第11話 第二の英技
「お、おおっ!?」
思わず声に出してしまい、周囲の不審を買ってしまったが、これはさすがに驚いた。
基本レベルが9から10に上がり、ゲンさんの才能色『橙1』が加算され、魔法レベルが10になった。
そして基本レベルや才能色が増えた事で使用可能になった魔法がいくつか……
それに、何やら全身から魔力の奔流が立ち上っているのが自分の目でも確認できる。もしかしたら、魔法レベルが10になった影響かもしれないが、魔力量が一気に増加したようだ。
何より一番驚いたのが、【権能蒐集】に次ぐ二つ目の英技【土工母】を覚えた事だ。
早速魔導書で確認してみると、
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【習得英技】
ランク7
赤2 橙3 青2:【土工母】
詠唱: なし
効果: 土・鉱物系の無機物を原子レベルで自在に操る事が出来る。
必要基本レベル: 10
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と書いてあって、完全に【土匠】の上位互換魔法、いや英技だ。
その能力はまだこれから確かめて行くとして、重要なのは“必要基本レベル”が10となっていて、今のボクにもすぐに発動可能になっている所だ。ラッキー!
このタイミングでこんな英技を覚えるなんて、カミサマだか何だかによる“天の采配”みたいなモノを考えたくなるけど……あんまりその辺は考えてもしょうがないので今は考えない!
「な、なんだ、その金色の本は……? どっから現れやがった!?」
【加入者】となった事で、ゲンさんにも黄金に輝く魔導書が見える様になった。空中にフラフラ浮かぶ本が突然現れて、驚いている。
「本……? 本とは何の事です? 皆さんには何かが見えているのですか!?」
残念ながらクラノさんには見えていないので、ゲンさんが凝視している辺りをキョロキョロと確かめているが、やはり何も見えなくてやや焦りを感じている様だ。
この場で視えているのは実は【加入者】のゲンさんだけなんだけど、子爵さんとトマスさんにはある程度魔導書の能力を話してあるので、ゲンさんが“見えない本”について言及しても、落ち着いて様子を伺っていた。
まあ、クラノさんもこの計画に参加してもらって、一蓮托生になるのだし、見えなくとも魔導書の事や能力についてある程度話しておいた方が色々やりやすいはずだ。
「今ボクの隣に本が浮かんでいるんですが、この中で見えているのは恐らくゲンさんだけです」
それから少し時間を取って、魔導書や【加入者】についての説明を二人に行った。
「なるほどなぁ……そんで、オレにはいきなり本が現れた様に見えたってのか」
「魔導書……? 加入者……? そんな魔法が、本当に実在すると言うのですか……しかし実際……」
実際に見えているゲンさんに比べると、クラノさんの方が若干混乱気味だけど、まあ、混乱する気持ちはすごくわかる。
「くっ……!! 見たい、私も見たいですぞっ!! そのように珍しいモノをこの目でっ!! なぜ私は【加入者】じゃないのですかッ!?」
だ、大丈夫かな……ちょっとキャラ変わっちゃってるよ、クラノさん……?
◇◇
「それでナシロ、何とかなりそうなの?」
ゲンさんとクラノさんに会って魔法を見せて、それから今後について話をしている内に夕方になったので、ひとまず今日は解散という事になり、使用人の食堂で夕食を済ませ、ボクは自室に戻っていた。
「う~ん、多分、何とかなると思うよ?」
リョウゲンさんという新たな【加入者】が加入し、ボクの能力がまた色々増えた事をリルルに説明した。
「ええっ、そうなんだ、スゴイね! これでええっと―――5人目?」
「うん、まあそうだね、グゥは人には数えないけど……」
ちなみにグゥは、もうリルルのベッドでスヤスヤと眠っている。
「それでね、明日からボクはしばらく外で仕事することになると思うんだ。リルルをこの館に残して行くのは気掛かりなんだけど、グゥもいるし、外よりはこの館にいた方が安全だと思うんだ。だから……」
今日の話し合いの後、子爵さんからメイド長のメリアンさんに話が伝わり、ボクはひと月の間、ハウスメイドの仕事は免除となった。
一応先輩で指導係のヨンディさんにも断りを入れておいたんだけど、「ひと月もサボれるなんて羨ましい」なんて笑いながら冗談で快く送り出してくれた。
「うん、わかってるよ。ちょっと寂しいけど……でもだいじょうぶ! グゥと一緒にここで待ってるね! 館の人もみんな優しいし、ひと月くらい何でもないよ! それに、夜にはこの部屋に戻って来るんでしょ?」
「あ、そうだね、戻って来るよ、もちろん。うーん、そういう意味では、これまでとあまり変わらないかもね?」
なんだ、寂しいと思ったのは実はボクの方だったのかも。
「そうだよー! だから、ナシロも寂しがらなくていいんだよ! ウフフッ!」
しっかりバレてるわ。なんか……はずかしっ!
スルナ村に居た頃はもちろんずっと一緒だったし、領都に来てからも、館の中でそれぞれ別の持ち場で仕事をしていたとは言え、常に近くにいたのは確かだ。それが日中のみだけど離れてしまうのが、自分で思っていたより不安なのかもしれないな?
ボクだって中身はニ十歳を超えた大人とは言え、見知らぬ土地どころか見知らぬ世界にたった一人で放り出されて、不安を感じない訳がない。
しかも元の人格としてのナシロにとっての家族が行方不明になってしまった。そう言ったボクの心細さを、リルルの存在がどれだけ癒してくれていたか、今更ながら深く、深く感じられた。
初めの頃は、おどおどしてボクに頼りっきりという感じだったのに、今ではもうこうやってボクを逆に励ましたりしてくれる。
「本当にありがとう、リルル。キミのおかげでボクはこれまで頑張ってこられたし、これからも頑張っていけるんだ」
「なあに、いきなり。どうしたの? ふふっ、へんなナシロ!」
「あー! 笑ったなぁ? そんなリルルには……こうだー!」
「あはははは! ちょ、ちょっと……やめっ!」
「グ、グゥォウ……!」
「あ、うるさかった、グゥ? ごめんごめん! さぁ、もう一度ねんねしましょうね~」
次の日から大事な仕事が始まるというのに、二人で話し込んで夜更かししてしまった。
◇◇
エチゴヤ商会への返済期限まで残り29日。
あくびを噛み殺しながら書斎に現れたボクを見て、苦笑いの大人達だったが、相手は子供だと思ってくれたのか何も言われなかった。
今日はボクの提案で、返済に向けての全体的な計画を構築する為の会議を行う事にした。
前世での建築プロジェクトでは、主に工程表と言われる物を作成し、現場作業などにおける日程や工程などをまとめ、その工事に係る人達とそれらを共有することにより、具体的な手順や順序などの把握を視覚的に可能にするのが一般的だ。
まずボクが考えた工程表を提示し、それを皆で話し合いながら修正していく。
「しっかしまあ、こりゃあ確かに便利だな! こんな工事の進め方があったなんて、大工ギルドの支部長であるオレが知らねぇんだから、コレも新しい発明だろう? このちっこい身体から、一体どんだけの新発想が出てくるんだって話だぜ。もう驚くのも疲れたからいちいち驚かねぇがな!がははは!」
「いやはや、まさに。この“複合商業ビル”という考え方は本当に素晴らしい! 私もそこそこ商売の経験を積ませてもらっておりますので、それこそたくさんの人物に会ってきました。中には“自称”“他称”英雄なる者も居りましたが、ナシロ殿とは比べるのも烏滸がましい者ばかり……あなたこそまさに本物の英雄。改めて感服いたしました」
ゲンさんにクラノさんが口々に誉めそやすので、ちょっと身体が痒くなってきちゃうよ。
……だって、どれもボクがゼロから発明したモノなんて何一つない、言ってみればチート、ズルだ。あんまりそう言われると何とも居たたまれない気持ちになる。
ま、まあ今はとりあえずそういう事は脇に置いておこう!
まずはエチゴヤ商会に借金を返済することが先決!
という訳で、全体の計画が大まかだけど完成した。
まずは一週間ほどかけて、必要な材料の確保と、それに並行してボクの新英技【土工母】の実験を行い、どのような建物が建築可能かを模索する。
それから実際に建てる建物の計画・設計に入る。
建設予定地はもう決まっているので、その敷地面積や立地条件などから、商業ビルに入居してもらうテナントの種類や数を決定していく。計画の段階で実際に領都内の商会に話を持っていくかどうかは、クラノさんに一任する。
そうして決定した事項を全て盛り込んだ設計図を基に、返済期限の一週間前に、ボクの魔法で一気に建物を造作していく。これは【土工母】の能力次第ではあるが、出来れば一日で終わらせたい。
その後の5~6日間ほどは、完成した建物がしっかり安全に建てられたかボク自身で確認したいのと、子爵家とスミス商会の間で交わされる様々な事務手続き、それから予定外の事が起きた時の為の予備日だ。
何とも日程にムリがあるのは今更何を言ってもしょうがないし、これでやるしかない。
一日もムダには出来ないので、昼過ぎに全体計画が完成してからも、それぞれの役割を果たす為に、皆が一斉に動き出した。
ボクに関していえば、とにかく【土工母】の能力把握が急務だ。それによって、揃えてもらう材料が全く変わってくるだろう。
何しろ―――“土や鉱物”を自在に操れるという事は……ついにアレが作れるって事だ、多分。これは一刻も早く試しておきたい!
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