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第39話 グゥ①

「ナシロ殿…いや、様!! このププン、これよりあなた様の盾となり、命尽きるまでお守りさせていただきますッ!!」


「このテムも同じく、ナシロ様にお仕えさせていただきたい!!」


「え、えぇぇぇええええっっ!? ちょ、ちょっと、こ、困ります!!」


「そうですよ、お二人とも! ナシロを守るのはこの私の役目です!」


「リ、リニーさんまでっ!?」


「グゥッ……!!」


「あははっ!! グゥちゃんくすぐったいよぉ……♪」


「リルルとグゥはお願いだからちょっと静かにしててくれるかなぁ!?」


「な、何かわかんねぇけどオレも混ぜてくれよぉ~~!!」


「スグル…ボクだって何が何やらわかんないよ~~!! ……誰か、説明してくれー---!!!」




 ……どうしてこうなったんだろう?




 ◇◇



 ――――二時間前。



「さあみんな。お昼の用意が出来ましたよ」


 メディさん、それからお手伝いさんが用意してくれた昼食を、みんなで食べていた。


 例によって魔法の練習に来ていたスグル、それからププンさんとテムさんも丁度顔を出していたので、せっかくなのでみんな一緒に、という事になった。


 最初は固辞していた二人だったが、「たくさん作っちゃったし、余らせるのももったいないわねぇ」と困った顔で残念そうにしているメディさんの様子に、二人も観念したようだ。


「こんなに賑やかな食事は久しぶりねぇ」「本当じゃのぅ」と、メディさん、村長さんもとても楽しそう。


 特に村長さんは、長年の頭痛の種(モブドン)が取り除かれて、毎日ゴキゲンな様子。


 そんな、和やかな雰囲気で食事が進む中、食事中も卵を抱いたままのリルルが、突然立ち上がった。



「…………」



「ど、どうしたの、リルル……?」


 全員の注目を浴びて、いつものリルルならちょっと気後れしそうな場面だけど、一点を見つめて微動だにしない。



「…………たまご」



「たまご……? 卵がどうかしたの?」


「うごいた」


「えっ……!?」


「うごいた、うごいた、うごいたよ、ナシロ!」


「そ、それってつまり……」


「生まれる! 生まれる! 生まれるぅ!」



 え――えええええっっ!?



 も、もう!?


 そりゃ魔物って言うか聖獣の生態なんか知らないけど、いくらなんでも早過ぎないか!?


 この世界では違うの? 大きな動物の卵でも一週間で孵るの!?


 そりゃ元の世界の小型の鳥なんかは十日ほどで孵るのもあるらしいけど、大型の鳥なんかはひと月くらい掛かった気がするんだけど……いや、そもそも鳥じゃないのはわかってるけど……!


 他の人の反応を伺うと、みな一様に驚いているようだ。


 やっぱり……ボクだけじゃなく、みんな予想してなかったって事だよな。



 周りがオロオロしている間にも、殻が内側から破られ、黄金色の小さなクチバシが見えてきた。


 皆が固唾を飲んで見守っている中、リルルの「がんばれー!」という声だけが響いている。



 そして――



「グウッ!!」



 可愛らしい鳴き声を上げながら、小さな生き物が飛び出してきた。



 ……うん、間違いない、これはちっちゃいグリフォンだ。


 体長は50センチくらい。こないだ見た聖獣の小型版だ。


 けどちょっと色が違うかな?


 成体の羽毛の色は黄金色だったが、この幼体は少し緑がかった白い羽毛に覆われている。成長するにつれて色が変化していくのかな。


 羽根は成獣と同じく、まばゆいばかりの純白の翼。


 さすがに聖獣というだけあって、小さいながらも、とても美しい生き物だ。



 生まれたばかりなのに、元気にリルルの周りを飛び回っている。


 おお、もしかしてリルルを親とでも思ってるのかなぁ……刷り込み的な?



「お、お下がりください、ナシロ殿……!」


 そう言って、腰から剣を抜き、グリフォンからボクを庇うように立つププンさん。


「皆さんも、すぐに家から出てください!」


 テムさんも、周囲に注意を促しながら、油断なくグリフォンを見据えている。


「ど、どうすんだよ!?」


 スグルは、ちょっと腰が引けているが、すぐ隣に座っていた村長さんやメディさんを庇うように身構えている。うんうん、スグルもちょっと乱暴者だけど正義感の強い良い子だねぇ。



 すると――



「ダメだよ! 怖がらせないで!」


 リルルがグリフォンを肩に乗せて、周囲から守るように庇う。


「リルル……それ、大丈夫なの……?」


「うん、なんかね、わかるの。この子はリルルたちを傷つけないって」


 へぇ……?


 リルルにはちょっと不思議な所がある。


 先日の祠での出来事で、才能色が増えたり……


 ……祠かぁ。


 もしかしたら、これも何か関係あるのかもしれないな。




 ボクは慎重に、幼グリフォンを驚かせないようにゆっくり近づいた。


「ナシロ殿……ッ!」


 ボクを制止しようとするププンさんに、手振りで大丈夫だと伝える。


 目の前まで行き、顔を近づける。


「グウッ!」


 そ、そんなつぶらな瞳で見つめられたら……


 それに、もふもふの羽毛にめっちゃ触りたい!!


 恐る恐る、指をくちばしに近づけると、グリフォンはフンフンと匂いを嗅いでいる。


 そのまま首筋に指を持っていき、ひと撫で。


 ……うわぁ。


 もっふもふでふっさふさだ。


 幼グリフォンは気持ちよさそうに目を細めている。


 か、カワイイじゃないか……!


「グウッ!」


「きめたっ! この子の名前はグゥちゃん! グリフォンのグゥちゃんだよっ!」


「グウゥウウッ!!」


 幼グリフォン改めグゥも気に入ったようだ。リルルと二人ではしゃいでいる。


 その時。


 グゥの頭上に輝いていた、≪加入者(メンバーズ)≫の証である金色の文字が消えた。


 同時に魔導書が出現し、『加入者一覧』のページに新たな記載が現れた。



 ――――――――――


【加入No.】 009

【名前】 グゥ

【種族名】 グリフォン

【称号】 緑の聖獣

【ランク】 F

【状態】  良好/幼体

【基本レベル】 1/99

【魔法レベル】 4

【魔法色ランク】 赤:1 緑:3

【属性】 緑

【習得魔法】 ランク1…【火球(ファイアボール)】【火波(ファイアウェイブ)】【風球(エアシュート)】【風香(ウィンドセント)

【特殊能力】 緑の加護、不滅

【備考】

  世界に数体しか存在しない聖獣の内の一体。

  火や風の攻撃を得意とする。

  やや青の属性を苦手とする。


 ――――――――――



 ま、マジか……!!


 グゥが≪加入者(メンバーズ)≫に正式に加わった!?


 グゥのステータスは……聖獣と戦った時に見た物とほとんど同じだ。


 ボクは逸る気持ちを抑えながら、魔導書の最初にある自分のステータスを確認する……が……



 ―――あ、あれ!?



 ボクの才能色が増えていない!?



 ――――――――――


【加入No.】 001

【名前】 ナシロ

【年齢】 5

【性別】 女

【所属】 スルナ村

【状態】 良好

【基本レベル】 4/8

【魔法レベル】 9

【魔法色ランク】 赤:2 橙:2 青:2 緑:1 黄:1 紫:1

  ~~~~~

  ~~~~~


 ――――――――――



 どういう事だろうか……。


加入者(メンバーズ)≫が増えるとその者の才能色が加算されるんじゃなかったの!? 何か間違った解釈をしてるのかな……!?


 ま、まあいい。


 この辺の検証はまた後でじっくりやるとして、今はグゥの事を考えないとな。




「ふぉっふぉふぉ。何とも不思議な事もあるもんだのぅ」


 村長さんとメディさんはニコニコしながらリルルとグゥを見守っている。


「お……オレも触っていい……?」


 危険がなさそうだとわかって、スグルもグゥとお近づきになりたいようだ。


「グゥ……? グウッ!」


「え? ダメなの? リルルとご主人様以外はダメだって!」


「えええっ……!? そんなぁ!?」


……誰だご主人様って。


ボクはそんなモノになった覚えはないから、きっと誰か他の人の事だろうね。


ていうか、めっちゃナチュラルにリルルとグゥがコミュニケーションを取ってるんだけど……



 ワーワー騒いでいる二人と一頭を横目に、ボクはププンさんとテムさんに確認していた。


「あの、ルークさんにはこういう時の指示は受けていますか? グリフォンを捕獲しろとか逃がせとか……」


「いえ、それが……副団長ご本人は、森に帰すのが一番だとお考えの様でしたが……他の意見も多く……その……」


 どうもププンさんの歯切れが悪い。


「残念ながら、危険があるのなら、処分すべきだという意見が一番多いのです。子爵様も、それを無視するわけにもいかず……」


 テムさんが申し訳なさそうに話す。


 初めは警戒していた二人だが、子供達とグゥの様子を見て、考えが少し変わったようだ。


 あんなにリルルに懐いている様子のグゥを引き離すのは忍びないと思ってくれているのかもしれない。


「あの……とりあえず、少し様子を見てもらえるように、ルークさんに伝えていただけないでしょうか? まだ孵るのはしばらく先だとみんな思っているでしょうし」


「うぅむ……そうですなぁ……」


「何かあったら、ボクが何とかしますと。成獣を倒したボクなら、幼獣も問題ありません」


そんな事をするつもりはないが、建前上はそういう事にしておく。


「た、確かに。というか、この辺りでナシロ殿以外に手に負える者は誰もいないでしょうな……では、そのように副団長にお伝えいたします」


 ププンさんとテムさんにお礼を言って、次は村長さんとメディさんの方へ移動する。


グゥをこの家で世話できるかどうか、相談しようと思ったのだ。



 すると―――



「グルルゥゥゥ……!!!」


 リルルとじゃれていたグゥが突然毛を逆立てて唸りだした。


 しきりに一方向に向かって吠えている。



 ――この方角は……村の西の方?


 今日あたり、暴走した聖獣に破壊された西側の柵の修復が終わるという事で、後でみんなで見に行こうと話していたんだ。



「どうしたの、グゥ!?」


 グゥはリルルやボクに「グゥッ」と鳴いてから、また西に向けて吠えている。


 これは……ボク達に何かを知らせようとしている?



 まさか――また……魔物が出たとか!?


 ボクらにはわからない何かを感じているのかもしれない。


「村長さん、村の西の方で何か起きているかもしれません。念の為、向かおうと思います」


「むぅ、いや、しかしのぅ……」


「大丈夫です。ボクにはププンさんとテムさんが付いてますから。ね! ププンさん、テムさん」


「はっ……? あ、いえ……ハッ! どうかお任せあれ! 副団長閣下より任命された任務を、必ず果たします!」


「その通り! ナシロ殿には傷ひとつ負わせませんぞ!」


 ププンさんとテムさんが請け負ってくれたので、村長さんも折れてくれた。


 しかし、リルルも「グゥと一緒に行く」と言い出したり、「だったらオレも絶対に行く!」とスグルがゴネ出し、またひと悶着あったが、とにかく時間がないという事で、メディさん以外の全員で向かう事になった。


お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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