25話:終わりの前に
会計の画面に表示された、『あなたは二十歳以上ですか?』の文字――急いで『はい』のボタンを押す。
(間違いなく、二十歳なんだけど――今、年齢確認されても何も出せない)
それに僕はともかく、隣でじっと会計を見守る天使が二十歳に見えるかというと、とてもじゃないが難しい――
店員の視線が、ちらりとこちらを向いた……と思ったら伏せられ、僕の出した千五百円を事務的に処理して、おつりを返してきた。
そして、何も言わずに酒の入ったレジ袋を差し出した。
「――ありがとうございました」
「はいー、ありがとうー、でーすーっ」
「……そんな元気にコンビニ店員にお礼言う人、初めて見た……」
見目や名札からして外国の出身であろう店員に、僕も心の中で何度もお礼を言う――
BABのことは、知っているだろうか。僕の家のことは、僕の父や祖父が起こした公害のことは……
「ユウグレーっ、もちます、ですよー」
「いや、それはいくら何でも僕が、……」
コンビニを出たところで、とあるものが目に留まる。
……ずっと、探していた。
(『アレ』だ)
(……良かった)
最近は中々見かけなくなった『アレ』を見つけ、安堵感でいっぱいになり、どこかの誰かに心から感謝をする。
こういう時、人は神様とか天使とか、自分の力を超えた何かに祈りたくなるのかもしれない。
「えーと、ごめん、ちょっとだけ持っててくれるかな」
「勿論ですー、よー」
「この辺りに、ベンチに座ってゆっくり出来る公園とか、探しておいて貰える」
「はーいー、ですーよー」
「……すぐ、追いかけるから」
まずはコンビニの周囲をぐるぐる回る気らしい彼女が、駆け出すのを見送る。
そして――ずっと、探していたアレに、近付く。
古びた電話ボックス。日に灼けた電話帳――
(なんだか、本当に都合が良すぎるな)
目的の電話番号はすぐに見つかり、僕はコンビニで残ったお金を手のひらに乗せた。
――三十円。
これだけあれば、きっと足りる。
(……シンヤ。お前が一生懸命貯めてたブリキ缶の中の十円玉、本当は少しだけ馬鹿にしてた)
数百円、よしんば数千円貯まったところで何になるのだ、と。
それくらいのお金、すぐに手に入るしすぐに使い切ってしまう、何でも無いものだと思っていた。
……けれど。
(三十円があって、本当に、本当に良かった――)
――このお金でやっと、僕は、僕を終わらせられる。
「……あの、もしもし? 近衛、ユウグレなんですが……」




