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Seasons / シーズンズ

4. 聞

作者: 高橋知秋

 これは私が体験した話じゃない…というのは変かもしれませんが。でも、体験したと言えばしてるし、してないと言えばしてない…みたいな。いや、すごい説明が難しくて…。


 私が大学生の時に入ってたサークルが、一応名目上は「漫画研究部」だったんですけれど、実態としては他のサークルに入れなかった、オタク趣味を持ってる人達が好き勝手やってるようなサークルで。そのオタク趣味もアニメとか漫画に限定されていなくて、鉄ちゃんもいたし、洋楽マニアとかメタラーの人なんかもいて。今思うとカオスとしか言いようがないんですけど。

 だけど…なんて言うんですかね、混沌の中に自然と秩序が生まれる感じというか…とにかく、ダメな方のぐちゃぐちゃさはなかったんですよ。悪い人もあまりいなかったし、それぞれが好き勝手やってるからこその空気の良さがあって、すごく雰囲気の良い場所になってて。私も良く入り浸ってたし、そこで出来た友達も何人もいて。今思えば一種理想的な環境でした。


 その中に、お決まりというかなんというか、オカルト系のオタクの人も何人かいたんですよね。普通だったらオカルト研究部みたいなものを立ち上げてたんでしょうけど、大学の中に「そういう趣味を持つ人だったらひとまず漫画研究部だろう」みたいな空気があって。なので漫画研究部の中にその人たちもいたんです。

 で、まあこれもお決まりな感じがあるんですけど、その人たちは結構いろんな心霊スポットとかに肝試しに行っていて。その人たち、なんかちょっと気難しいところがあって。

「また肝試し行ってきたんですか?」

 なんて話しかけると、

「肝試しじゃない、調査だ!」

 ってちょっとキレ気味に返ってきて。それに対して、ああ、悪い悪い、調査だよね、…みたいな会話が部室で交わされてるのが日常風景になっていました。

 とはいえそこまで付き合い辛い人たちってわけでも無くて。例えば…サークルには夏休みにやるお泊り会みたいなのがあったんですが、その時になるとその人たちが近くの心霊スポットでの肝試し…まあ心霊スポットに興味がない私たちが参加するから調査じゃなくて肝試しですよね。まあ、そういうイベントを企画したり、あとは夏あたりに夜に部室に集まって部員みんなで怪談を語る会みたいなのをやって。そんな感じでサークルを盛り上げてくれたりもしていて、それで自然とサークルの輪の中にちゃんと馴染んでいたんです。

 私もオカルトには興味がなかったんですが、その人たちから行ってきた廃墟の話を聞いたり、怖い話を聞いたりするのは普通に面白くて好きで、よく話しかけてました。


 それで…いつだっけなあ。確か三年目の夏ぐらいだったと思うんだけど。


 そのオカルト好きの人たちっていうのが、だいたいサークルの中で七、八人ぐらいだったと思うんですけど、そのうち…積極的に心霊スポットとかに行くのが四人ぐらいだったんですよ。もちろん有名な心霊スポットとかになると、全員で調査に行ったりもしてたみたいですけど。でも、普段から週一で心霊スポットに行く、みたいな人達は、だいたいそれぐらいの人数でした。

 で、そうした人たち三人…A君って男の子と、CちゃんとOちゃんって女の子ふたりで心霊スポットに行って来たらしいんです。


 どうも、地元の山の中にすごく大きな廃墟があって、そこがここら辺では最強の心霊スポットだ、って噂だった…らしいんですよね。私はそういうの興味なかったんで、あくまで「らしい」止まりなんですけど。私はあくまでその人たちから話を聞いていただけなんで、その廃墟がどういうふうにどういうふうに「最強」なのかもいまだに知らないです。

 まあ、とにかく、オカルトの人たちがそこに行ってきたみたいだ、という話はあって。で、彼らが「確かにヤバい、ヤバいけどあまりお勧めしない」って言ってたよ…って感じの話になってたんですよね。サークルの中で。


 で、その廃墟に行ってきたっていう三人とは結構仲が良かったんですよね。サークルで顔を合わせたときに世間話をしたり、一緒にご飯を食べに行ったり、それぐらいの仲ではあったんです。さっきも言ったように怖い話聞くのも好きなんで、心霊スポットの調査の話なんかもよく聞かせてもらってて。


 ある日、サークルの部室に早めに行ったらA君しかいなくて、たまたま二人きりになったんですよね。しばらく世間話をしてたら、自然な流れで例の廃墟の話になって。


 A君曰く、「ヤバいからお勧めしない」の意味は、…”別の意味でヤバい”んだと。

 とりあえず部屋を一通り見るぞ、ってなったんですけど、結構部屋数が多かったらしくて、結構時間がかかったらしいです。しばらく中を探索していたら、そこら中に日用品があるエリアに辿り着いて。要するに廃墟の中にあったであろう椅子とか、不自然に新しい布団とか、そうしたものが明らかに寄せ集められてる空間があったらしいんですよ。それで「あ~、これまずいかな~」と思って周りを見てみたら、明らかに新しいコンビニの弁当のゴミとか、ペットボトルとかがたくさんあって。これは誰かが”住んでる”ぞ、ってなったらしいんです。それでここに”住んでる”人がいつ帰ってくるのかもわからないから、早々に撤収した、と。

 A君は「たまたま鉢合わせなかったのは運が良かった」みたいなことを言ってましたね。それで、住んでるのが一人だけとは限らないし、下手したら女の子だけのグループとかが行くと危ない目に遭うかもしれない、だからそういう意味であそこはヤバいから行かない方がいい、というふうに説明してると。


 …まあ、普通の説明ですよね。私も別に疑うことなくへえ、そうなんだ、と思って。興味本位で廃墟探索のサイトとか見たことあったんで、別の意味で危険な廃墟、っていうケースはいくらでもあるのは知っていたんで、自然とその話を受け入れてました。確かに鉢合わせなくてよかったよねー、みたいな話をして、それで別の話題に移っていったんですけど。


 その数日後ぐらいだったかな。

 昼休みに、学食で今度は残りの二人…CちゃんとOちゃんと一緒になったんです。

 で、しばらく世間話をして、この時は確か私から話題を振ったんですよね。「あの廃墟ヤバかったんだって?」みたいな感じで。私は当然A君の話が念頭にあったので、そういうリアルな怖さもあるよね、みたいな方向に持って行こうとしてたんですよね。

「そう、本当にヤバくて。今まで行ったところの中で一番嫌だったかも」

 みたいな反応だったんで、あー、確かに女の子だとそういうの怖いからな~って思ったんですけど、なんかそれに続く二人のリアクションがおかしくて。

「ああ、本当にあれはダメだわ」

「ああいうのって見ちゃダメなんだよたぶん。もう行きたくない」

 とか言ってるんです。この時点であれ?と思って。生活の痕跡とかに対して「見ちゃダメ」とか言わないよな?と思って。すごい気になって、あくまで廃墟の話は噂ぐらいしか知らなくて、詳しいことは初めて聞くよ、という体でもう一回、どういう風にヤバかったのか、って言うことを聞いてみたんです。


 変な絵があったからだ、って言うんです。


 A君からはそんなこと一度も聞いてないわけじゃないですか。一瞬凄い混乱して。え、どういうこと?とか思ったんですよ、絵だけに。それで詳しく話を聞いてみたんですけど。


 彼女たちが言うには…みんなで廃墟の中を探索していたらしい…っていう、そういう前提の部分まではだいたいA君が言ってたことと同じでした。部屋数が多くて、探索に時間がかかった、というところも一緒。

 それで結構建物の中を回ったので、例えばそこが何階だったかとか、どこらへんの部屋だったかとかは結構あやふやになってて正確には覚えてないらしいんですけど、ある部屋に入ったら、壁に異様な絵が描いてあったと。

 その絵はかなり大きめのサイズで、恐らく女性か、あるいは髪の長い男性の…顔というか…頭部?を描いたものだった、らしいです。なんというか…「検索してはいけない言葉」ってあるじゃないですか。ああいうので話題になってる言葉で画像検索すると…出てくる感じ、そういう画風だったと。これに似てるよ、っていう明確な…なんか、タイトル?というか、言葉?も言われたんだけど、ちょっと覚えてないですね…すみません。

 で…その絵ってのが、すごい細い線で描かれていたらしいんですよね。その頭部の周りも、細い線で黒く塗りつぶされてて。なんだろうと思って近付いてみてみたら、全部ボールペンで書かれてる。それで、全部黒のボールペンで書かれてたんですけど、ただ目の部分だけが、赤いインクで書かれてたらしくて。しかもすごい執拗に…こう、渦を書くみたいな感じでぐるぐるぐるって何周もさせたようになってて。ライトを当てるとその目の部分がものすごい反射してて、まるで睨まれてるように感じたみたいで。

 その絵を見ているうちに、全員「ここにいるとヤバい」と直感的に思ったらしくて、それで慌てて退散した…らしいんです。


 その後はへー、怖いねー、なんてリアクションをして、多少世間話をして二人と別れたんですけど、私はもう内心大パニックで。なんだ?なんだ?ってなってました。

 もちろんどっちかが嘘をついているというのが、自然な線だと思うんです。でもCちゃんとOちゃんも私に嘘を吐くような人じゃないし、いわゆる「盛った」話にしてはどっちもちょっと変だし、そもそもこれって本当につく必要のない嘘じゃないですか。

 でも…なんか本人たちに訊くのは怖かったんですよね。どっちかが嘘をついていたとして、単純にどっちかに嘘をつかれてたらすごいショックじゃないですか。その理由を知るのもなんか嫌だし。だから誰にも言えず悶々としてたんですけど。


 それで…CちゃんとOちゃんから話を聞いてから…一週間後ぐらいだったかな。サークルの中で仲がいい人たち数人と飲み会をしたんです。そこにはオカルト系の人は一人もいなくて、私と同じアニメのオタクをしていたE君とか、元々友達だったNちゃんとか、部長に近いポジションのU先輩とか…そういうメンツで、確か七~八人はいたと思います。

 …ずっとそのことで何とも言えない気持ちになっていましたし…あとやっぱりお酒が入った勢いもあったんでしょうね。相談というか…世間話に近い感じで、A君とCちゃん・Oちゃんから話を聞いたこと、その内容が全然違ったことを打ち明けたんです。前者と後者の話のざっくりした内容も説明しながら。

 …そしたら、話してるうちになんかその場が静かになっていく感じがあって。話し終わったら、みんななんか暗い感じで沈んでるんですよ。あれ?私なんかまずいこと言ったかな?と思ったら…F先輩って人がいたんですけど、その人がボソッと

「俺もその話聞いたけど、俺はCちゃんから”日用品があって怖かったからさっさと帰った”って聞いた」

 って言って。もうこれだけでもえー!?って感じだったんですけど、それを聞いたE君が

「え!?俺はOちゃんから人がいたっぽい跡があったから引き上げてきたって聞きましたよ!?」

 って言い出して。


 それからもう大騒ぎで。その場にいた全員、三人それぞれからバラバラの説明を受けていたんです。

 聞いてる話は全員一緒で、生活の痕跡があったか、壁に絵があったかの二種類だったんですよ。でも全員、誰からその話を聞いたか、という部分が見事にバラバラだったんです。NちゃんはA君から壁に絵が描いてあったという内容の話を聞いてて、U先輩は三人全員から生活の跡があったから早めに引き上げた、って内容の話をされていて、みたいな感じで。

 だからみんな、私の話を聞いて最初は単純に「自分はあの三人に嘘をつかれていたのか」と思って沈んでたらしいんですよ。だけど実際にはもっと無茶苦茶な状況になってたことに、そこで全員初めて気付いたらしくて。

 全然別の話を聞いたという人は少なくともその場にはいなくて。

 それでみんなで「どういうことなんだ!?」って感じになって…その場にいた全員が何が起こってるか全然把握できなくなってる感じでしたね。


 そしたら…私がこの話を始めてから、ずっと押し黙ってたY君って一年の子がいたんですけど、彼が不意に喋り出したんです。


「あの…僕、C先輩から”あの廃墟にすごく気持ちの悪い絵があって怖かった”って話を聞いたんですよ。二週間ぐらい前に。…でも、その一週間後ぐらいに、C先輩からまたその廃墟の話をされたんです。そしたら話の内容が、”日用品がたくさんあって、誰かが住んでるかもしれなくて怖いからすぐ帰ってきた”って話になってたんです」


 もうその場の全員…私含めてもう…絶句でした。そしたら。


「……あの人たち、どっちが嘘か分かんなくなってますよ、たぶん」


 …Y君、最後にそう言って。水を打ったような静けさ、っていうのはああいうのを言うんでしょうね。ものすごい空気になりました。

 それでF先輩が「この話はやめよう!やめやめ!飲み会だぞおい!」って強引に話題を切り替えて、そこで話は終わったんですけど。


 …今思うと、この三人がやたら色んな人にこの話をしてたのが怖いんですよね。最初にA君から廃墟の話をされたときって、…確かに自然な流れだったんだけど、今思うとA君の方から廃墟の話をし始めたと思うんです。

 しかも、嘘をついて毎回話がころころ変わってるならまだしも、必ずその二つの話のどっちかだったわけですよね。それも…なんだったんだろうなあ。なんだったんだろう、本当に。


 まあ、その後もA君とかCちゃんとかOちゃんとかとは普通の友達付き合いをしましたし、なんだったらCちゃんとOちゃんは今でもたまに連絡を取り合ったりたまに一緒に遊んだりしますけど…流石にあれがどういうことだったのかってのは訊いた事ないです。

 …というか…訊けませんよねえ…。

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