテントにSクラスの選手と向かうと、すぐに再審査が始まった。
私の出した宝石を持つルーペ片手の審査協会会長は、眉をしかめて言う。
「ああ、やっぱり。……これはルチルだね」
「ルチル?なんだそれは」
丸い眼鏡を指でグッと上げた学園長は、審査協会会長に聞く。
「ルチルは金鉱石です。今発見されている中で一番の光の屈折率を誇る宝石になりますね」
「1番光の屈折率が高いという事は……輝きも1番高いという事か?」
「その通りです。みなさん1番輝きが高いのはダイヤモンドと思いがちですが、本当はダイヤモンドが1番ではありません」
そう言うとルーペを机に置いてSクラスの宝石と、私が出した宝石を持ち上げた。
「でも、ご覧のようにルチルにはダイヤモンドのような透明度はありません。輝きの種類も全然違います。でも、輝きを生み出す光の屈折率で言うとダイヤモンドよりもルチルの方が僅かに上です」
隣の学園長は、その説明を聞いて納得したような声を出した。
「ほう、なるほど」
「石をこれに変えたというとは、Fクラスの方はルチルの存在を知っていたのではないですか?」
「……はい、一応。正直、名前までは憶えてはいなかったのですが……存在は知っていました」
「ふむ。それはどこで?」
「ダイヤモンドよりも輝く鉱石がある、というのを図書館の本で読んだんです」
調べ物をしていた時、たまたま目にしただけの知識なんだけど……
私の返事を聞いた審査協会会長は、ゆっくりと頷き、どこか満足げに目を細めた。
その宝石を出そう、とまでは思ってはいなかった。
でもその存在を知っていたから『ダイヤモンド』という、明確なものはイメージしなかった。
「魔法は、知っているのと知らないのとでは結果はかなり変わってくる。
大袈裟ではなく、魔力効率さえも違ってくる。知識というものは大いなる魔力と同じくらいの力があるんだよ。知識もまた力なり……だね」
十数年、私は好きでもない難しい本をずっと読み続けている。
なのに悲しい事に、そんな行動は今の所なんの意味も成していなかった。
だけど――今、違う方向ではあるけど、初めて得た知識が役に立ったんだと思った。
「え?じゃあ……、もしかして1位はSクラスではなく、Fクラスということに?」




