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第38話 森の異変

 グリフォンの襲撃があったあの日から、一週間ほどが過ぎた。


 あれから村は平穏を取り戻しているが、グリフォンが暴れた際に破壊された、村の西側の塀や家屋など、復旧の為の作業が連日行われている。


 住む家を失った村人は、一時的に元モブドンの屋敷に仮住まいとして住まわせ、家が完成した人から順に戻ってもらうようにしているそうだ。


 村の財力や労働力だけではとても間に合わないが、今回は元代官のしでかした事なので、子爵さんの責任の元に、資材や人手が出されている。


 そんなあれやこれやの手配は全部、副団長のルークさんが行ってくれているらしい。


 村長さんに付いて、何度か復旧現場に行ったが、そこで働いている作業員の人達が、副団長自らこんなに手厚く監督するなんて、他では見たことがないとか話しているのが聞こえた。


 ……そんなこと聞くと、なんか色々思惑がありそうで逆に怖いんですけど。



 そういう訳で急ピッチで進められた村の復旧が大方済んだ頃、最近ちょくちょく村に現れるルークさんが、またやってきた。


 とりあえず詰所に来て欲しいという話だったので、村長さんとリルルと三人で訪れると、ルークさんが笑顔で迎えてくれた。


 ……だからその笑顔が何だか胡散臭いんだって。ボクの思い込みがだいぶ入ってるのかもしれないけど、何か企んでいるようにしか見えないよ。


 もちろん、リルルは卵を今日も抱えている。というかほとんど肌身離さず持っているので、もう身体の一部みたいになってきたな。


 リニーさんは……いないな。今日は巡回でもしているのか、復旧作業の手伝いかも。



「やあやあ! 皆さんよく来てくれましたね! ナシロ君、リルル君、元気だったかな? 二人とも今日もとても可愛いね!」


「……三日前に会ったばっかりじゃん」


「オゥ!! 相変わらずナシロ君は手厳しいねぇ~!」


 もうこのやり取りも何回もやってるので、いい加減鬱陶しくなってきた。次はもう突っ込まないぞ。


 村長さんは、村を助けてくれたルークさんを恩人として扱うし、リルルは口の軽いルークさんの誉め言葉に気分を良くしている。ダメだよ、リルル、口の上手い男に騙されちゃ。


 ボクだけが冷めた態度なのでこの三人との温度差が激しいな。



「それで、今日はどんな用事ですか?」


「うん? えっと今日はね、紹介したい人たちがいてね。さ、挨拶しなさい」


 そう言うと、ルークさんの後ろに控えていた鎧を着こんだ兵士が二人、ガシャンと一歩前に出て姿勢を正す。


「ハッ! アトラハン子爵領騎士団所属、ププンであります!これからどうぞよろしくお願いします!」


「同じくテムであります!よろしくお願いします!」


 へぇ〜、リルザの駐屯部隊じゃなくて、騎士団の騎士さんか。


 よく見ると、先日の兵士達より確かにいい鎧を着ている。


「これからはこの二人をしばらくの間、この村に駐留させます。主な任務として、ナシロ君、リルル君、それからスグル君の警護に当たらせます」


 ……はぁ!?


「おお!お待ちしておりましたぞ!ワシは村長のブラスですじゃ。ようこそスルナ村へお越しくださいましたのぅ」


 聞いてないよ、村長さん!


 ボクは慌ててルークさんに近寄って、小声で話しかけた。


「いやあの、ちょっと待ってください。お気持ちはありがたいと思いますが、そんな事されたら、ボクたちに特別な何かがあると宣伝してるようなモノじゃないですか! 余計危険に巻き込まれませんか!?」


 ルークさんも、ボクの方に顔を寄せて、


「それはまあ、そうかも知れないけど、キミたちという極上の原石を見つけてしまった以上、放置するわけにはいかないんだよ、立場上ね。彼らには詳しい話はしていないし、それとなく守るようにしか伝えてないからさ! ね! 頼むよー」


 うーーん。


 まあ、しょうがない……かなぁ?


「本当なら、二人どころか一個分隊ほど送り込もうとしていた子爵様を説得して、我慢して二人にしてもらったんだから!」


 子爵さんは一体何がしたいんだ……


 とりあえず、そんな物々しいのは絶対に止めて欲しい。


 一個分隊は大げさにしても、確かにボク一人では全員を守りきれない時があるだろうし、ここは好意を素直に受け取っておく事にしようかなぁ。


 絶対に好意以外の色んな意図が混ざってるんだけど。


 それにまぁ……それならそれで、こちらも……


 ふっふっふ……守ってくれる人がいるというこの状況を利用して、リニーさんも反対できないような作戦を練って、安全に戦闘が出来ますよーアピールだ!


 その為にもまず、彼らとある程度友好的な関係を築いておきたいね。


「それに……さ。リルル君の抱えるソレもね、なんとかしたいんだけど……今のところ、我々の方でも意見が割れていてね。とりあえずは、村長さんの方で預かっていただきたいと思います」


「了解しましたですじゃ」



 それから、騎士の二人に自己紹介したり、ルークさんと話したりした後、ボク達は家に戻ってきた。




 その日の午後、いつものようにスグルが家にやってきた。


 近頃は前にも増して、この家に入り浸っている。


 というのも、グリフォンと戦った事や、モブドン一派と争った話をすると、自分がそこに参加できなかった事を物凄く悔しがっていたからだ。


 とにかくボクらの近くにいないと、また何か事件が起きた時に自分だけ乗り遅れると思っているんだろう。


 男の子だねぇ。


「おいナシロ! 今日も魔法の練習するぞ!」


 そう言って、裏庭で元気に【土球(アースボール)】や【土壁(アースウォール)】の練習をしている。


 それを見て、リルルも負けじと【水球(アクアボール)】を撃ちまくっている。


 リルルには、最近【光矢(ライトアロー)】と【光散(フラッシュ)】も教えて、青と黄のランク1魔法を全部習得してもらった。ランク2の【癒水(ヒール)】はまだ基本レベルが足りないので使えない。


 ちなみに、あまりにボク達が魔法の練習に熱心なので、村長さんが裏庭の一角にあった花壇を移動させて、ある程度荒らしてもいい練習場にしてくれたのでとても助かった。もちろん、植え替えはボク達も手伝った。


そうそう、モブドンの屋敷でゲスクとクズモと対峙した時、リルルが暴走気味に魔法を発動させようとした時、詠唱無しに【水球】を発動しようとした件は、再現しようと何度か試してみたが、まだ一度も成功していない。


 そうやって、ボクは自分の魔道書の魔法の検証を進めながら、時折二人にアドバイスしたりして、とりあえずは平穏な毎日を過ごしていった。



 例の騎士二人は、時折家に来て、ボクとリルル、それからスグルの無事を確かめに来ていたので、昼食を一緒にどうですかとか、少し話をしませんか、なんて少しずつ交流を深めようとしたんだけど、


「我々は騎士として、副団長の命令に従っているのみ。お気遣いは無用に願いたい」


 みたいな感じで、こちらと馴れ合うつもりはない、子供のお守りなどさせられて不満有り有りですって態度を貫き通していた。


 だからと言ってクズモみたいな悪い人達ではなく、ププンさんもテムさんも、職務に忠実な、真面目過ぎるくらい真面目な騎士さん達だった。


 なにせ、村に駐留している間の住居として、避難していた村人たちの家が全て復旧して空き家になった元モブドンの屋敷を宛てようとすると、自分達には分不相応で、粗末な家で十分だと断られたんだよね。


 そういう彼らの態度が、モブドンやクズモのせいで騎士団に悪い印象しかない村民たちにも、徐々に信用を取り戻させるきっかけになっていると思う。


 そういう事まで考えて騎士を派遣したのかも……あの人。


ちなみに、お二人のステータスは以下の通り。



 ――――――――――


【名前】 ププン

【年齢】 26

【性別】 男

【所属】 アトラハン子爵領騎士団

【状態】 良好

【基本レベル】 11/13

【魔法レベル】 1

【魔法色ランク】 橙:1

【習得魔法】 【土球】【土壁】

【武術流派】 ――

【魔技クラス】 ――

【習得魔闘技】  ――


 ――――――――――



 ――――――――――


【名前】 テム

【年齢】 26

【性別】 男

【所属】 アトラハン子爵領騎士団

【状態】 良好

【基本レベル】 10/12

【魔法レベル】 1

【魔法色ランク】 赤:1

【習得魔法】 【火球(ファイアボール)】【火波(ファイアウェイブ)

【武術流派】 ――

【魔技クラス】 ――

【習得魔闘技】  ――


 ――――――――――



二人とも魔法使いだ。それなりに有能な人を送ってくれたのかも。



 という訳で、ボクの下心による友好関係構築作戦はあまり上手くいっていない。


 ただ、一度ボクたちが裏庭で魔法の練習をしている光景を一度見かけてから、彼らの中で何か納得する部分があったのか、少しずつ態度は軟化していった。


「ナシロ殿は、何と言うか……色々不思議な子供ですね。副団長閣下が私達を派遣した理由、おぼろげながら理解しました。今後はもう少し、こちらに様子を見に来る回数を増やしたいと思います」


 そう言ってくれたので、これから少しは仲良くなれるかも。


 まあ、こういうのは焦ってもしょうがないしね。



 ◇◇



 スルナ村の西と北に広がる大森林、さらにその奥には数十キロに亘って山々が連なり、未だ人の手が入らない未踏の地となっている。


 当然、そこには様々な生物や魔物が生息し、一大生態系が形成されている。


 そんな、人間にとっては安全とは言えない森のすぐそばに村が存在できるのは、村に建っている祠と、聖獣グリフォンのおかげである。


 祠は一種の結界の役目を果たしていて、魔物にとって近寄りがたい領域を生み出している。


 その為に必要な魔力が、聖獣グリフォンから祠に流れ込み、半永久的にその効力を発揮し続けるのだ。


 その為、祠の周辺には魔物が滅多に近づかず、人が生きていける土地として、長い年月の間に、村が興ったり廃れたりしてきた。


 しかしその為に必要な祠と聖獣の関係について、人は伝承を紡いできたが、長い歴史の中で次第に埋もれて行ってしまった。


 今では、村の古老であっても、正確に知る者はいない。聖獣を崇める風習が残っているのみである。



 それが今、聖獣グリフォンが一時的に卵に戻り、魔力を祠に供給する役目を果たせていない。


 数百年に一度、聖獣グリフォンが眠りにつき、再び復活するまでの間に、森の魔物が結界の影響を受けることなく、行動範囲を村の方に広げてしまう期間がある。


 その現象が、今まさに起こっているのだ。



 森の中にはゴブリンやオーク、コボルトなど、魔物による集落や群れなどもいくつか存在し、それらは周囲のパワーバランスにより、常に移り変わっている。


 その中の一つであるダイアウルフの群れが今、比較的村に近い所にある洞窟を住処としている。近いと言っても数キロも先にあり、祠が機能さえしていたら、全く問題がない距離だ。


 その群れは大きくなりすぎていて、一部が洞窟を出て新たな群れを作り、数頭で森の中を彷徨っていた。


 結界さえあれば、その群れが村に近づくことはなかっただろう。



 しかし……



 百年前に村が出来て以来、初めて魔物の群れが押し寄せる事態になった。



お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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