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第29話 【人形(ドール)】

 突然現れてリニーさんを驚かせてしまったので、フォローしたい所だけど、グリフォンが大人しくこのまま【土檻(アースジェイル)】に閉じ込められたままでいるとは思えない。


 口をあんぐりさせたまま固まってしまっているリニーさんのすぐ脇を通り過ぎ、一辺5メートルをゆうに超える立方体に成長した【土檻(アースジェイル)】の元へ走る。


 リニーさんにとんでもないと評された、魔法レベル8のボクの魔力を以てしても、この一瞬でここまで大量の土を生成することは出来ない。


 しかし、前もって用意さえしておけば――周囲に大量に用意した【土壁】は、その為の準備でもある。


 ここ数日の魔法の練習で気付いた事だけど、ゼロから火や水や土を生み出すよりも、その下地となるモノがあった方が、魔法の効果や発現速度が上がると言う事だ。


「グルァアアアア!!!」


 中に閉じ込められているグリフォンが中から魔法を放ったり、物理的に破壊しようとして、なんとか脱出しようともがいている。


「ヤアアアアアッ!!」


 ボクは走りながらも、グリフォンに破壊されて周囲に散らばっている【土壁】の残骸を次々に【土檻】に変換して、脱出されないように必死に魔法を発動し続けた。


 そして自分で生成した周囲の土を全て土の檻に変換した所で、最後の仕上げだ!


「これで……!! ハァァアアアアアッ……!!」


 ボクの全身が、青と紫、それぞれの魔力が混じり合う様に、鮮やかな青紫の輝きで包まれる。


「【氷結(アイス)】!!!」


 身体に残る全魔力を注ぎ込み、【土檻】の内部に、今のボクにできる限りの全力で、魔法を放った。


「シィヤアアアア……!!」


 外からは中がどうなっているのかは見えないが、苦し気な声が聞こえるし、グリフォンをどんどん氷らせていく魔法の手応えを感じる。


 そのままどんどん内部を隅々まで凍らせるように、【氷結】の魔法を行き渡らせた。


 しばらくして、暴れる気配がなくなったので【土檻】を解除すると、巨大な立方体の氷に閉じ込められ固められた、まるで氷の標本のような聖獣の姿が現れた。


 (よしっ……!)


 とっさに考えた作戦だったが、なんとか上手く行ったようだ。



 だけどまだだ。


 ……残酷かもしれないが、こちらも生きるか死ぬか。


 トドメを刺さない限り、こちらは危険なままだ。


 これでまだ倒し切っていないなら……生物を確実に殺すには、脳を機能停止にするのが一番だろう。


 ボクは、最後の力を振り絞って、怒り狂った表情のまま氷漬けにされている頭部に目がけて、【氷結】の出力を集中させた。


 ビキビキビキ……!


 氷はさらに成長し、より大きく、より高密度に。


 氷に閉じ込められた聖獣の表情が、苦悶の表情になり――事切れた。



 すると―――


 魔導書がパラパラとめくれて、自分のステータスのページに変化が現れ、『基本レベル』が2から一気に4まで上がった!


「や、やった……ぁぁぁ……」


 どうやら、なんとか倒せたらしい。


 経験値的なモノが加算されて、基本レベルが上昇したんだと思う。


 さすがに、明らかな格上の『聖獣』を倒したということで、グレイトボアを倒した時より、ずっとレベルの上昇幅も大きいな。



 (それにしても……つ、疲れたぁぁぁ……!)


 魔導書で自分の『状態』を見ると『魔力枯渇』とあるので、文字通り魔力がスッカラカンになるまで使い果たしたようだ。


 その他にも何か変化があるような気がしたが、もう詳しく見る気力もなく、立っているのも辛くなってきて、その場に四つん這いに倒れこんでしまった。


「ナシロ! 大丈夫か!?」


 やっと硬直から立ち直ったリニーさんが、ボクの元に駆け寄ってくる。


「は、はい……なんとか……」


 ぎこちない笑顔で答えるのがやっとで、体を起こすことも出来ない。



 なんというか、これもまた奇妙な感覚だなぁ。


 体力はまだ余裕があるのに、全身を覆う倦怠感の様な物を感じて、身体が思うように動かせない。


 魔法の練習はしてきたけれど、ここまで魔力を使い果たしたことはないからなぁ。


「からだが……うごきません……」


「あ、あぁ……それは多分魔力切れを起こしているんだろう。魔法使いは魔力を使い果たしてしまうと魔力がある程度回復するまで動けなくなるんだ」


 やっぱりそうかぁ。


 となると、『緑1黄1』で使える【清浄(リフレッシュ)】の出番だろう。


 これはクールタイムがあるが少しだけ魔力を回復してくれる魔法だ――けど、今はこのままにしておこうかな。


 これ以上リニーさんの前でヘタな事はしない方が良さそうだ。



 ボクがひとまず無事な様子を確認すると、リニーさんは氷漬けにされた聖獣の様子を油断なく伺っている。


「だ、だいじょうぶ…です……もう死んで……います……」


「どうやらそのようだな……まったくお前は……何てヤツだ……」



 リニーさんはふうぅっっと大きくため息を吐いて、全身の緊張を解いた。


 そして改めてボクのそばに屈みこんで、ボクの身体を支えるようにして手を添えてくれた。


 ただ表情はかなり困惑気味だ。


「だが……! 私は確かにお前が聖獣様に切り裂かれたのを見たぞ! もちろん無事で嬉しいが、なぜ生きているんだ!?」


 うぅん……ちょっと意識が朦朧としてきたけど、その辺だけ軽く説明しておこうかな。


 ボクの手の内をほとんど晒す事になるけど、リニー先生には隠すこともないよね。



 今回のボクの作戦はこうだ。


 【暗転】が効いて相手がボクを見失っている間に、まず大型の【土檻】を瞬時に発動する為の下準備として、目隠しも兼ねて、周囲に大量の【土壁】をバラまいておく。


 そして要となった、『橙1青1』のランク2複色魔法【人形(ドール)】の出番だ。


 これは自分はもちろん、魔導書に登録されている人間や魔物の姿形を真似て作成できる泥人形で、動かしたりは出来ないが、少し距離をあけると、パっと見では見分けがつかない程度の精度がある。



 自分は一番遠い【土壁】の裏に隠れて、【人形】を少し離れた【土壁】の裏に配置する。


 【暗転】から回復して怒り狂った聖獣に次々と【土壁】が破壊されていく所で、タイミングを見て、【人形】を潜ませた所から【土球】を発射させ、相手に嘘の位置を知らせる。


 そしてグリフォンが【人形】を切り裂いたところで、周囲に散らばる【土壁】を利用して【土檻】に閉じ込め、とどめに【氷結】だ。


 暴走状態の相手じゃないと、見破られる様な作戦だっただろうけど、何とか上手くいってくれて命拾いをした。


 何度も言うけどまともな戦いだったら、まず間違いなく勝てない相手だった。聖獣が持っていた最上位のランク4の魔法を使ってこなかったし、空からの攻撃もほとんどなかったからね。



 上手く喋れないので言葉足らずで説明したが、リニーさんはわかってくれたかな?


 さっきからずっと押し黙ったままだ。


 どうしたんだろう……?


 反応が気になるけど、なんだか眠くなってきてしまった……とりあえず、村を守ることは出来たし、これでいいよね……?


「聖獣様と戦いながら、一瞬でそこまで組み立て、それを実行したのか……お前は本当に5歳の少女か……?」


 (すいません、5歳じゃないです……)


 あ、もう……だめ……だ……


「それに、私も知らないような魔法が突然使えるようになっていたり、挙句に詠唱無しで魔法を発動しただろう……!? 一体何がどうなっているのか、詳しく――」


 リニーさんが何やら言い募っているようだけど、魔力切れと戦闘による疲労によって、ボクは意識を手放した。



 ◇◇



 (ここは……)


 目を覚ますと、ボクはベッドに寝かされていた。


 自分の部屋だ。


 窓から見える外の明るさから見て、まだお昼ぐらいだろうか。


 聖獣と戦ったのは早朝だったし、ということは5時間ほど眠っていたのかな。



 ベッドから身体を起こすが、体調は問題ないようだ。


 身体のあちこちに細かい擦り傷なんかはあるけれど、きちんと手当されているし、さほど痛みはない。


 戦闘中に負ってしまった大きなケガは自分の魔法で治したし、たくさん寝て疲労も魔力切れも回復している。


 あれからどうなったんだろう。リニーさんが家まで運んでくれたのかな?



 このまま寝ていても仕方ないし、その後が気になるので、ボクは部屋を出て、リビングに出てみた。


 すると――


「いやっ!! この子はわたしが育てるの!!」


 何やらダダをこねるような金切り声が聞こえてきた。


 声がした方を見ると、リルルが壁際で手を広げるようにして、村長を睨みつけている。


 珍しいな。


 リルルが村長に逆らうなんてあまり見たことがないけど。


「じゃがのぅ、リルルや。育てるといってもそれは……」


 村長は困り果てたという顔で、孫娘を見つめている。



 台所への入口では奥さんのメディさんもいるが、こちらは「あらあら」という感じで微笑んでいる。


 えーっと、何だろう、状況がまったく飲み込めないけど……メディさんの表情からして、深刻な何かが進行しているわけではなさそう……?



「あ、あの……? どうかしたんですか?」


 遠慮がちに声を掛けてみたら、リルルがパっと反応して、何かを持ってボクの後ろにサッと隠れるように飛び込んできた。


「おぉっ……と? ど、どうしたの、リルル?」


 ボクの後ろに隠れるのはいつものことだけど、それはこの家の外や、慣れない人がいた場合だけだ。


 それにいつもはボクの身体の後ろから様子を伺うように相手を覗き込むんだけど、今はボクの後ろで体を丸めて何かを抱え込んでしゃがんでいる。


 何かを……守っている……ような?


「おお! ナシロ、目を覚ましたか……! どうじゃ、身体は何ともないかの?」


「あ、はい、村長さん。ボクは大丈夫です……それよりこれは一体……?」


 ボクの無事を満面の喜んでくれる村長さんとメディさんだが、今はリルルの様子を聞くことが先だ。


 リルルがどうしてこんな事をしているのか説明を求めると、村長さんがまた笑顔から渋い表情に変わってしまった。


「う、うむぅ……これはの……何と説明したものか……まぁ見てみるがよい。リルルや、それをナシロに見せてやるんじゃ」


 まだボクの後ろで丸くうずくまっていたリルルだが、顔を上げてボクを見る。


 なんだか縋るような眼をしている……わかった、ボクに任せておいて!なんだかわからないけど、ボクが何とかするからね!


 リルルにそんな顔をされたらボクの選択肢はただ一つだ。


 ボクのそんな決意(?)を感じ取ったのか、リルルはおずおずと身体を起こして、腕に抱えている物体を見せてくれた。



 これは卵だ。



「……たまご?」


 意外な物を見て、間の抜けた声で思ったことを口にしてしまったが、これはまごうことなき卵だ。


 少女が一抱えで持つぐらいのかなり大きい卵。


 昔映画やなんかで見たことあるような、恐竜のタマゴみたいな……



 ――その時。



 パァァアアア……!



 タマゴが眩いばかりの黄金色に輝き、表面に何かが現れた。



 ……数字だ。




≪009≫




 とても見覚えのある輝きと数字を見て、ボクは頭を抱えたくなった。



お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

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