第35話 副団長の大事なお仕事①
先ほど確認した、ルークさんのステータスだ。
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【名前】 ルーク・サンダース
【年齢】 22
【性別】 男
【所属】 アトラハン子爵領騎士団 副団長
【状態】 良好
【称号】 風の英雄
【基本レベル】 26/38
【魔法レベル】 4
【魔法色ランク】 青:1 緑:3
【習得魔法】 ランク1…【水球】【水霧】【風球】【風香】
ランク2…【昇壁】【風影】【乱雲】
ランク3…【雷撃】
ランク4…【渦雷】
【武術流派】 緑迅流
【魔技クラス】 礎級
【習得魔闘技】 駿迅斬
転廻
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これはエグい。
この強さ……もしかしたら、暴走してレベルダウンしていない聖獣グリフォン並の強さじゃなかろうか。
【雷撃】とかなんだよ!?
超カッコいい! ボクも使いてえええ!!
雷帝なりてぇ〜〜〜!!
さらには【渦雷】なんて、名前からしてヤバそうな魔法もあるし!
この辺りの魔法は、ボクの魔導書には載っていないから、多分緑の才能色が3ぐらいないと使えないんだろうなぁ……緑の加入者カモーーン!!!
それに加えて、恐らく四色流派の一つであろう、緑迅流なんてモノまで習得している。
さっき魔法を切った魔闘技・駿迅斬と、もう一つ、転廻っていう技もあるらしい。
まさに英雄。
多分、そこらの魔法使いや魔物なんざ問題にならない、圧倒的な強さだ。
そう思ってルークさんを改めてみると、初めて会った時から変わらない、なんだかちょっと頼りなく見える外見も、その実力を隠す為のパフォーマンスかとも思えてくる。
そこまで確認できていたので、ボクはゲスクの魔法がルークさんに迫って来ても、全く心配はしていなかった。
まさに格が違う、ってヤツだ。
どう考えても負ける訳ないなと思ったし、むしろ、ついに四色流派の武術が見られるかと、ちょっと期待もしていた。
それに驚いたのは、魔闘技を使う時に魔法の詠唱をしていなかった事だ。
もし詠唱の必要なしに使えるんだったら、確かにただの魔法使いだと、魔闘技使いには勝つのは難しそうだ。
あと気になるのが、「風の英雄」という称号だ。なんだよ、これもカッコイイじゃんか!
これは何だろう。
そう言えば、グリフォンも称号を持っていた。
もしかしたら、ステータスの底上げとか魔法の威力アップとか、そういう効果があるのかも。欲しいなぁ、称号!
そして、一番重要なのが、ルークさんの所属だ。
『アトラハン子爵領騎士団 副団長』
しかし、もちろんその情報は、魔導書を見ていないボク以外にはわからない事だ。
「は……? 今なんつった……?」
クズモの「副団長」という言葉の意味を理解できないゲスク。
いや、理解できないというよりは、理解したくないと言う方が正確だろう。
「な、なぜ子爵領騎士団の副団長がここへ……? ヒヒッ……あ、あの噂は本当だったと言うのですか……!?」
「副団長だと……!? ど、どういうこった、クズモ!!」
「……風の英雄が、領内の色んな場所に一人でフラッと現れたという話を、ヒッ……何度か耳にしました……」
ルークさん、この村だけじゃなくて、色んな場所を旅してたんだ……?
「それに、領内の村や町で代官や騎士などが、ある日突然処罰されたと言う話も合わせて、今考えると……」
〇門様か。
ルークさんの正体は〇門様だったのか……。
「はっはっは。そこまで知っているんなら話は早いですね! どうもご紹介が遅れました。私はアトラハン子爵領騎士団で、何の因果か副団長なんてやらされてます、ルーク・サンダースと言います」
「ヒヒッ……ま、まさか本当に……?」
ゲスクも、クズモも、もはや顔面蒼白で、今にも崩れ落ちそうだ。
そこへ、ルークさんから鋭い声が飛ぶ。
「アトラハン子爵領リルザ方面駐屯部隊長、クズモ!!!」
「は……ハハッ!!」
突然のルークさんの鋭い掛け声に、クズモが胸に手を当て、直立して敬礼の体勢を取る。
「しばらくその場で待機を命じます。君からはたっぷり事情聴取の後、騎士団副団長としての権限で、処分を下します」
「ハ、ハッ……」
もはや逆らう意思はなく、脂汗を流しながら、直立不動で待機しているクズモ。
ゲスクも似たような物で、自分は命令されていないにも関わらず、クズモと同じように真っすぐ背筋を伸ばして、気を付けの姿勢で立っている。
そちらをチラッと一瞥した後、フッと正面のモブドンへ視線を戻す。
「ひぃっ……!?」
事ここに至ってようやく、相手がどんな力の持ち主か気づいたようで、モブドンは怯えの表情を顔に張り付け、無意識に一歩後ずさった。
「さて。スルナ村代官のモブドン殿」
「な、なんじゃお前は……!?」
「えっ? いや、ですから、私はアトラハン子爵領騎士団、副団長のルーク・サンダースですが?」
ルークさんも、さっき言ったのに、何で二回も言わされるのだろう、という顔をしている。
……ホントに人の話聞いてないな。
「な、なぬ……? ……お、おぉ……!!」
先ほどまで怯えていた表情が、パッと明るくなった。
「これはこれは、副団長殿ではないか、ぐふふっ! 先日の領都でのパーティ以来ですなぁ!」
相手が誰だかわかった途端、いきなり態度変わったなぁ。
「ええ、ええ、お久しぶりです。モブドン殿もお元気そうですね」
「ああ、いやいやいや! ワシなど、代官とはいえ、こんな田舎に来なければならんお勤めですからなぁ! 毎日大変な思いで飛び回っておりますわい!ぐふふふふっ! もちろん、子爵様より直々に任命いただいた使命故、しっかりと勤め上げておりますぞぉ!」
今にも揉み手しそうな勢いでルークさんに媚びだしたモブドン。
この国、というかこの領の身分制度はよくわからないけど、騎士団の副団長であるルークさんの方が、村の代官であるモブドンより立場が上らしいという事は何となく読み取れる。
「そうじゃ、ルーク殿! ちょうど良いところに来られましたな、ぐふふふ! この村の者共が、子爵様より直々に任命された代官であるこのワシの、このワシの命を狙いおったのです! 幸い、ここにおるゲスクや、クズモ隊長のおかげで難を逃れましたがなぁ! ぐふふふふ!」
強力な味方を得たと思い込んでいるモブドンは、ルークさんの元までズンズンと進んできて、ボクたちが悪事を企んだという話をしきりに説明している。
「それについて事情を聞こうと呼び出した所、なんとあの村人達は、あろう事かこの場でワシらを亡き者にせんと、襲い掛かってきたのですぞ! ぐふふふっ! ルーク殿も、今ご覧になっておったでしょう!?」
勝ち誇った笑みで、こちらを見ているモブドンとは対照的に、ゲスクやクズモは顔色が悪く、自分たちの旗色が悪い事にとうに気付いているようだ。
「それはそれは、大変な目に会われましたね。ところでモブドン殿。紹介したい者がおりまして……入ってください」
ルークさんがそう言うと、部屋の入り口から、男が一人、ビクビクしながら入って来た。
「もちろん彼が誰かはご存じでしょう? アナタの護衛の一人ですが、先ほどから少しお話を聞かせてもらっておりましてね」
モブドンは少し訝しむような顏で、ゲスクはもうハッキリとマズいという表情をしている。
「彼の話によると、彼の同僚が一人、ある命令を受けて、昨日夜の森に入って行ったそうです。そして今朝方、遺体の一部が森のそばで発見されたとか」
「は……? 一体何の―――」
「その同僚は雇い主から怪しげなアイテムを受け取り、森で使うようにと言われていたそうです。そして状況からして、その後、暴走した聖獣グリフォンに殺された……」
なんだって……?
聖獣が暴走していたのは、やっぱり原因があったのか……モブドンが何かやったんじゃないかとは思っていたけど、本当にそうだったとは……
しかし、こう言っては何だけど、たかが村の代官程度の身分の者が気軽に手に入れられるアイテムで、聖獣なんて危険な生物を暴走させる事が出来るのは、なんていうか……こう、危なすぎないか? この世界思っていたよりずっと危険なのかもしれない……
「当然、雇い主というのはモブドン殿、アナタの事ですよね? さらには――」
そう言って待機させているクズモの方を見て、
「クズモ隊長、並びに冒険者ゲスクもそれに加担し、何が起きているのか知った上で、自分達の欲望を満たす為、村から不当な搾取をし、さらに許せない事にこのように幼い子供たちにまで魔の手を伸ばそうとした」
ギクッという音が聞こえてきそうなぐらい、クズモとゲスクの顔色がさらに悪くなった。
「ま、待っていただきたい……! そ、そのような事、ワシは知らん! 知らんぞ! その者が出まかせを言っているだけじゃあ!」
往生際悪く、自らの悪事を一切認めないモブドン。
「そ、そうじゃ、そいつが村の者と共謀して、ゲスクもクズモも、みながグルなのじゃ! ワシを陥れようとしているに違いない! 騙されてはいけませんぞ、ルーク副団長殿!」
ついには道理の通らない無茶苦茶なことまで口にし出した。
その様子を見ていたルークさんが、ため息を一つ。
「はぁ……やれやれ、大人しく罪を認めればまだ生きる道もあったかもしれないんですがねぇ、今回は結局未遂に終わった訳ですし……ま、こうなれば仕方ないでしょうね、自業自得という他ないですし」
「な、なん―――」
「実は私、ここに飛び込んでくるまで、部屋の外で会話の一部始終を聞いていたんですよ。モブドン殿が村に対して不当な金銭を要求し、村長の命を助ける替わりに子供を差し出せと言う話をね」
やけにタイミングピッタリで飛び込んできたと思ったら、外で様子を見ていたのか。
「さらには、怪しげな人物から受け取ったアイテムで聖獣を暴走させ、村に損害を与えた。ある人物の予想外の活躍によって、奇跡的に人的被害はありませんでしたが、それにしても見過ごせない被害です」
「あ、あわわわ……」
「以上の罪状は明白。直ちに領都で裁きを受けていただきますので、このまま全員、領都に出頭するように。ああ、そうそう。逃げてもムダですからね、もう領内に触れを出していますので、どこに行っても捕まりますよ」
ルークさんはニコニコしながら、モブドン一派の悪事に終止符を打った。
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