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第18話 返済期限

 地下1階、地上5階建て、延床面積約2万5千平米の鉄筋コンクリート造の複合商業ビル。


 この規模の建物は、もちろんこの子爵領では最大規模だ。


 通りに面する一階部分には全面ガラス張りのショーウィンドウとして、視覚的なインパクトも重視して設計した。


 外壁には、開発した超硬化ガラスをふんだんに使用した窓を多数配置し、壁面についてもこれまでのようなコンクリート打ち放しではなく、細かな装飾を施して、より華やかで重厚な外見を心掛けた。


 ボクはゆっくりと、出来上がった建物を見渡し、どこかおかしな所がないか確認する。


 ……どうやら、大丈夫なようだ。思い通り、イメージ通りの建物が完成した。


 さっきからあえて視線を合わせないようにしてるんだけど、ボクの後ろに居並ぶ人達が、固唾を飲んで、ボクの様子を伺っている。


 ボクの完成の合図を待っているんだろう。合図するまで動くなと言った言葉をちゃんと守ってくれている。


 ボクは大きく一つ息を吐いて、皆の方に向き直る。


「お待たせしました。これで完成です!」


 その言葉を待っていたかのように、皆が一斉に叫び声を上げた。


「うぉおおおおっ!!」


「スゲェ!!! ホントに出来たぜー--!!!」


「こ、こんなの見たことない……!!」


「な、なんて美しい建物なんだ……」


 それぞれの反応で、それぞれに建物やボクの魔法についての感想を口にしている。


 驚きで固まっている人、興奮して隣の人と抱き合って喜んでいる人、中には涙を流して建物に見入っている人もいる。


 ボクにとっても大きな挑戦だったけど、ここまでみなさんが喜んでくれているのを見ると、こちらも感動するよ。


 その中でも、特に驚いた様子を見せているのが、子爵家次女のアイナだ。


 子爵さんの計らいで、恐らくボクとアイナの距離を縮める為に、ボクの魔法の力を見せようと思ってここに連れて来てくれたと思うんだけど……少しは認めてくれたかなぁ?


「そ、そんな……あの子が、ほんとうにこんな……」


 何やらブツブツと呟いてるが、後で落ち着いてから話しかけてみよう。


「ナシロ、見事だ! これほど見事な建物はこの国広しと言えども存在しないであろう!ははは!」


 それは流石に言い過ぎだと思うけど、それくらい子爵さんが喜んでいて、テンション上がってるんだろう。


「ありがとうございます。それでは、予定通り、大工ギルドの職人さん達に入ってもらって、内部の確認と点検をお願いします。どこか壊れている所や危ない場所があれば教えてください」


「よぉし、任せとけ! こっからはオレ達の出番だ!野郎共、行くぞ!」


「「「おう!」」」


 ギルドの職人さん達の頼もしい掛け声を聞いて、ボクも一緒に中に入った。


 一際大きなガラス窓が使われた広いエントランスから、総合案内カウンターへと続く。


 そこから内部をぐるっと眺めてみる。うん、我ながら中々いい出来だと思う。


「お前らは一階、そこからそこは二階、後はオレに付いて三階に行くぞ!」


 ゲンさんの指示でテキパキと動く職人さん達に後は任せて、ボクはエントランスで物珍しげにキョロキョロしているリルルの所に向かった。


「さすがナシロだね! わたしはもう驚かないけど、でもこの建物が凄いのはわかるよ!」


「ありがとう、リルルに褒めてもらうのが一番嬉しいよ」


 さて、アイナはもう落ち着いたかなあ?


 えーっと、いた。


 子爵さんと色々見て回っていたようで、丁度エントランスに戻って来たみたいだ。


 そちらの方に向かうと、ボクと目があったアイナが、子爵さんの後ろにサッと隠れた。


 あらら?


 その表情には、少しの怯えが見てとれた。


 あー、ちょっと魔法が使える年下の女の子だと思ってた所に、いきなりこんな魔法を見せられたんだもんなぁ。


 こりゃあ怖がらせちゃったかも……【加入者(メンバーズ)】になるのはちょっと遠ざかったかもなぁ。


 今こっちから追いかけたって多分逆効果になりそうなので、しばらくはそっとしておこう。


 それから、子爵さんとアイナ、そしてリルルと館内を見て回った。グゥはずっと大人しい所を見ると多分寝てるんだろ。


「この建物自体も素晴らしいのはもちろんだが、特に目を惹くのはこのガラス窓だな。これは……ふむ……」


 子爵さんが何やら考え込んでいたが、ボクもゲンさんに呼ばれたり職人さんに質問されたり忙しかったので、何の話かは聞かなかった。



 ひとしきり確認が終わり、各階を見て回った人たちの報告を聞いて、異常なし、問題なしと判断した。


「さて、クラノ。これで約束の建物は用意出来た。納得してもらえるならば、契約を交わし、この建物はスミス商会に譲りたいと思うが……どうだ?」


「はい、これ程の建物、本来であれば白金貨250枚でも安いくらいでありましょう。ぜひ、我がスミス商会で購入させていただきたい」


「おお、そうか! 実に有難い! では明日早速我が館にて、正式な契約を交わすとしよう」


 子爵さんは心底安堵したという顏で、満足げな笑みを浮かべている。


「はっ、かしこまりました。ただ、本当によろしいのでしょうか? 正当な価値を再評価してから購入価格を決めさせていただいても構いませんが……恐らく少なくとも白金貨100枚の追加は下らないと思われます」


「何だ、『安く買って高く売る』が基本の商人の言葉とは思えんな? ははは! ……そうだな、そう言ってくれるのであれば、少し思いついたことがあってな。その分の価格についてはそれの相談に乗ってもらう事で相殺としよう」


「それは……ちょっと恐いですな……白金貨100枚の相談事とは、穏やかな話でありますまい」


「その様に大げさな話ではないが、まあ、楽しみにしていてくれ」


 子爵さんとクラノさんの間での話がまとまり、ついに子爵家が借入金の返済のために必要な金額を用意することができた。


「さて、それでは皆の者! そろそろ周辺の住民が異常に気付いて集まって来るはずだ。混乱を避ける為、商会とギルドの担当者や警備の者を除いて、解散する!」


 ボクらが外に出ると、もうすでにビルの前には大きな人だかりが出来ていて、そこを抜け出すのを苦労したが、来る時に乗ってきた馬車に乗り込んで、群衆をかき分けるようにして館に戻った。



 ◇◇



「若! 若はいずこか!?」


「若! 一大事にござるぞ!!」


 エチゴヤ商会アトラ支店、支店長室。


「何だよ、騒々しいな。昨日ちょっと夜更かししたからよ、今から昼寝するんだよ、後にしろよ」


「そんな場合ではござらんぞ! 実は先ほど――」


「もう騙されないぜ! お前らの話を真面目に聞いたってろくな事にならねぇんだ! とにかくオレは寝る! どうしても話したいなら明日また来い! じゃあな!」


「あ…………」

「む…………」


 ウモンとサモンの話を遮り、さっさと自室に引き上げようと部屋を出て行く上司の姿に、二人は何とも諦めたような表情でアクドイが出て行った扉を眺めていた。



 ◇◇



 エチゴヤ商会への返済期限当日。


 8日前にビルを完成させてから、もう次の日にはスミス商会と契約を結び、無事に建物を白金貨250枚で譲渡することが出来た。


 という訳で、返済期限を七日残して、返済額の白金貨500枚を無事に揃えるというインポッシブルなミッションを完遂した。


 ただ借入金はまだまだ残っていて、それを今後どうやって返済していくかは、子爵さんが考えているだろう。ボクも手伝えることがあれば手伝おう。


 その後はクラノさんを中心にした、複合商業ビルの開店準備に関わる人達は寝る間も惜しむほど忙殺されていたが、一仕事終えたボクは比較的のんびりしていた。


 長らく休んでいた館のハウスメイド見習いとしての仕事に復帰し、アイナの部屋の掃除や割り当てられた部屋の掃除に勤しんでいた。


「さーて、今日は玄関周りの掃除だ! 行ってくるね、リルル!」


「はーい、頑張ってね」


 使用人の食堂で朝食を取り、自分の持ち場に向かう。


 途中メイド長とすれ違ったので挨拶をして、早速玄関の掃除をしていると、来客を知らせるドアベルが鳴った。


 丁度玄関の掃除をしていたボクの傍を通りかかったその来客は、借金の返済を迫りに来たアクドイ一行だ。


 ニヤニヤとしたり顔で館に入って来た彼らは、ボクの存在に気付いて、さらにその下品な笑顔を深くし、


「おお、キミはあの時のメイドちゃん。もう少しでキミもオレのものになるからさ、待ってろよ!」


 そんな言葉を残して、トマスさんに案内されて子爵さんの元に歩いて行った。




お読みいただき、ありがとうございます。


評価、ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)


執筆の励みにもなりますので、よろしければお願いします。

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