魔法会11
…………
……
「……い。
……おい……
おい!」
ぼんやりした視界に映るのは、険しい顔をしたディオン。
次第にハッキリとして来た意識に、私は一瞬で我に返った。
「……え……?」
「やっと気が付いたか。大丈夫か?ひでぇ顔だぞ」
「あれ?」
私……今、ショックで固まってた……?
頭に手を置いて少し前の出来事を思い出そうとすると、「何読んでたんだ?」と言われて私が手にしていた本を取り上げて来た。
「あっ」
そして、ディオンは本の表紙を見て眉をしかめた。
「平行時空・超空間の思想と移動の実現性?」
「み、見ないで!」
慌てて本に手を伸ばすと、ヒョイっと手を上げられる。
「なんだよ。書名を読んでるだけだろ」
「か、返して!」
と叫びながら席を立とうとした瞬間、頭がグラッと揺れて足元がふらついた。
「あっ……」
「おい!」
確実に倒れる――
そう思ったのに、背中にトンッと何かが当たった瞬間、ふらつきがピタリと止まった。
驚いてゆっくり瞼を開けると、逆光でステンドグラスの光を浴びたディオンの顔が視界いっぱいに映る。
「何やってんだよ。お前って本当に世話が焼けるな」
ため息混じりの声は、いつもより少し優しく聞こえた。
再び頭がグワングワンと揺れて、手を当てる。
するとディオンは私の頭の上に大きな手をかざして呟いた。
「……あぁ、貧血か……いや、寝不足もあるな。どっちもか」
確かに、昨日は一睡もしてないし、朝は緊張で何も食べれなかったのよね。
「でも、さっきまではそんなんじゃなかっただろ?何があったんだ」
答える余裕もなく、ただ目を閉じる。
「駄目か」
そう呟いたディオンは、私を再び椅子に座らせる。
「とりあえずこの後の魔法会は棄権だな。あとで俺から学園長に言っといてやる」
その言葉に、すぐに目を開いてディオンの腕を掴んだ。
「だ、だめ!そんなの!私は大丈夫だか……あっ……」
慌てて立ち上がろうとしたけど、再びふらついて頭を押さえた。
「馬鹿かよ。何してんだよ」
ディオンはため息をつくと、ぐっと肩を掴んで抱きかかえる。
「いいから、座っとけ」
「だって……」
「だってもクソもねぇだろ。そんな状態なんだから」
「私、棄権なんてしたくない」
「何をそんな必死になってんだよ。魔法会なんて、ただのお遊びだろ?別にお前が居なくなっても何も変わんねぇよ」
「そんな事ないもん!私、アンカーなんだよ!?」
「だからなんだよ。お前が居なかったら居なかったらで、どうせ誰かが代わりに出るだけだ」
「そんな無責任な事出来ないよ!いいから離して!」
肩を掴むディオンの手を振りほどこうと必死に力を込めるが、びくともしない。
「ほら、全然力入ってねぇじゃねぇか」
「うっ……」
「アンカーだかなんだか知らねぇけど、どうせ抜けてきたあの時点でFクラスは下から数えた方が早かった。だから今のような状態のお前が行ったところで勝ち目なんてねぇよ」
「わ……分からないじゃん。今年はアランがいるし!」
「は?」
瞬時にイラっとした様子に変わったディオンは、突然私の顔に手を伸ばしてくる。
そして、私の頬をガシっと掴んでヒヨコ口にした。
「ひゅ……!?」
「お前って、マジでうざいな!」
「ひぇっ!?」
今さっき介抱してくれていたはずなのに、なんで私はこんなにも頬を強く掴まれているんでしょうか。
「ひぃはいんでしゅへほ……」
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