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第46話 スルナ村再開発事業

 とりあえず躯体が完成したボクたちの新居に、防水や保護の為の仕上げを施して、ちゃんと家として住めるように準備を進めていた。


 ただ内装に関しては材料も人手も足りないし、ボードを貼ったり塗装をしたりと言うようなことには魔法が役に立たず、ほとんど手を付けられなくて、かなり無骨な印象の部屋になってしまったのが少し残念だけど、こればっかりは今はどうしようもないので我慢しよう。


 それから家具、道具、それぞれの持ち物や荷物なんかを運び込んだら住めるよ!という所まで進めたところで、村長さんから少し待ったが掛かった。


「すまんが、ちと頼みがあるんじゃがのぅ、ナシロ」


「はい、何でしょうか?」


「実はのぅ、お前さんが建てた家を見学したいという者がたくさんおってなぁ、悪いが皆に見せてやってほしいんじゃ」


「え……?」


 ……見学? たくさん? 家を?


「構わんかのぅ?」


「あ、は、はい、ボクは全然構いませんけど……」


 あぁ、もしかしてこないだから村長さんが何やら考え込んでいたのは、これの事かな?


 村の人達に建物を見せてどうするのかはよくわからないけど……見たいっていうならどんどん見てもらって構わない。


 別に知的財産権みたいな事を主張するつもりもないしね。


 そもそもこの世界ではそういう権利が一般に認められるのかどうか怪しいよねぇ。


 こういう建築技術というのは、よほど特殊な技術や意匠でない限り、世界に広めて、より安全で効率よく建物を建てられるようにするのが建築に携わる者の基本理念であり、義務だと思う。


 ……まあ、祖父ちゃんの受け売りだけど。


 真似したかったら真似してもらって構わない……んだけど、ちゃんとした知識がなければそう簡単に出来るもんでもないし、下手に真似して失敗すると、人の命にかかわる事故が起きかねない。


 ボクが使用している建築・施工技術を利用してもらうんだったら、本とか出版して、それを見て学んでもらうのが一番いいんだけど、それも今はムリだしなぁ。


 もしそれで真似をして失敗でもされたら、ボクが直接悪いわけじゃなくても、なんだかちょっと責任を感じちゃうし。


 いや、もうすでにRC構造が世に広まっているんだったら問題はないんだけど、この村の建築技術の状況を見る限り、あまりそうは思えないしなぁ……


 ……そういう諸々を考えると、今はまだそう軽々に広める訳にはいかないかな。もし作り方を尋ねられても、申し訳ないけど断ろう。



「おお、そうかそうか! お前さんならそう言うてくれると思っておったわい! では明日から早速始めようかのぅ! ふぉっふぉふぉ!」


 えっと……一体ナニが始まるんですか!?



 ◇◇



 それから毎日のように、色んな人がボクたちが建てた家や塀を見学に来て、驚いたり感激したりして帰って行った。


 中には見知った顔もいて、聖獣に破壊された塀や家々を修繕していた、ドモンさんを始めとする村の大工さん達や、守備隊の人達、たまにお使いに出かける商店の店主さん、それから神父さんまでも見に来ていた。


 案の定、大工さん達が色めき立って、ボクを質問攻めにしてきたんだけど、それを黙ってみていたドモンさんが皆を一括して、黙らせてくれたんだ。


「バカヤロウ! こりゃあナシロ嬢ちゃんのとんでもねぇ発想から来てる、見た事もねぇ技だぞ! ヌケヌケと聞くんじゃねぇよ! それからオメェら、スゲェ技術だからって、絶対に真似すんじゃねぇぞ? テメェの建てたモンで人を死なせたくなかったらな!」


 さすがドモンさん、経験のある大工さんは危険性もよくわかってるねぇ。


 ドモンさんや、その下で働いてる大工さん達なら、無茶な建て方はしないだろうし、ボク自身もっと技術的に安定させる事ができたら、教えても大丈夫かもしれない。



 ひとしきり見学した後は、村長さんの家で何やら話し合いをして帰る人がほとんどで、ただ見学しに来ているだけじゃなさそうだ、っていうのはわかるんだけど……これはもしかして……。



「ナシロ、それにリルルや。ちょっと話があるんじゃが、ちと座ってくれんか」


 ある日、昼食を終えて、リルルと一緒に遊びに行こうとしていた所で、村長さんに呼び止められた。


 最近よくこういう村長さんを見るなぁ……何とも申し訳ない様な、けれどもどこか嬉しそうというか。


「実はのぅ、今まで引っ越しを待ってもらっておったのは、皆にお前さん達が建てた家の素晴らしさを見てもらってな、その上で、この建物をもっと村でどんどん建ててもらってはどうかと思っての。村の者に声を掛けて、希望する者には新しい家に住んでもらおうと考えておったんじゃ」


 なるほどー、やっぱりそういう話だったかぁ。何となく、そんな気はしていたんだよね。


「ナシロに相談もせんと進めてしもうて申し訳ないんじゃが、皆思いのほか乗り気でのぅ! 初めはナシロの事を知っておる何人かの家を新しく建てるぐらいじゃと思っておったんじゃが……」


 まあ、数軒の家を建てるくらいなら、材料さえあれば、そう大変でもないからな。ボクに相談するのはもうちょっと後でも構わないと思ったんだろうな。


「家を見に来た者がほとんど全員が希望しておって、さらにはその話を聞いた他の者達も、という話になってきておってのぅ。ワシが思っておったよりずっと大きな話になって来ておるのじゃ」


 それで最近、ボクに申し訳なさそうな顏で接していたのかぁ……最初は数軒ボクに建ててもらうだけだから、話がある程度固まってから、ボクに依頼するつもりだったのが、村中を巻き込んだ大事になって来て、村長さんもちょっと戸惑っているのだろう。


「すまんがナシロ、村の大工のまとめ役をしておるドモン、木こりのゴルスなどの者達と、近々話し合いの場を設ける事になっておるんじゃが、そこにナシロとリルルにも出てもらえんかのぅ?」


「え? リルルもいっしょなの?」


「おぅ、そうじゃそうじゃ。リルルもナシロと一緒に家を建ててくれたんじゃろう? じゃからリルルにも来てもらわんとのぅ!」


「うん、まかせといて、おじいちゃん! ナシロとリルルとグゥ、それからスグル、ププンさん、テムさんでたーっくさんお家を建ててあげるよ! ねえ、ナシロ! グゥ!」


 はは、ボクが答える前にリルルが元気いっぱいに答えてくれたよ。


「うん、そうだね、リルル。皆が驚くような家をたくさん建てよう!」


「おぉ、ナシロ! 本当によいのか? お前さんに負担がかかるのが気になってのぅ、中々言い出せずにいたんじゃが……それに、もし気が向かんかったら、断ってくれてもええんじゃぞ?」


 聖獣に村をメチャクチャにされてからというもの、何とかもう少し村の環境を良くしておきたいとずっと考えていたし、村長さんが進めてくれていて、むしろ助かったぐらいだ。


「いえ、気にしないでください。ボク、お世話になっている村の役に立ちたいし、それにボクの魔法の研究にも丁度いいと思うし、ぜひやってみたいです」



 ◇◇



 それからまた、毎日色んな人達がひっきりなしに訪ねて来て、家を見学しては村長さんに自分達も新しい家に住んでみたいという話をしていった。


 そして今日は、村長さんに頼まれた、ドモンさんやゴルスさん達との打ち合わせの日だ。


 朝食を済ませた後、村長さんとリルル、グゥと連れ立って、会場である守備隊の詰所にやってきた。


 すでにボク達以外は揃っていて、ボク達が一番最後の様だ。


 ボク達一行が入った途端、それまでざわざわと思い思いに話をしていた詰所の中に一瞬静寂が広がり、再度喧騒が広がって行った。


 ―――うん? この騒ぎは……みんなの視線がグゥに? あぁ、なるほど。


 この中には話は聞いているだろうけど、直接グゥを見るのが初めての人達も多い。本当に聖獣がいるのを目にして、思わず声を上げているんだろう。


 壁際には、リニーさんやププンさん、テムさんも立っていて、ボクは会釈をしておいた。


 ゴルスさんの隣には、スグルも当たり前だという顔でちゃっかり参加している。まあ、ナシロハウス第一号を一緒に建てたのは確かだし、参加資格は十分だな。


「皆さん、お待たせしてごめんなさい。今日はお招きありがとうございます」


 たぶん子供であるボク達を待たせないように配慮してくれたんだろうと思うけど、待たせたことに変わりはないので、礼儀としてひと言謝っておいた。


 すると、ボクと面識はあっても、そこまで話した事がない人達が少々ざわついている。


「おぉ……あれがスルナ村の神童……」「まさに英雄の貫禄だ」などと、口々にボクの話をしているので、少々……いやかなりこそばゆい。


 横に立つリルルやボクの斜め前に座っているスグルはもちろん、なぜかリニーさん達もドヤ顔でうんうん頷いている。……グゥも真似をして胸を張って偉そうにしているけど、コイツは多分真似してるだけだ。



「さて、では皆そろったようじゃし、そろそろ始めるとしようかの」


 村長さんの音頭の元、参加者の自己紹介から始まり、第一回スルナ村再開発事業の初顔合わせ兼打合せは滞りなく進み、その場で様々な事を決めていく。


 まず初めに、今の所建替えを希望している世帯、商店などを集計し、どのように工事を行っていけば効率的に進められるか。


 一期、二期、三期……と工事を進める区画の順番を決め、それぞれの区画の全体像を計画し、想定される工期を算出していく。


 全体の計画が決まれば、それぞれの細かい話に進んでいく。


 材料の調達方法、保管場所から、工事に従事する労働力などなど……


 もちろん、これらを本格的に決めようと思えば数か月がかりの事業になるけれど、そこは辺境の村の大雑把さもあって、そこまで厳密に決めてはいない。


 さすがにボクが全てを取り仕切って計画を立ててしまえば、いくらなんでも怪しまれるし、それにボクはまだ心のどこかで自分を余所者と思ってしまっている節があって、訊かれた事には積極的に答えるが、ちょっとおかしいと思った所があっても、致命的だと思う部分以外はあまり出しゃばらない様にしていた。



 途中で昼食の休憩なんかを挟んで話し合いは続き、もう日も傾いて来た頃、ようやく計画がひとまずまとまった事で、今日は解散することになった。


 ……リルル? そらもちろん寝てますがな。


 ……スグル? 頑張ってるよ? 睡魔と戦うのに。


 ……グゥ? 聞かなくてもわかるでしょ……?



 こうして、ボクは村のみなさんと一緒に、村の建物をどんどん竹筋RC造の建物として建て替え、村を囲う見るからに頼りない木製の柵を頑強なRC造の塀に更新し、さらには村道の整備を行い、新しい教会を建て、守備隊の詰所や村民の集会所、商業エリアの整備などにまい進し、一年が経つ頃には、もはや辺境の村と呼ぶには相応しくない、ちょっとした市街地を持つ地方の町の様な様相を呈してきていた。


お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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