第4話 アトラ散策①
館での生活にも慣れて来て、ボクもリルルもそれぞれ忙しいけど、充実した毎日を送っていた。
元の世界の基準で言えば、六歳で見習いとは言え児童を働かせるのは良くないとされているが、この世界では、特に農村部では何も特別なことではない。
それに、さすがに大人達のような量の仕事は与えられない。ボクたちはその立場上も特殊でかなり自由な時間があるし、使用人の人達はみんな優しい。
見習いのくせに仕事が少なすぎるとか、もっと嫉妬されたり意地悪されてもおかしくないと思ったけど、全然そんな事は無かった。……一番意地悪なのは皮肉な事にアイナお嬢様だよね。
ボクの当面の目標としては、新しい【加入者】であるアインベレーナお嬢様に仲間になってもらう事だ。
そうする事で、ボクの才能色が強化され、また使用可能な魔法が増えていくはずだ。ランクの高い魔法ほど強力になるので、これから覚えていく魔法がどんな物なのか楽しみだ。
ただ、高ランクの魔法ほど、基本レベルが不足していると使えないので、今ボクが使える最高ランクであるランク3の次、ランク4の魔法を使うためには、とにかく色んな経験を積んでいかなければならない。
一番手っ取り早いのは魔物と戦う事だけど、この領都にいてどれだけその機会があるか……この辺はルークさんにでも聞いておきたいね。
という訳で、今日は週に一度の休日だ。
ちなみにこの世界は一年が360日あるそうで、暦は元の世界とよく似ている。12の月に分かれ、ひと月は30日間。一週間は六日間で、五日間働いて一日休む、というのが通常の労働者の働き方だそうだ。
もちろん、ボク達にもこれまで休日はあったんだけど、館の中を案内してもらったり、色々やる事があったので、まだちゃんと領都の中を探検してないんだよ。
やっぱり新しい街に来たら、まず探検でしょ! リルルも連れて、出かけよう!
やたらと広い街だから、とても一日で全部は回りきれないけど、館周辺の目ぼしい地区には行っておきたいよね!
アトラに来てから、初めての外出だという事で、ボクとリルルだけでは不安だったので、案内役を頼んだ。ハウスメイド見習いの先輩、ヨンディさんだ。
「よーし! じゃあ今日はこのヨンディお姉さんがお前らを引率してやろう! ちゃんとついて来いよ! 迷子になるからな!」
「おねがいします、ヨンディさん! ね、楽しみだね、グゥ!」
「グゥ~~ッ!!」
「いやグゥはお留守番でしょ……」
ボクの冷静な突っ込みに、グゥは「バカな!」と言わんばかりの顏で目を見開いている。
「グワゥッ!?」
「変な鳴き方してもダメー。もし街の人に見られたら、大騒ぎになるでしょ?」
「そ、そんなぁ! 置いて行ったら可哀想だよぉ、ナシロ!」
「そうだそうだ! グゥだって一緒に行きたいよなぁ!?」
「グゥッグゥッ!!」
「……じゃあ、ちゃんとリルルのカバンに大人しく入ってるって約束できる? 勝手に顔出したりしない?」
「「「しないしない(グゥグゥ)!!」」」
最初に呑めない提案をしてから、妥協案を出して守らせる。子供に有効な手段だ。
◇◇
出掛けにメイド長の部屋に行き、今日は三人で外出する旨の断りを入れてから、ボク達は館を出て中央通りに出た。
……ちなみに屋敷を出る時に、たまたまアイナお嬢様が通りかかり、
「なによ、アナタ達遊びに行くの!? ふ、フン……! 随分とヒマなのね! 私はアナタ達と違って忙しいわ! 呑気でいいわね!」
などと嫌味を言われたが、ヨンディさん曰く、「アレはアタシらと一緒に行きたいっていうのと同じ意味なんだぜ」という事だった。……なるほど、わからん。早くお嬢様語に慣れないとな。
アトラの街は子爵領の南部に広がる平原にあり、ほぼ円形の城壁に囲われ、東西南北にそれぞれ大きな門がある。
そしてその門を繋ぐように十字にメインストリートが伸びていて、ちょうど交差する中心部分に、中央広場がある。
東西の門を結ぶ通りを中央通り、中央広場から北門への道が北大通り、南への道が南大通りと呼ばれているそうだ。
子爵さんの館があるエリアは、子爵さんを始め、いわゆる上流階級の人達が住む区画で、中央広場の北東にある。そこから中央通りを挟んで反対側が商業エリアで、中央広場の南側にたくさんの商店などが並んでいる。
まずは、中央広場に連れて行ってもらう事にして、中央通りを西に向かって歩いて行く。
さすがにこの領都アトラのメインストリートだけあって、行き交う人がかなり多い。
ボク達がこの街に最初に着いたのが北門で、そこから北大通りを通って屋敷まで来たんだけど、街の北側は住宅や公園が多いエリアだったので、この中央通りほどは人通りがなかった。
この世界に来て、ここまでたくさんの人を一度に見るのは初めてだ。何と言うか、元の世界の都会を思い出して、このごみごみした感じがなんだか懐かしい気持ちになる。
石畳が敷き詰められた通りを、馬車がたまに通り過ぎていくが、かなり乗り心地は悪そうだ。ボク達もこの街に来るのに馬車に乗って来たんだけど、道はデコボコだし、車軸にサスペンションなんてもちろんないから、かなり……いや滅茶苦茶揺れた。想像以上だった……馬車に乗ってる方が疲れるんじゃないかというぐらい。
中央通りの南側には、大小様々な商店や屋台が並び、買い物客や買い食いする人で賑わっている。
途中気になる店がいくつかあって、フラッと入りたくなるのをグッとこらえて、ヨンディさんの後ろについて歩いて行く。
リルルは見る物全てが珍しいらしく、目をキラキラさせてあたりをキョロキョロしながら歩いている。……気持ちはわかるけど、あぶな―――
「キャッ!」
あっ! 言わんこっちゃない!
向こうから歩いて来た人物に、よそ見をしていたリルルがぶつかり、倒れそうになる。
―――っと!
「わわぅ!」
慌ててボクはリルルの身体を支えて、何とか倒れないで済んだリルルの様子を見て一安心した。
「だ、大丈夫か、リルル!?」
前を歩いていたヨンディさんも異変に気付いて、リルルに声を掛ける。
「う、うん大丈夫……ナシロが助けてくれたから……」
「チッ。薄汚いガキが……」
ボクらの方を睨め付けながら、ぶつかった小太りの若い男が悪態を吐く。
しかしこの野郎……
今リルルがぶつかりそうになったのを知りながら、ワザと勢いよくぶつかって来やがったな!? ぶつかりオジサンかよ! リルルがケガでもしたらどうしてくれんだ! すぐ治せるけどよ!
ボクは、余りに態度が悪い男からリルルを守るように立ち、こちらも負けないぞとばかりに睨みつけてやる。
「ん~? なんだぁ、このガ―――むっ!?」
いきなり目の前に割り込んできたボクを見て、同じように悪態を吐こうとして、何かに驚いたように目を見開いている。
あれ? どうしたんだろ、ボクの顏に見覚えでもあるんだろうか?
「どけぃ、キサマら! アクドイ様の道を塞ぐとは不届き千万!」
「左様! そのような愚か者、万死に値する!」
すると、その小太りの男の後ろに控えていた護衛らしき男達が、前に出て来てボク達に向けて凄んで見せた。
なんだコイツら、まるで〇ケさんカ〇さんの悪役版みたいな……おっと!
ニセ〇ケさんみたいなのが、ボクの腕を掴もうとしたので軽く身をひねって躱す。
「キサマぁ! 避けるな!」
無茶な事言うなぁ……避けるでしょ普通?
「まあ待て、お前達。余計な事をして、この娘に傷を負わせるんじゃない。これは見た事もない上玉だぁ……あと5年もすりゃあ……ふひひっ!」
あー、あー-……またそれかよ……どっかの悪代官の時に見たぞ、この場面……
「そっちの娘たちも……よく見るとなかなか……いい値段になるぞぉ……」
今にも舌なめずりでもしそうな表情で、ボク達三人をねめつける小太りの男――アクドイというらしい――が、傍らに控える男たちに命令を出す。
「とりあえず、このアクドイ・エチゴヤに迷惑をかけたという事で、店に連れて行くぞ。おい。」
「「へいっ!」」
アクドイがボクに、護衛の男二人がそれぞれリルルとヨンディ先輩に向かい、捕まえようとして身構えた。
「オイ、お前ら! アタシ達は領主様の館の使用人だぞっ!? そんな事したらタダじゃすまねぇぞ!!」
ヨンディ先輩がこの場を切り抜けるべく、子爵様の名前を出して抵抗する。
「なにぃ? ウソ吐くんじゃねぇよ、お前らみたいなのが使用人だとぉ?」
「ウソじゃねえ! ウソだと思ったらやってみろよ! 子爵様が黙ってねえぞ!?」
まあ素敵、ヨンディ先輩……カッコイイわあ……!
「ウソじゃないです! わたしたちはメイド見習いだもん!」
おぉ……リルルまで、頑張って声を出してる!
「……ぐるるうぅ……」
―――お前は声を出すんじゃない!!
「チッ……まあいい。本当だったとしても、焦るこたぁねぇよ……いずれこの……オレ様……なる……よ……へっへっへ……」
アクドイ・エチゴヤと名乗る、おそらく商人だと思われる男が何やらブツブツ言いながら考え込んでいる。
「せいぜい今のうちにはしゃいでおくんだなぁ。オイ。」
何やら意味深な捨て台詞を履いて、アクドイは護衛を連れて去って行った。
「バーーカ! おととい来やがれ!」
こらこら、やめなさい。せっかく向こうから去ってもらったんだから、煽るんじゃありません。
ヨンディ先輩はとても面倒見が良くて頼りになるんだけど、少々血の気が多くて困る時がある。
ボク達が館に来るまでは、ヨンディ先輩が最年少だったんだけど、先輩に何かとたて突いて、衝突することがあったそうだ。おっとりしたお姉さんのメイドさんが教えてくれた。
気を取り直して、三人と一頭で、今度はリルルが人にぶつからないように注意しながら中央通りを進み、中央広場にやってきた。
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