表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

24話:いざコンビニ

 いつまでも同じ場所に居るのは危険な気がして、ワゴン車で来た大通りを二人で歩いた。

 陽が高くなり、汗ばんできたところで、適当に見つけたコンビニに入る――


「ふわあぁぁー……! すごいー、色が、沢山、ですー」


 感じ入ったように天使はコンビニの中をぐるぐる周り、上から下まで、ひとつひとつの商品を眺めていく。


「あっ、塩らーめんー……!」


 ミニカップラーメンが並ぶ中、一番隅に置かれたラーメンを見つけて、嬉しそうに笑う。


「ああ、マヒルに食べさせて貰ってたやつ」

「はーいー。こういうところで買ってた、ですねー。知らなかったー……」

「……この味、好きなの?」

「んーっ、好きですか……いつもBABのごはん、おなじなので。違うの食べたいーって前に言ったら、マヒルが食べさせてくれるようになった、ですーよっ。その気持ちが、好きですー」

「……そっか……」


 天使の今までを形作った全ては、BABグループとマヒルのもので。いくら無理にですます調で喋らなくて良いと言っても、きっと染み付いたものは消せなくて。


 何気ない話を聞けば聞くほど、僕は余計なお節介をしているように思えてならない。


「あーっ、これって」

「?」


 一際明るい声を出して、気を引くみたいに彼女が振り返る。


「わたし達、今日から飲める、ですねーっ」

「そっか、言われてみれば――」


 飲み物のケースに並んだ、色とりどりの缶。

 ケースの上下に貼られた『これはお酒です。年齢確認実施中』の文字――


「お酒って、いーーっぱいあるですねーっ。リンゴ、みかん、レモン、レモン、レモン……レモンってこんなに人気なんだ、ですー」


 サワーや缶チューハイのところばかり見ているからじゃ、と思ったけれど黙っておく。

 考えてみれば、天使は二十歳だった。……僕と同じで。


「——お酒、飲んだことある?」

「はーいー。BABの儀式には、ワイン飲むのがつきものですよー」


 それって、明らかに宗教的な何かじゃないのか……なんて思ったけれど、ビールやワインの棚には目もくれず、カラフルなお酒の缶ばかり見詰める彼女にどこか安堵した。


「だから、好きに飲めるのは初めて、でーすー」

「――……。折角だし、乾杯とかする?」

「飲んじゃう、ですかー……?」

「――うん。飲もう」

「えーっ、どうしようかなー、ですー。リンゴ、みかん、レモン、レモン、レモン……うーん、やっぱりリンゴ……?」


 完全に果物の種類だけで選んでるな、と思いつつ、僕もぼんやりお酒を眺める。


「これにしまーす、リンゴー!」

「……じゃあ僕、レモンで」


 僕が持った買い物カゴに、可愛らしいリンゴが描かれた酎ハイがこつんと入る。

 迷える程の酒に対する欲求も特にないから、CMでよく見かけるレモンサワーを選んだ。


 ……これで合計額は三百円ちょっと、所持金に対してまだまだ余裕はある。


「おつまみとかも、買っていこう。……酒だけ飲むのは身体に悪いらしいから」

「へえええー、はじめて知ったですー」

「好きなもの買っていいよ」

「ふぇっ」

「カップラーメンはちょっと、お湯入れて持ってくのは難しそうだけど……他に何か、好きなものないの」

「……。シュークリーム、すきでーすー」

「うん。買ってこう」


 どのコンビニにも置いてあるような、カスタードシュークリームがカゴに入った。百六十円。


「あとは、チョコとか、アイスとか……」


 何種類ものパフェが描かれたチョコ百三十円、何種類ものフルーツ味の氷菓が入ったアイス百五十円――

 そういえばマヒルも、極端な甘党だったなと思い出す。


「はあああ、爆買いしちゃいましたねーっ、全部買える、ですかー……?」

「……まだまだ全然お釣りは来るくらいで余裕はあるけど」


 缶チューハイやレモンサワーと一緒に、チョコ、アイス、シュークリーム――

 いくら酒に詳しくなくても、何となく食べ合わせが悪いような気はする。


「……何か、ベタなおつまみとか買わない?」

「ベタなおつまみって、どういう、ですかー?」

「うーん……」


 父親は、僕の前で寛いで晩酌をするような人じゃなかった。だから、テレビで断片的に見た光景や、若者の飲み会で想像するもの、そんな自分の中のイメージを勝手に繋ぎ合わせる。


「……枝豆とか、チーズとか、スナック菓子とか……?」






 ――お店で揚げたチキン、ポテトチップス、パックの枝豆、おつまみに最適!と大きく書かれたチーズ鱈、そして一緒に選んだお酒、甘いもの――


「レジブクロはどうしますか」

「あ、お願いします」


 三円のビニール袋が会計に足され、合計は千四百八十円……


「タッチしてください」

「……あ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ