第31話 不滅
リルルが大事そうに抱えている大きな卵。
その表面には、先ほどと変わらず【加入者】の証である番号が輝いている。
卵もだけど、リニーさんも相変わらず頭上に番号が輝いたままで、まだ仲間に加わったわけではないので、魔導書の【加入者一覧】の中に情報は載っていない。
ただ、リニーさんは【人物一覧】に、卵は【魔物一覧】にはちゃんと載っている。
ちなみにここにいるサイ隊長を始め、守備隊の面々はいつの間にか【人物一覧】に載っていたんだけど、さして面白くもないのでここでは割愛させていただこう。
リニーさんの情報はこんな感じ。
――――――――――
【加入No.】 059
【名前】 リニー
【年齢】 15
【性別】 女
【所属】 スルナ村
【称号】 守備隊員
【状態】 良好
【基本レベル】 9/33
【魔法レベル】 1
【魔法色ランク】 橙:1
【習得魔法】 【土球】【土壁】
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
すごい大人びてるけどまだ15歳なんだよね、リニーさん。
元の世界でこんな中3見たことないって…!
カッコ良すぎでしょ!?
そして問題のタマゴ。
――――――――――
【種族名】 グリフォン
【称号】 ―
【ランク】 ―
【状態】 卵
【基本レベル】 ―/―
【魔法レベル】 ―
【魔法色ランク】 ―
【属性】 ―
【習得魔法】 ―
【特殊能力】 緑の加護、不滅
【備考】
世界に数体しか存在しない聖獣の内の一体の卵。
火や風の攻撃を得意とする。
やや青の属性を苦手とする。
――――――――――
卵だからほとんど情報はないけど、気になるのが【不滅】という特殊能力。
聖獣を倒したその場に卵が現れた事から察するに、例え死んでも生まれ変わる、不死鳥の様な能力ということだろうか。
……と、いうことは……?
ここでボクがキェーーーッ!!とばかりにリルルが抱える卵を破壊したらどうなるんだろう……?
【不滅】の能力が絶対なら、割れたその場でまた卵が出現するとか、逆再生みたいに再生するのかな……面白いなぁ。
じー---っ……
リルルが抱いている卵を見つめる。
……いかん、試したくなってきたけど、やったら絶対リルルが泣くし、ボクに寄せる全幅の信頼を裏切ることなどできようか!?
「うむ……そうじゃ。聖獣様の卵じゃ。まさかこんな事が起こるなど思いもよらなんだが、放っておくわけにもいかんし……これをどうするか、皆の意見を聞かせてもらおうと思っての」
村長さんが守備隊の面々を見渡して、意見を募る。
「意見って言われてもなぁ……ただの魔物だってんなら、処分するだけなんだろうけどよぉ……」
サイ隊長を始め、周りの隊員たちも困惑していて、ザワザワと周囲を伺っている。
その内に、やれ即刻森に帰すべきだとか、領主に届けるべきだとか、すぐに処分するべきだとか、それぞれに意見を出し合うが、一向にまとまる気配はない。
だよなぁ。
こんなの前例がないだろうし、村を守ったとはいえ、ボク余計な事しちゃったかなぁ……追い払うだけとか……いや、そんな余裕はなかったし……。
いくら聖獣とはいえ、村を襲ったのは確かだし、卵から孵った聖獣がまた今後村を襲わない保証もない。
みんな心の内では、聖獣が孵る前に何とかした方が良いと思っているんだろうな……処分はしないにしても、せめて村から遠いどこかにやってしまうとか。
沈んだ雰囲気が漂う中、一人の若い隊員が手を挙げて前に出て来た。
「あの……昔ばあちゃんに聞いたことがあるんですが……」
村長を始め、全員の視線を集めて少し怯んだ様子だ。
「え……っと、ばあちゃんの話じゃ、聖獣様はその使命を終えたら、卵に還って生まれ変わるんだって……そんで生まれた幼獣は、大きくなるまで森の魔物が親代わりになって育てるとかなんとか……」
「ふぅむ……キサラのばあさんか……確かにワシもそんな話を昔聞かされた記憶があるわい」
みんなの視線が、リルルが抱く卵に集まる。
「ひっ……!?」
自分に視線が集まっていると感じたリルルが怯えて縮こまる。
いつもなら一目散にボクの後ろに隠れる場面だけど、卵を抱えているせいで動けず、ただ固まってしまっている。
仕方ない、ボクがリルルの前に――
「まあ、そう結論を急ぐこともないだろう。まだ生まれたばかりの卵なんだし、今日明日孵る事もないはずだ」
リニーさんがリルルを庇うように立ち、みんなの視線を遮ってくれた。
「ま、まぁそうだな。今は村の囲いの修復やら怪我人やらで手一杯だ。数は多くねぇが壊されちまった家もある。とりあえずはそっちに集中しなきゃならねぇ」
サイ隊長さんもそう言ってみんなの注意を逸らしてくれたようだ。
「そうじゃな、すまんがーーー」
ドンッ!!
詰所のドアが壊れそうな勢いで乱暴に蹴り開かれ、中に男が数人入って来た。
あれは……兵士、かな?
あまり質が良くなさそうな鉄製の鎧兜に身を固めた一団だ。
町から来るという救援の部隊だろうか。
「な、なんだアンタらは……!?」
サイ隊長が兵士の前に立って、ズンズンと進んできた一団の行く手を阻もうとするが、
「どけ! 我らはアトラハン子爵領軍リルザ方面駐屯部隊である!」
ドン!と肩のあたりを突き飛ばされ、サイ隊長が後ろによろけた。
「なにぃ!? 領軍だとぉ……!?」
領軍だ…!と周囲にざわめきが生じる。
やっぱり救援……だよね? しかしそれにしては、何だか態度悪くない?
「部隊長殿のお出ましである! 道を開けよ!」
ガチャガチャと金属音を立てながら奥まで進んできた兵士たちが、ザッと左右に分かれ、中央に道を作る。
その中を入口から入って来た男が、部屋の奥まで進んで、回れ右して部屋全体を見渡すようにこちらに向いた。
「ヒッヒ……!」
周囲の兵士よりひと際身体の線が細く、長髪で神経質そうな顏の男だ。
「こちらはリルザ方面駐屯部隊、クズモ部隊長殿である! 一同、敬礼!」
ザッ!! と二列に並んだ兵士たちが敬礼をしている。
周囲の守備隊員たちも、敬礼しているようだ。
子爵領の軍組織の事はよくわからないけど、守備隊は軍ではないとはいえ、領軍の指揮には従う必要があるのかもしれない。
「ヒッヒッヒ……んん……? 村長はどちらにいますかぁ?」
タレ気味の細い目でぐるりと見渡すと、視線が村長の所に来たところで止まる。
「ワシが村長のブラスですじゃ、クズモ部隊長殿」
一歩前に出て、村長がクズモ部隊長に名乗り出た。
「我らはこの村が危険な魔物に襲われているとの、モブドン様からの出動要請に応じて、この村を救援に来ました。しかしぃ、聞けばすでに魔物はいないと言う……ヒヒ……これは一体どういうことでしょうかぁ?」
ほほう、モブドンもたまには代官らしい事するんだなあ……なんて考えていたけれど、
「それはそれは、この村の為に、ありがとうございますじゃ。それに、リルザの町からこのように信じられないほどの早さで来ていただけるとは……しかし一つお伺いしたいのですが、騎士団はいつ出動要請を受けたんでしょうな?」
村長の微妙な言い回しに、何やら雲行きが怪しくなってきたのを感じた。
「はぁ……? 何を言って――」
「今は昼時。聖獣様が現れた早朝にすぐ救援要請の伝令を出したとしても、町に着くのが昼前。そこからすぐに出動したとしても、この村に着くのはどんなに早くても夕方じゃと思うんじゃが……」
なるほど。
ボクはリルザの町までどれくらいの距離があるかわからなかったから違和感を感じなかったけれど、そういう事なら確かにおかしい。
村長さんの話を聞いて、周囲もざわつき始めた。
「……うるさいですよ、黙りなさい! ヒッヒ……私はね、そんな事は聞いていないんですよ、村長さん」
クズモの一括で再び静寂が戻った中、村長への執拗な事情聴取が行われている。
まるでこちらが何か企んでいたかのような言い方だ。
しかし村長さんも相手の矛盾を突いて、思うような話の流れにはさせていない。
「チッ……! このままでは埒が明かないですね……! ヒッヒヒ……この先はモブドン様の前で話していただきましょうか!」
そう言って、立ち並ぶ兵士に目配せをすると、合図を受けた兵士が村長さんの左右から腕をつかみ、連行しようとする。
「お、おい……! 乱暴な真似はよしてくだせぇ!」
サイ隊長やリニーさんを始め、守備隊員達が色めき立つが、村長さんが落ち着くように言う。
「ワシは大丈夫じゃ。ちょっと屋敷に行って来るわい。なあに、ちゃんと話をしてくるだけじゃて」
様子を見ていたクズモが、ニタリと薄気味悪い笑みを浮かべる。
「ヒヒッ……! さぁて、それだけで済みますかねぇ……?」
「ど、どういう事だ、そりゃあ……!」
再びサイ隊長の鼻息が荒くなる。
「ヒヒヒッ……おい」
また合図を受けた別の兵士が動き出す。
……チッ!
そういう事かよっ!
コイツら、モブドンの手先かっ!?
兵士が二人、ボクとリルルの方に向かってきた。
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