第1話 プロローグ
第二章開始いたします。
投稿は不定期となりますが、なるべく間を空けないように投稿できるようがんばります。
スルナ村から領都へと続く街道沿いには、比較的大きな街が二つある。その内の一つ、ロアールの街は、領都に次ぐ、アトラハン子爵領第二の都市だ。
王都から領都アトラを結び、さらに隣のマルダール辺境伯領へと続く大きな街道が通っており、人や物の移動が盛んで、その中継地点となる宿場町として、古くから栄えて来た。
近年その辺境伯の力が増して来ていて、領内は好景気に沸いている。そこに商機を見出そうとする商人や、その護衛として雇われる冒険者や傭兵、職を求めて旅をする者達など、様々な人々がこのロアールを利用する事で、この街もその恩恵を受けて、近頃さらに賑わいを見せている。
◇◇
街の大通りから少し入った裏通りにある3階建ての古い建物の3階から、男が数人、窓から顔を覗かせて、表通りをジッと見つめている。
「おい、あれじゃねぇのか?」
「……確かに、聞いてた特徴と一致するな」
男達は日頃から暴力に慣れているような荒々しい雰囲気を持ち、言葉遣いも荒く、他人を傷つけたり搾取する事に何のためらいもない者達特有の粗暴さが感じられる。
「護衛の騎士を二人ほど連れていやがるようだが、この人数がいりゃ何とでもならぁな!」
事実、ここに集まっている者たちの実力と人数ならば、下級騎士の二人や三人であれば軽く蹴散らせるだろう。
「うん? もう一人、フードを被ったヒョロっちぃ男もいるが……ありゃ召使いかなんかだろうよ」
「そんじゃあ、さっさとやっちまおうぜ。あんなガキどもを二人連れてくだけで大金貨5枚とか、滅多にねぇ美味しすぎるシゴトだぜ? それに、早いとこやらねぇと、他のヤツらに先を越されちまうかもしれねぇしよ!」
そう言って、ニヤニヤと下卑た笑みを顔に浮かべながら、二、三人の男達が部屋を出て行こうとする。
すると、窓から外を眺めていたこの中のリーダー格の男が、慌てた様子で制止をかけた。
「いや、ちょっと待て……!? ま、まさか……アイツは……!?」
慎重に窓際に身を隠し、今フードの奥からチラリと顔が見えた人物について、自分が思い当たった人物かどうか、確証を得るべく最大限の注意を払って見極めようとしている。
「―――!!! 中止だ! 今すぐここからズラかるぞ! 死にたくねぇヤツはさっさと付いて来い!!」
改めてフードの男を確認したリーダーの男は、声を落としながらも即座に撤退の判断を下した。
「ど、どういう事だよ!? こんなお宝を目の前にして……!?」
「だったらお前一人で行けばいい。オレは別に止めはしねぇぜ。『風の英雄』に勝てる自信があるんだったらな」
仲間の男達はお預けを食らった不満が爆発寸前だったが、『風の英雄』の名前を聞いて、全員が顔を青ざめさせた。
「ヤツが、『風の英雄』だってのか……!? 間違いないのかよ!?」
「ああ……オレは昔騎士団に居た事があるんでな……見間違えようがねぇよ。って、こんな話はともかくここから逃げてからだ! 行くぞ!」
こうして、男たちは目的を果たす為の行動に出る前に、それぞれ散り散りに逃げだしてしまった。そしてそれは結果的に彼らにとっては正しい判断であった。
◇◇
「……ふぅむ。またですか……しかしまぁ、ちゃんと逃げてくれたようですねぇ」
「……?? ルークさん、どうかしたんですか?」
歩いている途中で立ち止まり、あらぬ方向に顔を向けたルークさんの様子を見て、リルルが不思議そうに声を掛ける。
「いえいえ、何でもありませんよ、リルル君。そういえば、ちょっと小腹が空きましたねぇ? あっ! あそこの屋台の肉串が美味しいんですよ! さあさあ、皆で行きましょう!」
ちょっとワザとらしい話題のずらし方だったが、リルルは特に不審がる事もなく、ルークさんに連れられて屋台の方へ歩き出した。
「グゥッ!? グゥウウ!!」
肉と聞いて、リルルが肩から下げて持っているカバンから、白い翼を持ち、緑がかった白い羽毛に覆われた小さな生き物が興奮した様子で顔を出した。
「ちょ、ちょっとグゥ! ダメだよ、顔を出したら!」
リルルが慌ててその生き物をカバンに押し込む。
この小さな生き物が周囲の人達に見られてしまえば、大騒ぎになってしまうだろう。なにせコイツは、『緑の聖獣グリフォン』と呼ばれる世にも珍しい生物の幼体だからだ。
「今は我慢してよ、グゥ。ちゃんとお前の分も取っておくから、後で食べような?」
「グゥ〜……」
恨めしそうにこちらを見るグゥを宥めていると、屋台で肉串を買って来てくれたテムさんからお礼を言って受け取る。焼きたてでタレが絡んだ確かに美味しそうな肉串だ。
「【権能蒐集】」
この様に人通りの多い街中で魔導書を出しても、【加入者】以外には何も見えないので、気軽に出し入れできる。
「【収納】」
魔導書の機能の一つである『詠唱代行』を使って、青1黄1紫1のランク3魔法【収納】を無詠唱で発動し、買ったばかりの肉串を亜空間のアイテムボックスに入れておく。
これは基本レベルが8になった事で使用可能になった複合魔法で、地面等に固定されている物や生物以外の物がいつでも出し入れ自由で、収納した時点の物体の状態が保存される。容量にすると、2トントラック一台分ほどが入る事がわかっている。
これも注意して見てないとわからないくらい音もなく派手な視覚効果もないので、ちょっと周りを注意しながら使えば問題ない。
しかしさすがに目の前に一緒にいるルークさん達には気付かれる、というか隠そうとはしてないんだけどさ。
「いやぁ、便利な魔法だよねぇ、いつ見ても。私達の荷物もそれに入れといてくれたら楽なんだけどなぁ?」
それを聞いていたププンさんが、呆れた様にルークさんに詰め寄る。
「副団長! ナシロ様の魔法をその様に使われるのは感心しませんぞ! それに、その様に何も持たない旅人など余計に怪しまれてトラブルに巻き込まれる恐れが―――」
「わかったわかった! ちょっとした冗談じゃないか……君達は私の部下でナシロ君の部下じゃないでしょ……私の扱い軽くない?」
ワイワイと騒ぎながら領都までの道中を順調に進んでいるけれど、さっきのルークさんの反応からしても、ボク達を狙っているヤツらがまだいるんだろうなぁ。
なんでスルナ村みたいな辺境から、領都に向かう田舎娘が二人ぼっち、狙われる理由がよくわらないけど……
そりゃ只の六歳の女の子じゃないけどさ、そんな事言いふらして回ってる訳でもなし、分かるわけない。それこそどこからか情報が漏れてたりしない限り……
という事は……
……漏れてるんじゃん!
それもこの街に入ってから一回や二回じゃないよ、狙われてたの!?
思いっきり漏れてるよ!
こちらには幸いルークさんという有名人がいるから、まだボクたちを攫おうと実行に移したヤツらはいないけれども。
しかし、風の英雄はホントに有名人なんだねえ。フード被ってないと一般人にも大人気で、たちまち取り囲まれるらしいよ。
さっきから多分ワザとやってるんだけど、襲撃者の気配を感じ取ったら、そいつらにだけわかる様にフードからチラリと顔を見せてるんだよ。
ボク達を怖がらせないようにだろうけど、こちらに一切何も言わずに、涼し気な顔をしてさりげなくやる所がまた憎らしいね!
多分魔法は使ってないはずなんだけど、どうやってそんな気配なんて感じてるんだろう……これが経験の差なんだろうか、それか戦士としての才能の差かもな。はっきり言ってしまえば、ボクなんか魔導書のおかげで魔法は使えるかもしれないけど、武器を使った闘いについてはまるっきり素人だもんな。
領都には四色流派の道場が一つあるらしいので、ぜひともそこは見に行きたいし、出来れば通って『魔技』を習得してみたい! だってルークさんがモブドン一派を一掃した時に見せてくれた、緑迅流魔技【駿迅斬】、めちゃカッコよかったんだもんよ!
その日は子爵さんの計らいで、ロアールの街で一番の宿に泊まり、次の日の早朝には、騎士団が用意してくれたチャーター機ならぬ、チャーター馬車便に乗り込んで出発した。……この世界に生まれ変わってから初めてフカフカのベッドで眠れた事が、ボクを何だか懐かしい気持ちにさせてくれた。
いくつかの村や小さな町を通過しながら、少しゆっくり目に5時間ほど走った所で、馬車の窓から遠くに街並みが見えてきた。
―――かなり大きい。
巨大な石材をふんだんに使った、高さが10メートルを超えるような城壁に街全体が囲われた、まさに城塞都市といった趣で、ボクは一目で気に入ってしまった。
いつかヨーロッパに見に行きたいと思っていた光景が今こうして、ボクの目の前に……!!
「うわあっ!! すごいなぁ……!!」
「ねえ見て見て、ナシロ! すごいよ、おっきいねぇ!」
どんどん近づいて来る都市の街並みに、子供の様にはしゃぐボク達を見て――いや子供なんだけど、ルークさんが柔らかい表情で微笑んでいる。
「やっと子供らしい顏を見せてくれたね。さあ、ともかく中に入ろう!二人とも、ようこそ領都アトラへ!」
こうして、三日間の旅路を経て、ボク達は領都アトラへ到着した。
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