第44話 ナシロとリルルの建築現場
「ワッハッハ! おうおう、やっと嬢ちゃんの役に立てる時が来たかぁ!」
目の前には上機嫌なゴルスさん。
今日は、スグルのお父さんで木こりのゴルスさんの家に来ていて、“竹筋”の材料となる丈夫な竹を採取してきてもらえるよう、お願いをしている所だ。
以前、森でグレイトボアに襲われている所を助けた事で、ボクの事を命の恩人としてとても好意的に接してくれている。
あの時、ボクは初めての実戦だったけど圧倒的な魔法力であっさりボアを撃退してしまい、さらにはスグルのケガを治した恩人として、恩人の為なら何でもやってやるぜ!ぐらいの熱量のゴルスさんに、ボクはちょっと困惑気味の苦笑を浮かべてしまうけれど、そこまで言ってくれるのは素直に嬉しい。
「えっと……ゴルスさんの仕事を邪魔してしまうかもしれませんが……大丈夫でしょうか?」
「なに言ってんでぇ! オレの命どころか村まで救っちまう英雄サマにゃあ、オレなんかじゃ役に立てねぇかもしれねぇって、何か出来るこたぁねぇかって、ずーっと考えてたんだぜぇ!? それが、木こりのオレに、竹を切って持ってきて欲しいって? やっと役に立てるってもんだ! そんな事で構わねぇなら、いくらでもやらせてもらうぜ!」
「ありがとうございます! とても助かります!」
やったー!
さすがにこの身体では、竹を切るのはともかく、運んだりするのは厳しい……っていうかそもそも村の外に出るのも許してくれなさそうだしなぁ……最近ボクの事を守るってうるさ――コホン、しょっちゅう様子を見に来るリニーさんとかププンさんとかテムさんとか。
それにボクには多少の知識はあっても、材料調達の実地の経験はないし、どういう竹が丈夫かとか、ゴルスさんの木こりとしての知識と経験に頼れるのが大きい。どいういう竹が欲しいか、要望を伝えておく。
「ああ、なるほどなぁ。まあ、任せといてくれ! きっと嬢ちゃんが気に入る竹を持ってくるぜ!」
とても嬉しそうに笑うゴルスさんがとても頼もしい。
「あの、ゴルスさん……今日は、スグルは……?」
「うん? あぁ、なんだかよくわからねぇが、最近ちょっと……な」
ボクやリルルの才能色や魔法の事を隠さずに話して以来、それまでほぼ毎日魔法の練習をしに村長さんの家に来ていたのに、めっきり姿を見せなくなったので、ちょっと心配だったんだよね。
ゴルスさんの話によると、何か考え込んでいることが多くなって、口数も少なく、黙々とゴルスさんの仕事を手伝ったり、一人で魔法の練習をしているらしい。
今日もボクが来るのを聞いて、近所の子供達とどこかへ遊びに出かけたらしい。
スグルなりに自分の中で気持ちに整理が付くのを待つしかないかなぁ。
またゴルスさんに会いに来る事もあるし、ボチボチ様子を見に来るとしよう。
ゴルスさんにお礼を言って、村長さんの家に戻ったが、すぐにまた出かけて行って、“竹筋コンクリート”実現の為の材料集めに奔走する。
◇◇
それから数日かけて、村長さんに紹介してもらった人達に材料採取のお願いをして、とりあえずは必要な材料を揃えてもらえる事になり、次々に材料が運び込まれている。
ちなみに材料費については、村長さんが騎士団から支給されているお金で支払ってくれるという話で進めていたんだけど、いざ払おうとしたら、村の英雄からお金なんてもらえないって言いだして、結局誰にも受け取ってもらえなかった。
とても申し訳ない気持ちで一杯だけど、そこはもう割り切って、魔法を利用した建築技術を研究して実用化して、どんどん村を発展させる事で恩を返そう。
材料置場として、村長さんの家の裏側に設けているボクの研究エリアに、雨で濡れたりしないように、【土匠】を利用して石積みの小屋を造作してそこに搬入してもらった。
そして今日、ついに必要な材料が全て揃った。これで次のステップに進める。
いよいよ竹筋コンクリートの試作だ。
「ねぇねぇナシロ、今日は何を作るの?」
リルルも興味があるようで、最近ボクが掛かりっきりになっている竹筋コンクリート作りについての質問をよくされる。
「グゥ?」
グゥもそんなリルルの真似をするように、リルルのそばで飛び回りながら覗き込んでいるが、こっちは興味がある訳じゃなく、ただリルルの真似をしているだけだ。
「今日はね、ちょっとボクが考えた建物の作り方を試してみようと思ってね。ゴメンね、最近ずっと一緒に遊んだり魔法の練習ができなくて」
もちろんRC造はボクが考えた訳じゃないけど、そうでも言っておかないと誰かに聞いたとか本で読んだとか、この辺境に住む5歳の少女じゃあ、そっちの方が不自然だからそういう事にしている。
「ううん、だいじょうぶだよ! ナシロが色んな面白い事を見せてくれるから、リルル楽しいよ! グゥも楽しいよね!」
「グウッ!!」
うぅ……ええ娘や……。
キラキラした目でボクを見つめるリルルの為にも、絶対に成功させないとな!
実は材料が全て揃うまでの間に、村長さん宅の周辺を整地していて、【飛燕】で邪魔な木を伐採し、【火波】で雑草を焼き尽くし、地中の邪魔な石を【土匠】で粉々にして土にしたりして、かなり広い建築用の土地を確保した。
魔法のおかげで、面倒な整地や地盤改良工事が一瞬で終わる事に感動して涙が出て来たね。
幸いこの辺りの地盤はけっこう地耐力が高そうな地盤だったが、もし粘性土だったとしても【土匠】であっという間に礫質土に変えられるんだぜ!? そんなバカな話があるか!?
もちろん根切りだって地業だって【土匠】があればあっという間に……!!!
さらにさらに!!
魔導書の機能で頭で思い描いた通りに線や文字が描けるおかげで、まるでCADと呼ばれる建築用のソフトウェアで描いた様な精密な図面が、超短時間でお手軽に描けちゃうとか!!
「……? ナシロ、どうかしたの?」「グゥ?」
「あ、いや……! ちょっと考え事してたんだ!」
ハァ……ハァ……建築士にとって夢のような魔法の数々につい興奮してしまい、リルルとグゥに不思議そうに見られてしまったが、程ほどにして、本題に入ろう。
まずは、この500㎡ほどに整地した場所をぐるっと囲うように、RC造の塀を建てて見ようと思う。それが上手くいけば、その内側に竹筋RC造の邸宅を建てるのだ。
もし想定通りに完成すれば、村長さんの自宅として新邸に移ってもらえたらいいなと考えている。
ちなみに竹筋コンクリート試作の為に塀から築造するので、本来の建築工事としてはあり得ない順番だけど、【土匠】のおかげでこんな事も可能になる。
――さて。
まずは基礎を作ってみる。
建築で言う『基礎』とは、その上に建てる構造物を支える構造部材で、これがしっかりしていないと風力や地震力などに抵抗の出来ない、まったく使い物にならない危険な建物になってしまうという物だ。
塀を建築する場所に沿って、ゴルスさんから提供してもらった竹を割って竹筋にした物を使って、基礎となるコンクリートを打ち込んでいく。
【土匠】のおかげで、セメントや骨材については魔法で思い通りに移動させられるので自分で運ぶ必要はないが、竹筋だけは自分で設置していかないとダメなんだよなぁ。当たり前なんだけど、魔法が便利すぎて手作業が途方もなく面倒に感じてしまう。
しかしまぁ……土を思い通りに操る事が出来るおかげで、コンクリートを打つ際には必ず必要な『型枠』が要らないっていうのも反則だよなぁ。竹筋並べるくらいで文句言ってたらダメだな!
ボクが竹を縦横に並べているのを見たリルルが、手伝いを申し出てくれた。
「これを並べたらいいんだね! リルルとグゥも手伝うよ!」
「グウゥッ!」
「ありがとう、リルル、グゥ。とっても助かるよ」
二人と一頭で竹を並べ、セメントと骨材を混ぜてコンクリートを打設していく。
番線どころか代わりとなるヒモすらないので竹筋を固定できず、竹を並べては打設し、並べては打設しと非常に効率の悪い、魔法がないと不可能な方法で基礎を築造していく。
いくら魔法で楽をしているとは言え、さすがに幼女二人と幼獣一頭だけでは一日の作業量も限られているので、初日は10mぐらいしか基礎を打設出来なかった。
それからは、ボクとリルルとグゥで毎日少しずつ作業を進めていき、一週間後に基礎が完成し、さらに一週間後には、敷地を囲むRC塀を完成させる事ができた。
「やったぁ! できたね、ナシロ!」
「グゥ!グゥッ!」
二人して泥にまみれ恰好だし、それに塀の高さはボクの顏の高さくらいまでしかない低い塀だけど、とにかく思い描いた通りの竹筋RC造の塀ができたんだ!
満面の笑みで喜び合うボクとリルル。
「おお、これはまた、すごいもんを作ったのぅ!」
ボクとリルルが騒いでいる声を聞きつけたのか、村長さんがこちらに来て、完成した塀を見て目を丸くしている。
「ふむふむ……なるほどのぉ。魔法でそんな事が出来るんじゃのぅ……」
村長さんは何やら考え込みながらブツブツ呟いていたかと思うと、用事を思い出したと言って家の方に戻って行った。
「じゃあ次は、いよいよ家を作ろうか!」
「はーい! リルルね、おっきな家がいい!」
こうして次の日から、ボク達は家づくりに取り掛かる事にした。
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