第36話 副団長の大事なお仕事②
「いやあ、モブドンの悪事を確かめる為とは言え、ヒヤリとしましたよ!」
ルークさんは頭を掻きながら笑っている。
ここは、村の守備隊の詰所だ。
詰所の大机に三人で並んで座り、対面にルークさんが座っている。
ルークさんのおかげで危機を救ってもらったボク達は、先に詰所に戻っていて欲しいと言うルークさんの言葉に従って、しばらく詰所で待っていた。
そこに、モブドン一派を捕らえたルークさんが現れ、モブドン、ゲスク、クズモを詰所の牢屋に入れたのだ。
牢に入れられる際にも、まだモブドンは濡れ衣だとか陰謀だとか喚いていたけど……清々しいほど諦め悪いなぁ。
牢屋と言っても、詰所に併設された小じんまりとした物で、造りもそこまでしっかりしたものではなく、4畳半ほどの広さしかない。
ゲスクやクズモの力があれば、自力で脱出する事も出来そうだ。
でも、もう二人とも抵抗する気力はないようで、大人しく牢に入れられている。
ルークさんによると、後ほど騎士団の部下が村に到着次第、この三人に加え、モブドンの配下、それにリルザ駐屯部隊の兵士達も連行して事情聴取するとの事だ。
主犯格の三人については、その悪質性から、領都に連行してから、子爵様より直々に罰が下されるそうだ。
「助けてもらったことには感謝しています。でも、もうちょっと早く助けて欲しかったなぁ」
「うっ……!」
「モブドン達の話を聞いていたなら、もっと早い段階で悪事を白状してたと思うけどなぁ」
「ううっ……!」
ルークさんを追及すると、バツの悪い顔で苦笑いしている。
「ご、ゴメンよ、本当はもうちょっと早く入るつもりだったんだけど……白状すると、キミがどうするつもりだったのか、興味が沸いてしまってね」
「ボクですか?」
「ああ、リルル君が魔法を撃とうとして、それにゲスクやモブドンが反応した時だよ。キミがそれに一体どう対処するのかなって、さ」
ああ、そういう事か。
「それでまぁ……ギリギリまで様子を見ても大丈夫かなぁ……? みたいな?」
そりゃあ、ルークさん程の力があったら、ギリギリに飛び込んでもどうとでもなるだろうけど。
「どうやらあの状況からなんとか出来る手段があるんだねぇ、魔闘技も無しに。流石に直前で止めさせてもらったけど、アレ、どうするつもりだったんだい?」
「えーとですね……って、そんなこと言われて教えると思いますか」
「かっかっか……! まぁまぁナシロや、細かい事はよいではないか」
村長さんは村やリルルを守れた安心感からか、先ほどからいつもよりテンションが高い。
命を捨てる覚悟をしていたとは言え、もちろん死なずに解決するのが一番だもんね、よかったね、村長さん。
「あの……! あ、ありがとうございます……」
リルルも頑張ってルークさんにお礼を言った。
おお、えらいぞ、リルル!
ちなみに聖獣の卵はもちろんずっと抱えたままだ。
「いえいえ、どういたしまして。キミたちを助けることができて、本当に良かった」
そんなリルルに対して、優し気な笑みを浮かべて答える。
うーん、細マッチョのイケメンで、この笑顔。
とても軍人に見えない。
「おっ、その顔は、私が本当に騎士団の副団長かどうか、疑ってる目だね~?」
「はっきり言ってしまえば、その通りですね」
「うっ……な、ナシロ君は何か私に厳しくないかい……?」
「まあでも、信じられないぐらい強いのは判りました。そこだけはホメてあげます。凄かったです」
「何か素直に喜べないけど……ありがとう。ただねぇ……そのせいで、私はやりたくもない副団長なんてやるハメになっちゃってねえ」
さっきも同じような事を言ってたけど、元々の騎士団の人じゃなかったのかな?
「私は元々、王都で魔法や緑迅流を学んでいてね。それでまぁ……色々あって、この領の子爵様に拾っていただいてね、その恩を返す意味でも、少し協力させていただいているんだよ」
ほぅ……!
王都で修行を!
いいなぁ、いつかはボクも行きたいなぁ。
ルークさんの強さを目の当たりにした今は余計にそう思う。
是が非でも、四色流派のどれかは絶対に使えるようになっておきたい。
「だからまぁ、騎士団に入るのは構わないんだ。だけど、まさか副団長をやるなんて………聞いてないよ! どういう事だよ、あのジジイ!」
なんだか自分で話しながらハァハァと興奮しだした。大丈夫か、キャラ変わっちゃってるけど。
ジジイ、というのは誰だろう? 子爵さんかな?
「あの、でも……領内を旅するのが副団長の仕事なの?」
「ああ、それはね。私はこんな感じであんまり騎士っぽくないし、副団長って言われても、騎士団をまとめる仕事なんて向いてないからね。子爵様と団長の間で話し合われて、こういう特殊な仕事に就くことになったんだよ」
「こういう……って、領内を回って悪いヤツをやっつける仕事?」
なんだか、この人相手だとどういう訳か、ボクも敬語じゃなくて子供らしい話し方に自然になっちゃう。
「そうだね、簡単に言うとその通り。まあ……ボクの性にも合っていると思っているよ。それに、キミ達も見た通り、こういう時、副団長の肩書って役に立つでしょ?」
なるほど、大体どういうカラクリだったのかわかったな。
「ところで、ナシロ君。今度はこちらから質問いいかな?」
ずっと浮かべていた微笑みを消して、少し真剣な雰囲気になる。
―――来た。
「はい、なんでしょう?」
「聖獣グリフォンを倒したのは、キミだね……?」
ズバッと来たな。
絶対こういう話になると思ってたんだよなぁ。
「ル、ルーク様……! それは……!」
村長さんが慌てて誤魔化そうとしているが、さすがにムダだろう。
今回の事件を裏で調べていたようだし、さっきボクとリルルが魔法を使おうとした場面もバッチリ見られている。
「ご安心ください、ブラスさん。ナシロ君とリルル君の秘密は、広まる事はありません。ただ、子爵様と騎士団長、このお二人だけには報告することになります」
「し、子爵様にですかな……?」
ここは口を挟まず、二人のやりとりを見ていよう。
「ええ、先ほども申しましたが、私の仕事は領内を回る事です。それには二つの大きな役割があって、一つはモブドンのように不正をしている役人を正すこと。二つ目が――」
そう言って、ボクとリルルを見ながら、
「キミ達の様に、才能にあふれた領内の子供を見つけ、様々な危険から守る事。それは魔法の才能であったり、武術の才能であったり、明晰な頭脳を持つ子供であったり……そういう子供達だね。見つけるだけじゃなく、必要があれば保護する事なんかもあります」
そう言えば不思議に思っていた事があって、教会で才能の有無が判定できるのに、その情報は領主とかに報告の義務はないって聞いたんだ。
普通に考えると、そういう貴重な才能の持ち主は領の発展に貢献して欲しいとか、そういう話になりそうなもんだけど、別にそういうのはないらしい。
案外のんびりした世界なんだろうか。
「この領内で、暴走していたとはいえ、聖獣グリフォンを単独で撃破できる者なんて、ほとんどいませんからね。私でも難しいかもしれない。わかっておいて欲しい。ナシロ君、君はもうその年で、すでにそういうレベルにいるって事なんだ。脅かすつもりはないけれど、それがどういう事を引き起こすのか、第二、第三のモブドンが現れて、キミを自分の物にしようとするだろう」
いやいや、ルークさんなら暴走グリフォンぐらいなら何とかなるでしょ。
まあ、グリフォンとルークさんでは、魔法の系統が似ていて、相性があまり良くないから、少し苦労はするかもしれないけど、
「なるほどのぅ。それでは今回の件は、ルーク様にとっては見過ごすことの出来ぬ、非常に大事な仕事ですなぁ」
「こんな事になるとは、初めは思ってもいませんでしたけどね! 以前からマークしていたモブドン一派の調査のために訪れた村で、キミ達のようにとても面白い子達を見つけた時は、非常に驚きましたが、さらに驚いた事に、その内の一人が、暴走した聖獣を倒したと言う。これはもう、私が今まで担ってきた仕事の中でも、最重要の案件だと言えます。何とかして、キミ達を守っていく必要があると判断しました」
「まぁ、そいういう事であれば……よいか、ナシロ?」
ボクは村長さんに了解の意で頷いた。
うー-ん、聖獣と戦う時に覚悟はしていたけど、思っていたよりずっと早く、色んな人に知られることになっちゃったなぁ……
でもまあ、ルークさんは良い人だし、話を聞く限り、子爵さんも悪い人じゃなさそうだ。
そういう人たちに、それとなく守ってもらうっていうのは、考えようによっては都合がいいかもしれない。
それに、騎士団の副団長みたいな上の立場の人とのコネクションが出来たのは大きい。
これで、モブドンみたいな悪党が、そう簡単にこの村にちょっかいを出す事が出来なくなるかもしれないし。
「ルーク様のご想像通り、聖獣グリフォンは、このナシロが一人で倒しましたのじゃ」
村長さんとルークさんで、今後の細かい話をするという事で、ボクらはお役御免になった。
話が終わるまで、その辺で待っていて欲しいと言われたが、そう言われても、ここには遊ぶ場所もないし、どうしようかな……と思っていたら、こちらが話し終わるタイミングを待っていたように、リニーさんが話しかけてきた。
「ちょっといいかな、ナシロ。疲れている所悪いんだが、少し話があるんだ」
「もちろんいいですよ、リニーさん。リルルもいいかな?」
卵を抱えて退屈そうにしていたリルルも、「いいよ」と言ってくれたので、三人で詰所の外に出た。
先日ボクがリニーさんに魔法を教えてもらった、詰所の裏の修練場だ。
「先ほどは守備隊の面々がいる前だったので、詳しい話は聞くのは遠慮したんだが……」
えー-っと……?
ああ! クズモ達が乗り込んでくる前の話ね。
確かに、皆に持ち上げられて、口々にお礼は言われたけど、サイ隊長が話を逸らしてくれたおかげで、どうやって倒したのかとか、そういう話はほとんど突っ込まれなかった。
まあ、話す暇もなくクズモに連れていかれたんだけど。
リニーさんには、聖獣を倒した時に、気を失う前に少し話したはずだけど、もっと詳しい話を聞きたいという事か。
「どうだろう、お前の秘密を知る者として、そしてお前を守りたいと思う者として、詳しい事を知っておきたいんだ。ダメだろうか? 村長のブラスさんには、一応許可は取ってあるんだが……」
もちろん、ボクがこの世界に来てから一番信頼している大人であるこの二人には、最初から話しておくつもりだったので、否やはない。
「少し長い話になりますが……」
違う世界から転生したこと以外で、話せる事は全て話そうと思う。
特に、ボクとリルルが祠で得たチカラについて、リニーさんの意見も聞いてみたかったんだ。
三人で修練場の隅っこの木陰に移動し、芝生の上にリニーさんが布を敷いてくれて、その上で座って話すことにした。
そういうさりげない優しさが、カッコイイなぁ、さすがリニーさんだ。
リルルも安心したのか、ずっと抱えていた卵を自分の隣にそっと置いて座った。
そうして、ボクは祠であった不思議な出来事から始まり、今日のモブドンの屋敷での出来事まで、本人の許可を得ずに勝手に話すわけに行かないスグルの才能色の事を除いて、ほぼ全てを話していった。
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