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砂蟲を枕に(後編)

 ディシアは研究所の子どもたちの中でも、二番目の戦闘力を誇った。度重なる実験の末、魔物の能力を自由に発現することができるようになった。すなわち、魔物の爪や翼を生やし、毒を吐き出し、人間には扱いきれない闇の魔法を制御し、聖者の肉を貪る。情緒は不安定で、まともに会話できる時間のほうが少なかったが、今は多少理性が戻ってきているようだった。


 美しい黒髪に、燃えるような赤い瞳。自在に肉体を変化できるので、大人の女性や、あるいは男性のような体つきになれるようだったが、素の状態ではメトよりも幼い風貌だったように思う。ぞっとするほどの美人で、機嫌のいいときは人に愛されるような笑顔をする少女だった。


 唾を飛ばしながら、牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。メトはそれを素手で弾いた。ディシアは翼と風魔法で空中を浮かびながら、メトを興味深そうに見ていた。薄い胸の前で腕を組む。


「なかなか豪快じゃねえの。あたしは嬉しいぜ。こうやって遊べるくらいには強くなってて」


「いったいどうしてこんなところに? 魔物の躰の中で眠ってるなんて、非常識にも程がある」


「そうやって質問して時間を稼ぐつもりか? まあいい、乗ってやる。あたしたち友達だもんなぁ?」


 ディシアはゆっくりと着地した。それから翼を収納する。牙が消え、元の美しい顔に戻った。メトは直刀の柄に触れて博士が何か言ってこないか待ったが、全く応答がなかった。徹底的に気配を隠している。もしメトと意思を疎通したら、観察力の高いディシアなら看破してくる可能性がある。


「あんなにジョットとディシアに会いたいとか言ってたのに……」


「なんか言ったか?」


「ううん、何も」


 ディシアはゆっくりと歩き出した。メトは用心深く、レッドを追えないように彼女との位置関係を変え続けた。それを見たディシアは苦笑した。


「心配するなよ。今更追えないっつの。なんか段々どうでもよくなってきたぜ」


「どうだかね。昔から嘘つきだったし」


「質問はこうだったな。こんなところで何をしてるんだ? なんで魔物の中で眠ってた? どうしたらそんな美人に? あたしは、お前も知ってる通り、半分人間で、半分魔物の躰を持ってる。食い物も、普通の人間と随分変わってしまったんだよ」


「もしかして、魔物の肉しか食べられなくなったり?」


「お。そうだよそうだよそうだよ。そうなんだよ。まあ、人間用の食事もできるけどな。魔物の肉を喰えば、その魔物の能力を継承できるってのもあるし。だからよく魔物の出没地点に出向くんだが、食事の後は眠くなるもんだ。お前もそうだろ?」


「どうだろうね」


「しかしあたしは寝相が悪いもんでね。気づいたら人里に出て人間を虐殺してた、なんてこともあるかもしれん。別にそれはそれでいいんだが、腕の良い戦士を送り込まれると厄介だし、さすがに軍隊を相手取るのは勘弁だし、良い寝床が必要なわけだよ」


「寝床って……。それが魔物の体内ってこと? 普通じゃない……」


「あたしの躰は、魔物と同化できる。魔物の体内に潜れば、同化して栄養を貰うことだってできる。呼吸をする必要もなくなる。ある程度大きな魔物なら、魔物の負担にもならねーだろうしな。まあ、起床したら内部から食い殺すんだが」


「そんなことができるのか。じゃあ、魔物の体内で過ごすのも簡単なのかな……?」


「今回は一か月くらい寝てた。ぐっすり眠れたから気分爽快だぜ。そうじゃなかったらお前も殺してたかもな」


「友達なのに?」


「おお、そういえばあたしたち親友だったな。肩組んでみる?」


「いやいいです……」


「じゃあ、そろそろ戦うか?」


「どうしてレッドさんを殺そうとしたんだ。さっきの女性……」


「ああ……」


 ディシアは地面にあぐらをかいて座った。


「むかつくからだよ。世の中には大分、出回っているみたいだがな」


「え? 何が?」


「フォーケイナの肉片だよ。棺とか呼ばれてたか? あのヘボには何の同情もねえが、同じ屋根の下で、あのクソ博士の実験を共に乗り越えた仲だ。今でもあのヘボがいいように利用されてるのが許せねえのさ」


「え? フォーケイナの棺って……。レッドさんと何が関係あるんだ」


「お前……。世間を練り歩いてるんじゃねえのか。どうして何も知らねえの?」


 メトは首を振った。


「教えてくれ、ディシア。私は世間知らずだ。何か……、大事なことを見落としているのか?」


 ディシアは深くため息をついた。


「この魯鈍が。……まあいい。教えてやるよ。フォーケイナの能力は覚えているか?」


「無限再生能力」


「そう。そしてゼロの能力は」


「他人の持っている能力を、抽出する能力。たとえば炎魔法が得意な奴から、炎魔法に長じるという能力を抽出し、他人にその能力を渡すことができる」


「そうそう。抽出した能力をフォーケイナに与える。フォーケイナはその能力を得る。そしてその状態のフォーケイナの肉片を切り取ると、その肉片には、その例でいくと炎魔法が得意という情報が乗っている」


「え?」


 メトは驚きのあまり停止した。フォーケイナの肉片には、ゼロの能力抽出も影響するのか。それは初耳だった。しかもそれが可能ということは。


「もしかして……。もしかして、ああ」


 メトは気づいてしまった。レッドが氷魔法と雷魔法、通常ではありえない水準の能力を有していたことを。ディシアは肩を竦めた。


「説明を続けてもいいかい、妹よ。ゼロとフォーケイナの能力を組み合わせれば、好きな能力を肉片に乗せて、それを摂取した人間を強化できる。しかもフォーケイナは無限に再生できるから在庫には困らねえ。あのクソ博士はこの二人を抱き合わせで売り飛ばした。どこの誰があの二人を飼ってるのかは知らないが、言うまでもなく、二人が生み出すフォーケイナの棺と呼ばれる肉片は、カネになる。任意の人間に百の能力を付与して超強化できるんだ。理想の戦士が完成する。国が、軍が、組織が、富豪が、こぞってカネを出すだろうよ」


「……レッドさんは、フォーケイナの棺を摂取し、能力を手に入れた……」


「あたしも研究所ではさんざんあのヘボの肉片を喰わされたからな。実験の一環とか言われてよ。大体、見ただけで同類は分かるんだ」


「私は……。落ちこぼれだった。他の四人とは違って、何の能力も得られなかった。フォーケイナの肉片も受け付けなかった。だから、その同類ってのが分からないのか……」


「そういうことか。お前は落ちこぼれだったからな。愚鈍で盲目ってのは取り消すよ。しかしまあ、アホであることは変わらねえが」


「……話を聞かないと」


「あん?」


「レッドさんから。どこでフォーケイナの棺を手に入れたのか。誰から買ったのか」


「販売元を突き止めたところで、何人経由してるか分からんし、大本に辿り着くのは不可能だろうな。だからあたしみたいに気ままに人を殺しまくればいいんだよ。フォーケイナの棺を買った奴を全員殺していけば、それを買う奴はいなくなるだろ。能力を買って強くなっても、あたしみたいな怪物に殺されたら意味がない」


「……やっぱり駄目だ。レッドさんから情報を貰う。実はレッドさん以外にも、フォーケイナの棺がばらまかれた形跡を見つけたんだ。魔物がその肉片を喰って、暴れていたことがあった」


「魔物がフォーケイナの……。へえ。もし同じように能力を継承できたら、とんでもない化け物が生まれるかもな。お前、その魔物と戦ってみたのか?」


「一体だけ。確かに普通の魔物より強かったけど」


「お前ごときにやられるってことは大したことねえんだろうな。ま、実験段階って可能性もあるか」


 ディシアはあくびをした。


「やっぱりちょっと寝足りねえかもなあ。お前、絶好の寝床を破壊しやがって。また別のを見つけないと」


「でも、駆除しないわけにはいかなかったし」


「どうせ起床したら魔物なんて全部あたしが食ってやるから、放置すればよかったのによお」


「街の人たちの為に魔物を駆除するんだ。ディシアは街ごと滅ぼしかねないだろ」


 ディシアは牙を剥き出しにして豪快に笑った。


「はっ! そんな甘ったるいことを言う奴が同じ研究所の人間だと思うと、反吐が出るな。あたしにはお前が分からねえよ。あたしもお前も、捨てられたんだぞ? 実の家族に捨てられて、博士のところに行きついたんだぞ? それでこんな体になっちまったんだぞ? 街の人間がどうとか、どうでもいいじゃねえか。もう違う存在になっちまったんだから」


「そうかもしれない。私も博士のことは許せない。けど、博士は行方不明。私を売った両親も既に亡くなってた。結局、私はこの世界そのものを憎むことはできない。あんたたちとは違ってね」


「ふっ……、そしてまた売られるのか。まあいいさ。お前の人生だ。好きに生きればいい。ただし、あたしの邪魔するなら容赦しないぜ」


「そっちこそ」


「くくく……。おい、メト。お前の腰にぶら下がってる武器、どうして抜かない?」


「これは……」


「あたし相手に得物は必要ないってか? 違うな……。あたしには分かるぜ」


 とっくにばれていたか。メトは直刀の柄に触れた。博士もにわかに脈動を始める。ディシアはくくくと無邪気な笑い声を発した。


「――ハッタリなんだろ? お前不器用だったもんなあ。怪力だけが武器のお前が、わざわざ技巧の要る武器を選択する意味がない。無理して抜刀する素振りをみせる必要はないぞ」


「ああ……、うん」


 メトは一瞬、脱力してしまった。その瞬間を見逃すディシアではなかった。いつの間にか脚を変化させており爆発音と共に跳躍、メトの首に手をかけていた。


 地面に転がされたメトに覆いかぶさる。ディシアはケタケタ笑いながら直刀を引き抜いた。博士を握る腕に血管が浮き出る。メトは手を伸ばしたが、ディシアが三本目の腕を躰から生やし、抑え込んできた。


「お前、あたしを舐め過ぎだ。さすがにこんだけ長々と話してたら気づきたくなくても気づくだろうが」


「博士をどうする気だ……!」


「それはこっちのセリフだ。お前、何やってやがるんだ。なぜさっさと殺さねえ。まさかお前が匿ってるとは思ってなかったぜ。そもそもどうしてクソ博士が武器なんかになってる」


「贖罪だ……」


「あん?」


「博士は許されざることをした……。私に……。ディシアに……。皆に……。私が博士を使って魔物を殺し、博士を役立たせる……。それで罪を贖う……!」


「はああ? 本格的にお前が分からなくなってきた。友達やめよっかな……」


「魔物を斬るたびに感じるんだ……。博士が軋む音。魔物の血を浴びて呪われていく魂。終わりが近づく気配。いずれは、博士は魔物の骸の傍で折れ、朽ち果てる……。それを想像しただけで、私は……」


 ディシアがメトの顎を掴んだ。それ以上喋れなくなる。


「満たされていく、ってか? 悪いがお前の変態趣味を尊重することはできねえな。ここで叩き割る。それで――」


 そのとき博士が動いた。見たこともない巨大な鉄槌へと一瞬で変化する。急激な重量の変化に、ディシアがよろける。その隙にメトは渾身の力で跳ね上がった。武器を取り上げ、素早く構える。博士は既に直刀へと戻っていた。


「連携ばっちしじゃねえか」


 ディシアは呆れ声で言った。メトは博士を強く握り込んだ。


「博士……。ディシアに弱点はあるの?」


《斬るつもりか? お前にできるのか?》


「殺すつもりじゃないとまともな勝負にならない」


《分かっているじゃないか。ディシアの弱点は……》


 しかしそのときディシアはふわりと浮いて、大きく後退した。そして地面にどっかと座り込む。


「行けよ」


「え?」


「お前の言ってる意味の半分も理解できねえが、お前がお前なりのやり方で博士を殺すつもりなのは分かった。それに、無傷でお前を倒すのは無理っぽいことも分かった。自由に変化する武器――今まで想像をしたこともない相手だ。お前を殺るにしても、少々対策が必要だと判断した」


「えーと……」


「次会ったら殺す。せいぜい遠く離れた土地で、人助けをするこったな」


 メトは大きく息を吐き、改めてディシアに向き直った。


「……ディシア。私は魔物退治を続けながら、フォーケイナとゼロの行方を追いたいと思ってる。もし彼らの所在が分かったら、そのときは共闘関係を築けないか?」


「そのときのあたしの気分次第だ。ほら、さっさと消えろ。あたしの気が変わるかもしれねえ」


「うん。……私以外に殺されないでね、ディシア」


「ふっ。お前にとっちゃあ、あたしも魔物みたいなもんか? 博士に殺されるのだけは勘弁だな。お前も死ぬんじゃねえぞ。つまらねえ魔物や人間に殺されたら、あたしの株まで一緒に下がる」


 メトは背を向けないように後退し、十分に距離を取ったら、一気に駆けだした。廃坑内の構造は博士が完璧に記憶していた。


 廃坑の出口で、ガイとレッドが待っていた。不安そうだったガイの表情がぱっと明るくなった。


「メトさん! 無事だったか!」


「ども、師匠」


「あ、メトちゃん……。無事でなにより」


 咳払いしたガイはレッドの反応を窺ったが、彼女はそれどころではなかったようだった。レッドはメトに詰め寄る。心配してくれていたようで、瞳が潤んでいるように見えた。


「メトさん、魔物の中にいたあの者は……。倒したんですか?」


「ううん、見逃してもらった。じきにここを出て行くと思うからちょっかいを出さないようにして」


「失礼ですが、あの者と知り合いだったように見受けられたのですが……」


 メトは咳払いした。


「事情を話してもいいけど、私のほうからも聞かせて。レッドさん、あなたの能力について……。誰から“それ”を買ったのかを」


 メトの態度に、レッドは無表情になった。そしてふっと笑う。


「どうやら、全てご存じのようで……」


「ここは危険だから、場所を変えて話をしよう。それが済んだら私たちはガンヴィを出て行く」


「分かりました」


 三人は廃坑から離れ、ガンヴィの中心部へと向かった。一応警戒していたがディシアが追ってくる気配はなかった。“大戦廻”と不世出の退治屋ガイが魔物を退治したという報せは既に街へ伝わっており、街の人間から労いの言葉をかけられた。メトはガイの陰に隠れるようにして、歓声がガイに向けられるように仕向けた。そんな様子を見ていたレッドが耳打ちしてくる。


「街の人間はガイ先生が仕事をしたと思っておられるようですが」


「それでいいよ。師匠が見守ってくれているから私も思う存分仕事ができるんだし」


「ふふ、分かりました。そういうことにしておきましょう」


 三人はメトたちが宿泊している宿に到着した。まずはディシアの正体について話した。人体実験の末、魔物の力を与えられた哀れな人間――レッドもガイも驚いていた。しかしレッドはメトが話した内容以上のことを知ろうとはしなかった。


「お察しの通り、私が持つ能力はほぼ全てが後天的なものです」


 レッドは低い声で言う。


「自前の能力は、氷魔法の才覚くらいなもので……。正直、これだけでも魔物退治に困ることはなかったのですが。とある商人から譲ってもらった丸薬を服用すると、戦士の能力を覚醒し、驚愕しました。慌てて商人にもう一度交渉すると、数十種類の丸薬を販売してくれました。この機会を逃すと二度と手に入らないと言われたので何とかカネを工面しましたが、後悔はしませんでした。様々な武器術、魔法、体術を会得し、元々得意だった氷魔法が更に強化され、大満足でした……」


「……レッドさん。話を聞いていると、何もあなたには後ろめたいことはないように思える。けれど、何か懸念点があるのかな。そういう態度に見えるけれど」


「これが正道ではない、という自覚はあります。それに、こんな画期的なモノが、表で堂々と販売されないことに違和感があったのも事実です。それと……」


「それと?」


 レッドは突然、自らの手の平に短刀を突き入れた。ぎょっとしたメトとガイだったが、彼女は平然としていた。


 短刀を引き抜く。ボトボトと血が垂れるがすぐに止まった。そして肉の再生が始まる。


「……御覧の通り、化け物じみた再生能力がいつの間にか身に付いておりまして……。別に困ることはないのですが、さすがに不気味で」


「それは、フォーケイナの能力が一部伝わったんだね」


「フォーケイナ……?」


 メトは丸薬の正体がフォーケイナの肉片であることを話した。フォーケイナもまた、人体実験の末に誕生した化け物であり、その再生能力を悪用されて肉片を切り取られ続けているであろうことを伝えた。


 レッドは口を押さえた。


「私は……。何も知らず、そんなものを……。なんと残酷なことが……」


「レッドさん。取引したその商人のことを教えてくれるかな」


「もちろんです。その商人からは色々と口止めされていたのですが……。彼は次にデイトラム聖王国の聖都に向かうと言って、二十日前に出立しました。恐らくガンヴィから北の街道へ行き、フド、ジヴィラム、ルジス山道、ゲイドと辿る経路を進んでいくでしょう。急げば途中で追いつくかもしれません」


「なるほど……。ありがとう、話してくれて」


「メトさん、最後に教えてください。ガイ先生があなたの師匠というのは、本当ですか?」


 メトとガイは顔を見合わせた。ガイは何とも言えない不安そうな顔をしていたが、メトはフフフと笑った。


「ガイは私の師匠だよ。……これでいい?」


「ええ。分かりました。くだらない質問をしてしまい申し訳ございません」


 メトとガイはその後すぐ、ガンヴィを出立した。馬を利用するのが最善だったが、ガンヴィの魔物の大量出現を嫌って馬車の運行が途絶えていたので徒歩で行くしかなかった。メトはともかくガイにとってはなかなか厳しい道程になりそうだった。


 しばらく先を行って、ガイが追い付くまで待つ数分間。メトは博士に呼びかけた。


「レッドさんの再生能力……。彼女は大丈夫なの?」


《脳まで冒されていなければ心配いらないだろう。最初に悪影響が出てくるのがそこだからな。脳を守るには特別な薬が必要だ》


「もしかして、研究所で私たちが投与されていた薬って……」


《用途は様々だが、貴様らの躰を守る為の薬もあった。全て私が自作したもので、フォーケイナとゼロを買っていった連中が同じものを用意できるとは思えないな》


「そっか。フォーケイナの棺がどれだけばらまかれているのか分からないけれど、取り返しがつかなくなる人も出てくるかもしれない。そうなる前に止めないと」


《ふん……、フォーケイナとゼロの他に、その肉片を食らう人間の心配もしているのか? 随分とお人好しだな、メト》


「ディシアとジョットの心配もしてるよ。関わった人間のことが心配になってしまうのは自然なことだと思うけどな」


《私には分からんな》


「まあ、今、一番心配なのは、あそこで死にそうになってる獣人なんだけどね……」


 息も絶え絶え、ガイがよたよたと走ってきていた。先行するメトに追いつこうと必死のようだった。


「すまない、メトちゃん。急いでいるというのに、俺なんか置いていってくれぇ……」


「大丈夫。こうすればいいし」


 メトはガイを負ぶった。慌てふためくガイを無視して走り出す。道には人気がなかったので思う存分健脚を発揮できた。体格差があったのでガイの脚が何度も地面に着きそうになり、背負い直して揺すり上げた。そのたびにガイが短い悲鳴を上げたので、メトはおかしくなって笑った。ガイもそれにつられて笑った。ほとんど馬と同じ速度で、メトとガイは次なる街へと向かった。




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