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第49話 エピローグ

「おい、ナシロ! どういうことだよっ!?」


 領都に旅立つ準備をしていたボク達の所に、慌てて飛び込んできた者がいた。スグルだ。


「やあ、スグル。もう聞いたと思うけど、ボクとリルルの二人で、領都に行くことになったんだ。しばらく会えないかもしれないけど、元気でね」


「な、なんでだよっ!? オレ達……友達だろ!? オレも一緒に連れて行ってくれよ、なっ!!」


 スグルの気持ちはわかる。わかるんだけど……こればっかりはボクにはどうしようもない。


 子供はいつも大人の都合で振り回されて、子供の為でもあるんだけど、本人にとっては自分の気持ちなんて無視されて、勝手に決められて寂しい思いをさせられるだけだと感じる。それは元の世界でも同じ。


 ボクとしても、【加入者(ナンバーズ)】でもあるスグルを置いて行くのはちょっと心配ではあるけれど、仲間として加入した以上、これでさようならなんて事はないはず。


 数か月後か、はたまた数年後かわからないけれど、きっとまたスグルと仲間として行動する時が来ると信じている。


 それはもう一人の【加入者】であるリニーさんも同じ。


 二人の力がまた必要になる時が必ず来るはずだ。


 それまで、二人には頑張って欲しいと思う。


「ゴメンね。子爵様の言いつけだから、ボクには決められないよ……」


「クソッ! こうなったら子爵様に……!!」


 スグルはそう言うと、急いでどこかに向かっていった。


 ……領主に直接頼みに行く気だろうなぁ。色んな人に怒られなきゃいいけど……



 ◇◇



 リルルにとっても、領都で暮らすというのは簡単に決断できる事ではなかった。


 何しろ、これまで村長さんやメディさんに大事に育てられて来て、ほとんど村の外に出た事なんてなかったから、外に出るという事自体に怖がっているように感じた。


 でも、ボクやグゥと一緒だという事で、勇気を出して決断したようだ。


 もし本気で嫌がっているようだったら、何かを取引材料にして、子爵さんに頼んで何とかしてもらおうと考えていたんだけど、不安はありながらも、未知の世界への興味みたいなワクワク感も感じているようで、少し安心した。


「ねぇねぇ、ナシロ、これも持って行った方がいいのかな!? あとこれとか、これも!」


「うーん、お布団は多分いらないんじゃないかなぁ……? スプーンも、お皿も、向こうにあると思うよー?」


 以前の家からこの新居に引っ越した際に、ほとんど全部持ってきていたので、その時の事を覚えていたんだろう、自分が使っている物を全部持って行こうとしていたリルルに、最低限必要な物だけを選定してあげる。


「それにしても、グゥは本当にボク達に付いてきて大丈夫なの? スルナ村の森に棲んでいた聖獣なんでしょ? そこをホイホイ離れても問題ないの?」


「グゥ~~!」


 何だかわからないけど、大丈夫だそうだ。


「どうじゃ、準備はできたかの?」


 村長さんは、あの日以来、どこなく元気がない。


 モブドンが更迭されて以来、村の発展の為に毎日元気に飛び回っていたんだけど、最近はずっと家にいて、リルルの側であれこれ話をしている事が多い。


 そりゃ、寂しいよなぁ……村長さんやメディさんにとっては、たった一人の家族だし、村の未来そのものだ。


 領都に旅立ってもう二度と戻らない、なんて事はないが、少なくとも数年間は戻らない事になるだろう。


 子爵さんやルークさんにお願いして、数か月に一度くらい、戻れるように頼んでみようかな。



 そもそもボク達を領都に招待するという子爵さんの目的としては、簡単に言うと以下の通りだった。



 ① 超レアな才能を持つ若者に、命を狙われたり、攫われたりといった様々な危険が及ばないように保護する


 ② その才能を如何なく発揮し、さらにその能力を伸ばしてもらう為に必要な環境を提供する


 ③ 他領などに引き抜かれ、自領からの才能の流出を防ぎ、将来的に子爵領の発展に寄与して欲しい


 ④ 領都で様々な人と交流し、面識を得ておく事で、今後の才能の活かし方に色んな選択肢が持てる様に人脈を構築する



 かなりぶっちゃけて、本音に近い話をしてくれたんじゃないかと思っていて、特に③なんて、わざわざ言わなくてもいい話じゃないかという事まで話していたので、ボクたちに誠実に向き合おうという子爵さんの気持ちが伝わって来た。


 初めは難色を示していた村長さんも、単に子爵さんからの提案という断りにくい話というだけでなく、孫娘のリルルにとって一番良い道であると思い直したようで、結局は賛成する形で、リルルに領都に行くように話をしていた。


 もちろんボクにとってもかなり良い話だと思い、リルルが行くなら迷いはほとんどなく、子爵さんの誘いに乗る事にした。


 この村で過ごした一年間、忙しい合間を縫って行方不明の家族の情報を得ようとしてきたが、ほとんど何の手がかりや情報も得ることが出来なくて、このままでは……という焦りを感じる時もあった。


 村を出て、新しい手がかりを得るにはいい時期かもしれない。



 こうしてボクとリルルの旅立つ準備は、着々と進んでいった。



 ◇◇



 そしていよいよ、領都アトラに向けて出発する日が来た。


「いやぁ、さすが村の英雄だねぇ! 村中総出の見送りじゃないか!」


 ルークさんが感心した声で、ボクとナシロの旅立ちを見送りに来た村の人達を眺めている。


 街道に続く村の南門には、この村にこんなに人がいたのかというぐらい、たくさんの人が集まっている。


 その中には、ゴルスさんを始め、ゴツイ体をした大工さん達が、丸太に括り付けた横断幕を掲げている姿が見えた。



【ありがとう! 村の英雄ナシロ・聖獣の母リルルに感謝を込めて!!グゥもがんばれ!】



 たくさんの人の命を助けたり、村の発展に貢献してきたボクとリルル、ついでにグゥの旅立ちを祝ってくれる気持ちは嬉しいんだけど、コレはさすがに恥ずかしいから即刻やめて欲しい……! 何の羞恥プレイだよ!



「ナシロちゃー-ん! いつでも帰ってこいよー!!」

「リルルちゃんも、泣かないで頑張るんだよー!」

「戻ってきたら、ウチの息子と結婚しておくれー-!」

「なんだとテメェ! 抜け駆けすんじゃねぇよ! ナシロちゃんはウチの子になるんだよっ!」

「へっ! だったらリルルちゃんはいただきだぜー!!」

「「キサマらー-!!」」



 みんなが口々に激励の言葉を掛けてくれている。


 ……一部変なのが混じってるけど、スルーだ。なんだかスグルがその一団に向けて殴り込みに行ってるような気がするがそれもスルーだ。



「ナシロ、リルル。寂しくなるが、お前達なら何の心配もないと私は思っている。大活躍して、村まで噂話が届くのを楽しみにしているよ」


「ありがとう、リニーさん。喜んでもらえるように頑張ります!」


「私もお前の仲間として恥ずかしくないように、研鑽を積むつもりだ」


 しっかりと目を合わせ、握手をして、お互いの健闘を祈って別れる。



 その後も様々な人達に声を掛けられ、礼を述べていたが、これではキリがないと思った村長さんが、


「皆の者! もうええかげんにせんか! これではいつまで経っても出発出来んではないか!」


 そう声を張り上げてくれたので、ようやく騒ぎが落ち着いた。



「では、そろそろ行こうか、ナシロ君、リルル君!」


「はい、よろしくお願いします、ルークさん。それにププンさん、テムさんも護衛ありがとうございます」


「なんの! 道中はこのププンにお任せください!」


「その通り! 私達で必ずお二人をお守りいたします!」


 二人の頼もしい言葉に、リルルもお礼を述べる。


「ありがとうございます、ププンさん、テムさん!」


「「ははっ!」」


 二人共もう誰が見ても『ナシロ様とリルル様の部下です』と言わんばかりの態度で、ルークさんは苦笑いだ。


「……いや、勝手に騎士団員を引き抜かれても困るんだけど……はぁ……まあ、気持ちはわかるけどねぇ」




「それでは皆さん! 今まで大変お世話になりました! これからどんな事が待っているのかわかりませんが、ボク達も領都で頑張ってきますので、皆さんもどうかお元気で!」


「おじいちゃん、おばあちゃん、ぜったいに元気でいてね! いってきます!」


「グゥグゥッ!!」



 ―――こうして、ボクとリルルとグゥは、スルナ村を後にして、いよいよ領都アトラに向けて旅立った。


これで第一章は完結となります。


次章『領都編』の開始まで、少々お時間を頂くかもしれません。


なるべく早くアップしたいと思いますので、よろしくお願いします。


お読みいただき、ありがとうございました。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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