明日を夢見て
明日を夢見ることはいいことだ。
男は深いため息をついた。
現代は人の心が荒んで、街中では犯罪が人目を憚らず横行していた。そんな世の中で自分の愛する娘を育てたくはない。男は決意した。そして素晴らしい発明品を作った。人工冬眠装置。コールドスリープだ。
これで娘を未来に送り出せば、未来の素晴らしい社会で娘は人生を謳歌できるに違いない。でも、娘だけを送り出しても彼女を保護する大人が必要だ。それには妻と自分も一緒に冬眠すればいい。未来に行ったら金もいる。それじゃあ、この人工冬眠装置をたくさん作って売り出せばいい。一緒に未来に行きたい人、そう親類たちにも声をかけよう。友人知人も、近所の人も、ご町内の人たちにも。そうして人工冬眠装置はどんどん売れた。金も入った。その噂はどんどん広まり、近隣の地方、首都、そして色々な著名人が人工冬眠装置を買い、それを喧伝した。そして著名人の身内や友人知人ものみならず、その他大勢の人がそれを買った。
男が作った人工冬眠装置は量産に量産を重ね、結果としてほぼ全ての人が未来に向けて一万年の長い眠りについた。
一万年後、皆起きた。社会は全く変わっていなかった。皆が寝ている間に社会を進化させるような人類はいなかった。みんな一緒に寝ていたのだから。
明日を夢見ることはいいことだ。ただしそのために努力と研鑽が何より必要だ。寝ていては何も生み出せない。