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第34話 風の英雄

 そのオジ……ルークさんは、ボク達に背を向け、モブドン達の方に正面を向き、魔法の発動を制止するように、左手をそちらの方に差し出していた。


いきなりのルークさんの登場により、魔法を発動しようとして溜めていた魔力を四人とも散らしてしまった。


「な……なんだてめぇ!?」


「村の守備隊員ですか……? 何者か知りませんが、こんな場面に飛び込んできて、自殺でもしたいのですかねぇ? ヒヒヒッ!」


 突然乱入した男に対し、ゲスクとクズモは驚きつつも、脅しをかけている。


「いえいえ、とんでもない! まだ若いし、やりたい事たくさんありますから、もちろん死にたくはありませんよ。決してオジサンじゃないですからね!」


 チラッとこちらにウィンクかましながら、おどけて見せるルークさん。


 ……オジサン呼ばわりされたの、結構気にしてるのかな。


 ごめんって。ボクはもう呼んでないよ?……まあ…リルルとスグルは呼ぶかもしれないけど。



「あれ……? あのひと……?」


 リルルもルークさんに気づいたようだ。


 そうそう、あのオジサンだよ。


 相変わらずの優男で、顔には薄く笑みを浮かべている。


 前回と違う所は、腰に剣を下げている所か。


 鞘の細さから見て、細剣と呼ばれるような剣かもしれない。


 その様が妙にしっくり来て、剣術に練達している者が醸し出す、ただ者ではない雰囲気が感じ取られる……ような気がする。


 だってボクだって武術なんて習ったことないし、何となくそんな気がするってだけだよ?



「危ないところを止めてくれてかたじけない。しかし、お前さんは一体どなたかのう? 村人ではないようじゃが……」


「はい、私はルークと申しまして、確かに村人ではありませんが、無関係というわけではありません。みなさん、少しこの場は私に任せていただけないでしょうか? 悪いようにはいたしませんので」


 そう言って、ニコリと笑顔を見せる。


 こないだ会った時には、観光客ではないが旅をしているとか言ってたけど、一体何者なんだろう。


 すると、魔導書がパラパラと勢いよく捲られ、人物一覧のページに情報が記載された。


 時間を掛けないように、ザッとそれを一読する。



 ――えっ……!?


 この人……!!



 っていうか、こんな大事な情報なら、もっと早く知りたかったよ……!


 初対面の時に魔導書に人物情報が記録されなかったのは何でだろう……?


 会った人全員が無条件に載る訳じゃないのか……もしかして、ボクが情報が欲しいと思ったタイミングとかかな……?


 確かにあの時は、ただの旅人だと思ってたし、ルークさんにはさほど興味はなかったもんね。



「おいおいおい! 誰だか知らねぇが、いきなりしゃしゃり出てきて、勝手に決めてんじゃねぇよ。オメェに関係ねぇんだよ、死にたくなきゃ大人しく引っ込んでな!」


「…………」


 ゲスクは変わらずルークさんに向かって吠えているが、クズモは何かを感じたのか、黙ってルークさんを見据えている。


 そこへ、さらに空気を読まない奴が出しゃばってくる。


「何じゃ貴様! 子爵様より直々に任命された、代官であるワシの邪魔をするのか!? しかも、たかが村人の分際でワシの屋敷に勝手に入りおって、それだけでも処分に値するぞ!」


 さっきルークさんが「自分は村人じゃない」って言ってたのに、全然聞いてないし、ホント、自分の思い通りにならない事に対しては、まともに頭が働かないのかな。


 よくこれで代官やってこれたな……。


 ああ、そうだった……能力じゃなくて、権力や暴力で押さえつけてきただけなんだった。


 馬鹿の一つ覚えみたいに「子爵様に任命された」って振りかざして、絵に描いたような虎の威を借りる狐だ。


 モブドンみたいなのを代官に任命した子爵さんっていうのも、もしかしてこんな感じの人だったら……この領は大丈夫かと心配になってくる……


「ほう……? アナタが私を処分するんですか? ん~~~……できますかねぇ……?」


 激高するモブドンを前にしても、涼しい顔のルークさん。


「なんだとぉ~~? ワシの力を知らんヤツめ。まあ、そこらの村人には理解できんのかもしれんがなぁ。ぐふふ」


 いやぁ……理解できてないのはアンタだ……。


 そもそも、四人の魔法使いが、ほぼ同時に魔法を発動しようとしている超危険な場面に、躊躇なく飛び込んできたんだぞ。


 ただのバカでなければ、その状況でも何とかする実力と、その自信があったという事だ。


 確かにこの人ならば、何とか出来るのかもしれない。


「ぐふふふ!おい、お前達! さっさとその子汚い無礼な若造を始末しろ!」


 まるで時代劇まんまのセリフに、逆にちょっと感心しちゃうわ。時代劇ってスゲーな。


 そう言えばじいちゃん……時代劇大好きだったなぁ……今頃どうしてるかなぁ。


 ごめんよ、ちゃんと恩返しできなくって……いつか、また会えるだろうか……?


 あっ……と、マズい。


 今はそんな事を考えている時じゃない。



「オラ、もう後悔しても遅ぇが、この場に現れたことを悔やみながらあの世に逝けや!」


 ゲスクはそう言って、改めて詠唱し、ルークさんに向けて魔法を発動させる。


「赤き炎よ猛き力となり、我が敵を燃やし去れ!【火球(ファイアーボール)】!!


 赤々と燃え盛る炎の球が、ゴォ…と唸りながらルークさんに向けて飛んでいく。


「むうっ……! まずい、逃げるんじゃ……!!」


 村長さんが慌てた声で、ルークさんに警告する。


 魔法使い同士の戦いでは、相手に先に詠唱をされてしまうと、ボクの様に詠唱が必要ない特殊なスキルがなければ、どうしても後手に回ってしまう。


 ゲスクの【火球】はそこまでのスピードはないが、どんどんルークさんに迫る。



「――あぶない!!」



 炎が向かってきているのに、微動だにしないルークさんを見て、リルルからも叫び声が上がる。



 すると―――



緑迅流(ろくじんりゅう)刀術……礎級(そきゅう)駿陣斬(かぜぎり)……!!」



 ルークさんは何かを呟くと、サッと左足を引き、左手を腰の剣に添え、右手は剣の柄を握り、頭を下げた低い体勢で構え―――



 タンッ!!



 剣を抜かず、そのままの体勢で軽やかに飛び出し、【火球】に向かって突進する。


 そして【火球】がルークさんのすぐ目の前に迫った時――



 ザンッッッ!!!



 目にもとまらない速さで剣が鞘から抜かれ、【火球】を真っ二つに切り裂いた。


 二つに分かれた【火球】は、軌道を逸らされながらも飛んで行くが、少し進んだところで見る見るうちに勢いを失くし、やがて消えてしまった。



う、うそぉ……!? 


ま、魔法を……切ったぁ……!?



 ゲスクの【火球】を切り裂いた体勢のまま、日本の武術で言う残心の状態でいるルークさんだったが、スッと身体を起こして剣を鞘に収めた。


 あれは……居合……?


 そう思ってよく見ると、鞘には少し反りがあるのが見て取れる。


 という事は、細剣じゃなくて、刀ってことか。


 まさか異世界で刀やら居合を見ることになるとは……いや、元の世界でも剣術紹介の動画くらいでしか見た事ないけどさ。



 信じられないことに、ルークさんは、以前リニーさんに教えてもらった、四色流派の武術の使い手だった。



緑迅流(ろくじんりゅう)



 恐らく名前からして、緑の才能色を持つ者が修める武術なんだろう。


 魔導書でその情報を見た時は驚きすぎて、思わず声に出してしまいそうだった。


「ど、どういう事じゃ!? なんだ、何を遊んでおるゲスク! 高い金を払っておるんじゃ、真面目にやらんかっ!」


 この場でただ一人、何が起こったかわかってない奴が、顔を真っ赤にして喚いている。


 それ以外のこの場にいる全員は、驚きの余り固まってしまっているので、部屋の中にはモブドン一人のガナリ声が響いている。


 ボクももちろん驚いている。


 しかし、ボクにとっての驚きは、今の魔闘技だけではなく――


「な、ま、まさか……今のは……」


 何かに気付いたクズモが、目を見開いてブツブツと呟いている。


「な、なんだ、アンタ何か知ってるのか!? アイツは何者だ……!? 魔闘技なんて……何でこんなトコにそんなもん使えるヤツがいるんだ!!」


「まさか……アナタは……風の英雄……?」


 ゲスクの声にも反応せず、クズモはただただ茫然としている。


「風の英雄だと…………そ、それって……!?」


「……副団長!!」



 ―――そう。


 ルークさんの肩書。



 それは、「アトラハン子爵領騎士団 副団長」という物だったのだ。



お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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