魔法会12
…………
……
「元気ないね。シエルお姉ちゃん大丈夫?」
Fクラス待機席で心配するクラスメイトの顔が覗く。
「あ、うん……大丈夫だよ」
書庫で受けたショックが全く抜けない。
あの本の内容が頭の中をグルグル回って……全然他の事を考えられない。
今更だけど、ディオンの言う通り、代わりに誰か出た方がFクラスにとって良かったのかもしれない。
だって――
最下位に近かったFクラスが、最終戦手前にして、まさかの1位のSクラスと僅差で2位になっていたからだ。
書庫からこっちに戻って来て、それを知った時は本当に驚いた。
何が優勝は無理、だ!ディオンめ!
でも……今、この場に立ててるのはディオンのお陰なんだよね……
目を閉じて、書庫で私に治癒魔法をかけてくれたディオンを思い出す。
『分かった。じゃあ今回だけはどうにかしてやる』
『どうにかって?』
『一時的に不調というのを感じないようにしてやる。でも、貧血や寝不足が治るわけじゃない。魔法だとそれが限界だからな』
『ありがとう。それで十分だよ』
『すぐに体が軽くなったような感じがすると思うが、根本は全く治っていない。だから無理はすんなよ』
『うん』
『無理したと判断したら……分かってるよな?』
「あ、最終戦の準備が終わりそうだね」
その言葉にグランドに視線を向けると、さっきまでボコボコにへこんでいたグランドが新品同様のまっ平になっている様子が見えた。
「ほんとだ」
立ちあがると、クラスメイトが駆け寄ってくる。
「シエルお姉ちゃんもう行くの?」
「まだだよ。呼ばれたら行くよ
「そっか。次の最終戦に勝ったら、プレミアムメニュー食べ放題だよ!」
この最終戦に私が勝てば優勝。
ちなみに魔法会の優勝クラスには、特典がある。
それは――1年間、食堂のプレミアムメニューが食べ放題だ。
食堂の食事は基本無料。
でもプレミアムというラベルが付いてるメニューは別料金がかかる。
プレミアムメニューはとても豪華で、デザートについては見た目も内容も格違いだ。
だからローレンみたいに実家が裕福でない普通の人は、誕生日とかの特別な日くらいしか食べる事はない。
ちなみに私は特別な日でも食べた事がない。万年貧乏だし。
そう、私には今まで縁のないプレミアムメニュー。
でも――
もしこの最終戦に勝てば、Fクラスのみんなも、私も、1年間プレミアムメニューが食べ放題になる!!
……なんて考えていたら、突然、責任が自分の肩にのしかかった気がしてゴクリと唾を飲み込む。
その時、スピーカーからアナウンスが流れてくる。
「最終戦の準備が完了しました。選手の皆さまはグランド真ん中へ来てください。最終戦は魔法壁を作っていませんので、応援は各クラスの待機席でお願いします」
「準備出来たって。私もドキドキしてきた」
「シエルお姉ちゃん、頑張って!」
「応援してるからね!」
私を囲むクラスメイトが目を輝かせて応援してくる。
「うん!優勝目指して頑張ってくるね!」
と笑顔で応え、背を向けた瞬間――
頭の中に書庫で見た本の内容が一瞬ちらついた。
「……っ!」
慌てて頭を振り、思い出しそうになるそれを必死に追い払う。
そして、周囲の声援に背中を押されるように、力強く足を踏み出した。
最終戦は毎回同じ内容だ。
しかも、ただの石をお題の物に変えるというごく単純な戦いだ。
でも、毎年これが結構くせ者で、思いがけないお題が出され、予想外の結果を生む出す事がある。
だから、この最終戦はある意味簡単そうで……とても難しいと言われている。
指定の場所に魔法で円を描くように並べられた台の手前に立つと、拳よりも大きく、土までついた石が台の上にポンと現れた。
その瞬間、スピーカーから大きな声が飛んで来た。
「それではさっそく、最終戦を始めたいと思います。最終戦は、毎年恒例の石をお題の物に変える対決になります。
そして今年のお題は――!!
『宝石』です!!」
その言葉に、グランド全体がザワつく。




