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第41話 グゥ③

 ダイアウルフ達は、三つのグループに分かれ、ボクとリニーさんの方へ3頭、ププンさん達へ2頭、リルルとスグルを含む守備隊の方へ3頭がそれぞれ襲い掛かった。


 …

 ……


 リルルは怖かった。


 引っ込み思案な自分が、こんな、魔物と戦う場所に身を置いているというのは、あまり実感がなかったが、迫りくる魔物を見ると、自然と身体に震えが来た。


 隣を見ると、同い年のスグルは勇敢にも、すでに覚悟を決め、震えながらも懸命に魔物と戦おうとしている。


(リルルにはできない!…ナシロ……たすけて……!)


 これまでそうしてきたように、いつも自分を助けてくれる、守ってくれる存在に助けを求めようと、視線をさまよわせ、大好きな親友の方に顔を向ける。


 リルルの自慢の友達は今、みんなの先頭に立って、魔物から村を守る為に一生懸命に戦っている。


 ここで声を上げ、助けを求めれば、彼女はいつものように、助けてくれるだろう。


 それは揺りかごの中で大事に守られているような、そんな安心感に包まる気持ちにさせてくれる。


 しかし……


 このままでいいのだろうか?


 ナシロと一緒に暮らすようになって、色々な事があった。


 周囲から見ると些細な事であっても、それはリルルに確実に影響を及ぼし、その生い立ち故に少々過保護気味に育てられてきた彼女が本来持っていた、明るさや大胆さが少しずつ、少しずつ顔を出すようになった。


 そして……グゥの存在だ。


 リルルを母のように慕う小さな生き物の温もりは、彼女の自立心をさらに促した。


 グゥを守る為にも、自分は強くならなければならない。


 先ほども避難しようとしていたリルル達を振り切って、村の外に出ようとしたグゥを放っておけず、外に出れば危険が待っている事などわかっていながら、追いかけずにはいられなかった。


 今も自分の傍らにフワフワ浮かんでいる小さな聖獣を守る為、リルルもとうとう覚悟を決めた。


 そしてこの出来事の後、彼女はよりアクティブに成長していく事になる。


 ……

 …



 襲い掛かって来たダイアウルフに対し、リニーの鼓舞により気合を入れ直した守備隊員達は、子供たちを守りながら奮戦していた。


 しかし元々彼らの手に負える相手ではない。


 徐々に押され始め、ケガを負う者が増え、構築した守備ラインを突破されようとしていた。


「ぐああっ!!」


 隊員の一人がダイアウルフの突撃に吹き飛ばされ、地面に転がる。


 そこへ別のダイアウルフが追撃をかけ、その大きな口にギラリと並ぶ狂暴な牙を剥いて、今にも噛みつこうと―――


「グゥッ!!」


 そこへグゥが突進し、身体が緑に輝くと、風の弾丸がダイアウルフに衝突し、


「ギャウンッッ……!!」


 悲鳴を上げながら吹き飛ばされていった。


「これは……魔法!?」


「大丈夫!?」


 リルルが倒れた隊員の元に駆けていく。


「あ、ああ……ありがとう、嬢ちゃん。それに、その小さな聖獣様も……」


「グウッ!!!」


 グゥは先ほどから興奮状態で、そのままダイアウルフに追撃を掛けるべく、突撃してきた勢いそのままに飛んで行った。


 そこへ、先ほど突撃してきたダイアウルフが身を翻し、再びリルル達の方へ突撃してきた。


「危ないっ! 黄の光よ、我が敵の視界を奪え!【光散(フラッシュ)】!!」


 リルルが魔法を発動すると、襲い掛かって来たダイアウルフの前に眩い光が現れ、目を眩ませる。


「グルァアア!?」


 一時的に目が見えなくなったダイアウルフがのたうち回っている。


「よしっ! お、オレも……! 赤き炎よ猛き力となり、我が敵を燃やし去れ!【火球(ファイアボール)】!!」


 そこにスグルが発動した魔法で攻撃を加える。


 ここまで毎日のように練習してきた【火球】はその威力を上げて来ているが、一撃でダイアウルフを倒せる程の完成度までには至っていない。


「ダメ……! リルルたちの魔法じゃ、バラバラに戦ってもたおせない……! グゥも一緒に、三人で攻撃しないと!」



 …

 ……



 ボクとリルルさんの方へ襲いかかってきた3頭のダイアウルフは、こちらに飛びかかってくる直前に、急ブレーキをかけるように立ち止まり、改めてこちらの様子を伺っている。


 なんだ……?


 ププンさん達や守備隊の方にはそのまま飛びかかって行ったのに、コイツらはなんで止まったんだろ?


 その間にチラリとそれぞれの状況を確認していたが、ププンさん達の方は問題なく対応していて、そう時間をかけずに倒せそう。


このぐらいのレベルの魔物は、日常的に対峙する機会も多いんだろう。焦ることなく落ち着いていて、さすが騎士団の騎士さんだね。


 守備隊とリルル・スグルの方は、最初かなり苦戦していたようだが、グゥが参戦し、続いてリルルとスグルも魔法で援護しだしてからは、なんとかしのいでいるようだ。


 ただ、それぞれバラバラに戦うので中々効果的な一撃にはなっていない。特にグゥが興奮状態で、目についた敵に場当たり的に突撃している。


それがこちらがまとまって攻撃をするのを阻害し、ダイアウルフ達に決定打を与えられないでいる。



 ――もしあちらが危なくなればいつでも助けに入れるように、目を配っておかないとな。



 それに対して目の前のダイアウルフは、10メートル先でウロウロするだけで、動き出す気配がない。


 ……もしかしたら、ビビってるの……?


野生の本能か何かで目の前の敵との力量差を感じ取っているのかもしれない。



 ボクは油断なくダイアウルフを見据え、さらに後方のフレイムウルフに対する注意も怠っていない。


 あの距離なら十分魔法が届く距離だし、突然魔法を撃ってくるかもしれないからね。


 リルルやスグル達が気になるし、こちらもそう時間をかけていられない。


「リニーさん、仕掛けます。援護お願いします」


「任せろ!」


 そのやり取りを理解したようなタイミングで、3頭のダイアウルフがはじかれた様に動き出した。



 パッと三方向に散り、前と左右から迫って来るのを見たリニーさんが、素早くボクのすぐそばまで飛び込む。


「大地より生まれし橙の力よ、我が元に集いて不変の壁となれ!【土壁(アースウォール)】!!」


 発動した半円筒状の【土壁】はボクとリニーさんを守る壁となり、三方向から殺到したダイアウルフの攻撃を阻んだ。3頭が壁の外で再び一つにまとまる。


 さすがリニーさん! 絶妙なタイミング! これでボクはひとまず攻撃に専念できる!


 ボクは赤の魔力を手に集め、壁の外にいる3頭に向かって魔法を放った。



「【火炎(フレイム)】!!」



 この魔法は赤2ランクの単色魔法で、その名の通り、発動した周囲に火炎を発生させて攻撃する。


 赤ランク1の【火波】の上位魔法のような感じだ。【火波】は複数に攻撃できる魔法とはいえ、その攻撃力は恐らく【火球】にかなり劣る。


 それに対し、この【火炎】は範囲攻撃でありながら、その威力は【火球】より多いと思う。


「恐らく」とか「思う」ってなっちゃうのは、自分で発動して練習はしているものの、実際何かを攻撃する為に使ったことがないからなんだよねぇ……。



 そうして、燃え盛る炎の柱が、ダイアウルフ達を飲み込んで行く。



「ギャアアアァァァ……」



 炎から飛び出して来た時に備えて注意していたが、3頭はあっさりとその場で倒れ、動かなくなってしまった。


 炎の柱がまだ燃え続けていたが、とりあえず魔法をキャンセルして消し、様子を伺う。



 ――あ、あら……?



 焼け焦げたダイアウルフが真っ黒になっていて、微動だにしない。死んでいるようだ。


 何と言うか、考えていたよりずっと簡単に倒せてしまった。自分でもびっくりだけど、これがランク2の攻撃魔法の威力、そして魔法レベル9の魔法使いのチカラって事なんだろう。


「…………」


 リニーさんが呆然とそれを見つめている。


「信じられん……ランク2魔法とはいえ、ダイアウルフ3頭をまとめて一撃とは……」


 私など必要なかったな、と苦笑するリニーさんだったが、そんな事はない。【土壁】で守ってもらったおかげで攻撃に専念できたのだし。



 ――さて。


 これで群れのボスが動き出すはずだ。とにかく早めに片づけてしまおう。


 そう思ってフレイムウルフの方へ顔を向けた時。


「グゥォォオオオオオ!!」


 フレイムウルフの全身が赤に輝き、口から炎の球を発射した。


 やっぱり撃って来たッ!!


 これは……【火球】かっ!! だったら……!


 リニーさんが再び【土壁】を張ろうとしていたが、その前に無詠唱のボクの魔法を発動させる。



「【水壁(アクアバリア)】!!」



 ボクとリニーさんの前に直線状に水の壁が生成される。


 これは青2ランクの単体魔法で、物理攻撃には効果が薄いが、魔力を伴う攻撃、特に赤系統の魔法を防ぐのに役立つ……と魔導書に書いてあった。


 フレイムウルフが放った、スグルの【火球】より二回り程も大きい赤々と燃え盛る炎の球が、ゴォと唸りながら接近し、【水壁】に衝突した。


 すると、【火球】は見る見る内に火の勢いが弱まり、あっと言う間に消滅してしまった。【水壁】はビクともしていない。


「ガルゥッ!?」


 自慢の攻撃をアッサリと防がれて、動揺を見せているフレイムウルフ。


「……はぁ。魔法レベル9とは、そして魔導書の力とはここまで凄まじいのか。私達とは文字通りレベルが違いすぎて、もはや呆れるしかないな……5歳の少女に先頭に立たせるなど、もし失敗すれば私の命を持って償おうとか考えていたのがバカみたいだ……」


 リニーさんが何やらため息交じりにブツブツ言っているが、あまり気にしないで行こうっと。


 すると、魔導書が金色に輝き、パラパラと捲れて表示されたページに変化が現れ、チラリとそれを確認する。



「っ!?」



 ―――待ちに待った瞬間が来たっ!!



 ボクは魔導書から視線をフレイムウルフに戻し、今度はこちらから攻撃してやるぞ、という意思を込めて睨みつけると、相手はビクリと身を震わせ、2歩、3歩と後ずさりをしている。


 じりじりとそちらに近づきながら、ボクはたった今得たチカラを使う為に全力で、全身に魔力を纏わせる。



 ヒィィィイイイイン――――



 周囲に眩いばかりの青い輝きが溢れ出し、隣にいるリニーさんが手を顔の前にかざして、あまりに強い魔力の奔流に耐えるようにしている。


「クッ―――!!! な、なんという魔力……!! 」


 ボクは溢れる魔力を右腕に全て集結させると、濃度の高い青に橙が混じり、鮮やかなコントラストが生まれる。


 ゆっくりと手を前に差し出し、掌をフレイムウルフに向け、さらに魔力を凝集し凝縮すると、さらに色に変化が現れ、薄い青い輝きの周囲に、白い冷気が発生している。


 ボクを中心に氷の草原が生まれ、辺りの気温が一気に下がった。


 余りに濃密な魔力の圧力に戦意をすっかり失くし、堪り兼ねたフレイムウルフがバッと身を翻して逃走を図った。


 ―――逃すかっ……!!



「……澄み渡る青の流れに橙の力を乗せ、我が敵を打ち抜く刃となれ……!!【氷弾(アイスバレット)】!!」



 フレイムウルフの【火球】を【水壁】で防いだ瞬間、ボクの基本レベルが5に上がり、レベル制限による使用不可から解放されたばかりの魔法を魔導書から選択し、全力で放った。



お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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