1、追放
「クラッド、アンタ役立たずすぎるからクビよ」
赤い髪の女勇者ビアンカがニヤニヤしながら言った。今はSランクパーティーの作戦会議中だ。俺は耳を疑った。
「何でだよ。俺みたいな神官はこの先の冒険じゃ、必要不可欠なはずだろ」
「キャハハハハ、バッカじゃないの、こいつぅ」
魔法使いのアルビナが馬鹿笑いする。みんなが嘲笑する。どうしたんだ、みんな。俺はこの国で最も優れたヒーラーで回復魔法なら何でも使える。魔力量だって、滅茶苦茶多いんだぜ。
「ホントに馬鹿ねー。アンタ、私たちみんな回復魔法も習得してるのよ。アンタに求めてるのは戦闘スキル。クラッドにはそれが一切なくていつも私たちがアンタを守ってるのはこの先の戦いにおいて魔王討伐に支障が生じるとしかいいようがないわ」
勇者ビアンカがにやにやしながら言う。魔法使い、戦士、僧侶、女神官、女騎士……みんな俺を嘲笑していた。嘘だろ、優しい女の子たちだと思ったのにみんな性格の悪い悪女だったのかよ!
「待ってくれ。古い書物で読んだんだ。この先の戦いにおいて俺は必要だ。君たちが危険に晒されるんだ」
「はあ、何言ってんの。ついに頭でもおかしくなったわけ? もういいでしょ、ビアンカ。こいつ追放しましょう」
「そうね。アルビナ。郷里のブラットストーン公爵家に帰りなさいな。役立たず君。プププッ」
そこで笑いが起きた。俺は彼女たちに背を向ける。もうどうなっても知らん。実家に帰れば居場所がある。優しい両親と頼もしい弟たち。故郷で平和に暮らそう。魔王は誰かが退治してくれるさ……。
「ビアンカちゃんからの手紙を読んだぞ。クラッド、お前を公爵家から追放する。後継者には弟のクラインとする」
父上は俺が帰って来ると言った。父の隣には母上もいる。
「そんな、なぜですか。父上!」
「お前は公爵家の恥晒し者だ。公爵家は実力によって後継者を決める。お前のような王国の笑い者を後継者に据えれば、公爵家の名に傷がつく」
「本当にがっかりですわね、あなた。長男だから期待していたのに……」
「そうだな。期待外れだったようだ……」
母上が見下したような視線で俺を見る。嘘だろ、人格高潔な父上と母上が俺を追放する……? 俺は後継者として貴族の社交場でも王女様たちとも仲良くしていたのに……。俺を失えば、公爵家は没落するぞ! 弟はにやにやしているし、妹も無表情で知らん顔をしている。クソッ、俺を追放すれば公爵家の財政は持たない! それが分からないのか……!
「早く荷物をまとめて出ていけ。ま、お前の代わりはリリアーナがまた産んでくれるだろうさ。さらばだ、無能な息子よ」
父上の言葉にカチンときた俺は部屋を出て行った。俺は誰からも必要とされていない……。まあ、いいさ。薬草ならたんまり持っている。薬屋にでもなろう。どこかにいい家はないかな……?