24話:いざコンビニ
いつまでも同じ場所に居るのは危険な気がして、ワゴン車で来た大通りを二人で歩いた。
陽が高くなり、汗ばんできたところで、適当に見つけたコンビニに入る――
「ふわあぁぁー……! すごいー、色が、沢山、ですー」
感じ入ったように天使はコンビニの中をぐるぐる周り、上から下まで、ひとつひとつの商品を眺めていく。
「あっ、塩らーめんー……!」
ミニカップラーメンが並ぶ中、一番隅に置かれたラーメンを見つけて、嬉しそうに笑う。
「ああ、マヒルに食べさせて貰ってたやつ」
「はーいー。こういうところで買ってた、ですねー。知らなかったー……」
「……この味、好きなの?」
「んーっ、好きですか……いつもBABのごはん、おなじなので。違うの食べたいーって前に言ったら、マヒルが食べさせてくれるようになった、ですーよっ。その気持ちが、好きですー」
「……そっか……」
天使の今までを形作った全ては、BABグループとマヒルのもので。いくら無理にですます調で喋らなくて良いと言っても、きっと染み付いたものは消せなくて。
何気ない話を聞けば聞くほど、僕は余計なお節介をしているように思えてならない。
「あーっ、これって」
「?」
一際明るい声を出して、気を引くみたいに彼女が振り返る。
「わたし達、今日から飲める、ですねーっ」
「そっか、言われてみれば――」
飲み物のケースに並んだ、色とりどりの缶。
ケースの上下に貼られた『これはお酒です。年齢確認実施中』の文字――
「お酒って、いーーっぱいあるですねーっ。リンゴ、みかん、レモン、レモン、レモン……レモンってこんなに人気なんだ、ですー」
サワーや缶チューハイのところばかり見ているからじゃ、と思ったけれど黙っておく。
考えてみれば、天使は二十歳だった。……僕と同じで。
「——お酒、飲んだことある?」
「はーいー。BABの儀式には、ワイン飲むのがつきものですよー」
それって、明らかに宗教的な何かじゃないのか……なんて思ったけれど、ビールやワインの棚には目もくれず、カラフルなお酒の缶ばかり見詰める彼女にどこか安堵した。
「だから、好きに飲めるのは初めて、でーすー」
「――……。折角だし、乾杯とかする?」
「飲んじゃう、ですかー……?」
「――うん。飲もう」
「えーっ、どうしようかなー、ですー。リンゴ、みかん、レモン、レモン、レモン……うーん、やっぱりリンゴ……?」
完全に果物の種類だけで選んでるな、と思いつつ、僕もぼんやりお酒を眺める。
「これにしまーす、リンゴー!」
「……じゃあ僕、レモンで」
僕が持った買い物カゴに、可愛らしいリンゴが描かれた酎ハイがこつんと入る。
迷える程の酒に対する欲求も特にないから、CMでよく見かけるレモンサワーを選んだ。
……これで合計額は三百円ちょっと、所持金に対してまだまだ余裕はある。
「おつまみとかも、買っていこう。……酒だけ飲むのは身体に悪いらしいから」
「へえええー、はじめて知ったですー」
「好きなもの買っていいよ」
「ふぇっ」
「カップラーメンはちょっと、お湯入れて持ってくのは難しそうだけど……他に何か、好きなものないの」
「……。シュークリーム、すきでーすー」
「うん。買ってこう」
どのコンビニにも置いてあるような、カスタードシュークリームがカゴに入った。百六十円。
「あとは、チョコとか、アイスとか……」
何種類ものパフェが描かれたチョコ百三十円、何種類ものフルーツ味の氷菓が入ったアイス百五十円――
そういえばマヒルも、極端な甘党だったなと思い出す。
「はあああ、爆買いしちゃいましたねーっ、全部買える、ですかー……?」
「……まだまだ全然お釣りは来るくらいで余裕はあるけど」
缶チューハイやレモンサワーと一緒に、チョコ、アイス、シュークリーム――
いくら酒に詳しくなくても、何となく食べ合わせが悪いような気はする。
「……何か、ベタなおつまみとか買わない?」
「ベタなおつまみって、どういう、ですかー?」
「うーん……」
父親は、僕の前で寛いで晩酌をするような人じゃなかった。だから、テレビで断片的に見た光景や、若者の飲み会で想像するもの、そんな自分の中のイメージを勝手に繋ぎ合わせる。
「……枝豆とか、チーズとか、スナック菓子とか……?」
――お店で揚げたチキン、ポテトチップス、パックの枝豆、おつまみに最適!と大きく書かれたチーズ鱈、そして一緒に選んだお酒、甘いもの――
「レジブクロはどうしますか」
「あ、お願いします」
三円のビニール袋が会計に足され、合計は千四百八十円……
「タッチしてください」
「……あ」




