第43話 翠緑の母リルル
前回の更新から休載をさせていただきましたが、大変お待たせしました。
少し落ち着いてきましたので、執筆再開したいと思います。
ただ、まだ毎日更新する余裕はありませんので、少し不定期になるかと思いますが、もしよろしければまた読んでいただけると嬉しいです。
村に魔物の群れが現れ、皆で協力して撃退してから十日ほどが過ぎた。
あれから村は平穏そのもので、悪代官もいなくなり、村民は貧しくはあれど、心穏やかに日々を過ごしていた。
これはアレだな。そうそう、ちょっとしたナ〇節だ。たぶん永遠じゃない方。
きっとまた何かが起きて、村の人たちが大変な目に合う事になると思う。
魔物が現れたり、第二の悪代官が現れたり、作物が不作に陥ったり、自然災害で建物や人に被害が出たり……
それは元の世界でも起こりうることばかりだけど、この世界ではそれが起こる確率が恐ろしく高い。
ここ数日はそんな事を考えていて、いつかボクが家族を探しに旅に出る時には、せめて村の人達にはもっと安心して、安全に暮らしてほしい。
村を囲う柵の修復は完了し、聖獣に破壊された建物の修繕も一応は完了した。
しかし……こう言ってはなんだけど、とても心許ない。
あれくらいの柵では聖獣はおろか、先日のダイアウルフの群れでも軽く突破され、ろくな避難場所もない村人が命を奪われることになるだろう。
とりあえず、少なくともその辺りはもうちょっと何とかしておきたい。
完ぺきに防ぐことは出来ないにしても、せめて救援を求める間くらいは持つようにするとか、そういう緊急事態はもちろん、普段の生活レベルももうちょっと良くしておいてあげたい。
その為に、ボクはまず、ある事を実行することにした。
◇◇
「グゥ!!」
「あははは! グゥ、ダメだよ~!」
ある日の午後、庭に出てみると、グゥとリルルが戯れているのが見えた。
こういう光景を、守って行きたいよね。
リルルについても、後回しにしてきた事が、この数日で色々わかってきた。
あの後、改めてリルルのステータスを確認したら、とんでもない事が判明した。
今のリルルのステータスだ。
――――――――――
【加入No.】 002
【名前】 リルル
【年齢】 5
【性別】 女
【所属】 スルナ村
【状態】 良好
【称号】 緑聖の母
【基本レベル】 3/42
【魔法レベル】 6
【魔法色ランク】 赤:1 青:1 緑:3 黄:1
【習得魔法】 ランク1…【水球】【水霧】【光矢】【光散】
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
ダイアウルフの群れが村に現れる前は、リルルの才能色は
【青:1 黄:1】
だけだったが、そこに【赤1 緑3】が加算されている。
――そう。
グゥの才能色が、【加入者】として正式加入した時にボクに加算されずに変だなと思っていたけど、なんと、リルルに加算されていたんだよ! ウソだろ!?
これを見た時はたまげたね……。
これでリルルの魔法レベルは一気に6になり、恐ろしいほどの強化を果たしている。
基本レベルが足りてないので、ボクと同じく、保持してる才能色で使えるはずの魔法の多くがまだ使用不可だけど、経験を得てそれらが解放されて行けば……とても楽しみな事になりそう。
なんせ、才能だけならあの“風の英雄”ルークさんにも勝っている。
この事を、スグルに伝えるかどうかちょっと悩んだ。
ボクやリルルに負けないように頑張って来たスグルだが、ボクはともかくリルルにまでここまでの才能色の差を見せつけられては、落ち込んでしまうと思ったからだ。
でも伝えないというのもまた、スグルを仲間はずれにしている様で嫌な感じだ。
結局、正直に話したんだけど、やっぱりかなり凹んでしまって、最近あまり家に顔を出さなくなってしまった。
その内何かフォローを入れておこうと思う。
話が逸れたが、リルルの件だ。
もう一つ、大事な事も検証してみた。
聖獣を倒した次の日、クズモ達に連行されて、モブドンの屋敷に行った時の事だ。
あの時モブドンのあまりのやり様にリルルがキレちゃって、モブドン一派に向けて無詠唱魔法を発動しようとした事があった。
あの時の状況を色々検証して再現しようとした所、結論から言うとそれは成功した。
ボクがある程度近くにいて、魔導書を出している場合、リルルも無詠唱魔法が行使可能になる、という事が判明した。
これもまた、とんでもない能力だ。自分で言うのも何だけど。
とにかく、これからのリルルがどう成長していくのか、物凄く楽しみだってことだね。
それから、謎なのが“【称号】緑聖の母”ってヤツだ。
たぶんグゥ絡みのナニかだろうけど、今の所よくわからない。グゥの保護者になったよー、みたいな事かも。
恐らくだけど、リルルにグゥの才能色が加算されたのは、この“緑聖の母”という称号の能力かもしれない。
……しかしこうして見ていると、“母”というより“姉”っていう感じだな。
一人と一頭はいつも一緒にいて、もう引き離すことなどできそうもない。
村長さんも半ば覚悟を決めているようで、もう何も言わなくなってしまった。
食費なども、騎士団副団長のルークさんが全て用意してくれているそうで、今の所問題なく、村長さん宅ですくすくとグゥは育っている。
面倒かけ賃みたいなのも別に出ているみたいで、村長さんもホクホク顔だ。
とりあえずは、しばらくリルルとグゥについては様子見という事になっているようだし、このままさらに仲を深めておいてもらって、グゥが人間に害を及ぼさないように躾けて行こう。
遊んでいる一人と一頭を横目に、ボクは庭の勝手口から出た所にある一画に向かう。
村長さんの家の周囲には、というかこの村はみんなそうだけど隣家とはかなり離れているので、広いスペースがあり、家の周囲以外は“誰々の土地”というような厳密な決まりはなく、かなり自由に使うことが出来る。
そこにボクの実験場というか、色々研究する場を設けさせてもらっている。
目下の最優先課題は、魔法を利用したある建築材料の開発だ。
ダイアウルフの群れを倒した際に基本レベルが上がり、たくさんの魔法が解禁され、一つずつ検証をしていった所、ボク的に小躍りしたくなるほど素敵な魔法があった。というか実際小躍りしてしまったね。
もちろんあらかじめ魔導書には登録だけはされていた魔法で、その簡単な効果の説明も読んではいたけれど、実際に使ってみると、思っていたよりずっと優秀な魔法だった。
それは基本レベルが5に上がったことにより使用可能になった【橙2青1】の魔法、【土匠】に今は注目している。
その効果は、土・水をある程度思い通りの形に操作できる魔法で、ボクの今実現しようとしている目標において絶対に欠かせない魔法だ。
―――今ボクが取り組んでいるのはズバリ、RC造の建築物の実現だ。
RC、つまりReinforced Cncreteの現代の一般的な意味としては、いわゆる“鉄筋コンクリート”だ。
しかしReinforcedの本来の意味は鉄筋という事ではなく、何かで“補強された”という意味だ。
この村で、この文化レベルで、“鉄筋”どころか鉄さえもほとんど満足に入手できないのはわかりきっていたので、鉄の代わりになる材料を考えた。
そこで、大学で受けた建築材料学の講義でチラッと、年配の教授に雑談的な感じで教えてもらった事を思い出した。
それは、戦時中などで、鉄の資源に乏しい日本で製造される事があったという、“竹筋コンクリート”という物だ。
詳細は省くが、鉄の代わりに竹をコンクリートの補強材として用いた、日本でもごく一部に、いまだその構造を残した建築物が現存しているという建築材料だ。
村長さんに聞いた所、村の東に広がる湖のそばにある森には、竹が群生している場所があるそうで、村の木こりに頼めば、採ってきてもらう事も可能だそうだ。
これは、スグルのお父さんのゴルスさんにお願いしてみようと思っている。
コンクリートの基本的な材料としては、水・セメント、それから骨材と呼ばれる、いわゆる砂利を用いて作られている。
その内の骨材については、巨大な湖が近くにあるという事で、すぐにでも入手可能で、問題なく用意できるし、見ずに至っては【青】の才能色を使えば自由自在に出し放題。
後問題となるのはセメントだが、これも村長さんに聞いてみた所、村の農夫達が肥料として石灰を使用しているそうで、村の南東にある山でかなり大量に採れるそうで、一部は近隣の村に売る事もあるらしい。
これらの材料を入手できるように、村長さんを通じて色んな人に声を掛けてもらっている所で、ボクはその間に【土匠】をもっと自在に扱えるように訓練中だ。
この魔法は今までボクが使ってきた魔法と違い、直接戦闘に役立つような魔法ではなく、生産や生活に役立つ魔法なんじゃないかと思う。
土や石、岩といったケイ素系の物質を自在に操ることができ、細かく砕いたり、逆に大きな岩として結合させる事もできる、何とも元の世界の常識からすると、気の遠くなるような時間を伴う自然現象でしか起こせないような現象も、ごく短時間で実現できる魔法だ。
さらにそこに水を発生させたり混ぜ込んだり、さらには水分を除去したりできて、砂を石に、石を粘土にするなど、どの状態にも自在に変化させることが出来る、建築現場や土木工事現場にしたら夢のような魔法だ。
この世界の魔法は、どうやら自分の中の想像力というかイメージの力が魔法の成否を左右するようで、初級者が魔法を中々成功させられないのはそれが原因の一つのような気がする。
ボクがこの魔法を中々自由自在に操る事が出来ないのは、元の世界のそういった常識が邪魔をしている。
一度割れた石は元に戻るようにくっつかないし、研磨もしないのに表面がツルツルになったりしないが、この魔法はそれを可能にするのにそれをイメージするのが中々難しい。
さて、これまでは土や砂、粘土を割ったり切ったり繋げたりこねくり回したりするだけだったが、だいぶ常識が取っ払われてきた所で、今日はちょっとそれを形にしてみようと思う。
目をつむり、頭の中でしっかり作りたいカタチを思い描きながら、手を前に差し出し、魔法を発動させる。
「【土匠】!!」
ズズズズ……!!
地面に散乱している土や石が集まり、結合し、形を整えていき、石材として仕上げてどんどん積み上げられていく。
自分の胸辺りまで積み上げた、直線で長さ10mの長さの塀を一瞬で作り上げた。
村長さんの家の周囲にも、乱積みの石垣がぐるっと取り囲んでいるが、それらは粗削りで不揃いな石が組み上げられているのに対し、ボクが造作した塀は見事なほど歪みのない、ビシッと真っすぐ切り揃えられた石材が整然と積み上げられている。
「おお、やった……!!」
基礎や鉄筋もなく、接着剤もなしにこれ以上積み上げると危険なのでここまでで止めたが、想像していたよりずっと、自分の思い通りの形に作成できた。
……これなら、材料さえ揃えば、あんな事やこんな事まで、やりたい放題……!?
それからボクは、暇さえあれば村長さんの紹介で色んな人の所に出向いて、材料を仕入れる交渉したり、【土匠】の習熟ついでに様々な構造物を試作する毎日を過ごしていた。
お読みいただき、ありがとうございます。
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