第26話 聖獣グリフォン
あれは……マズい……ッ!!!
「【風走】!!」
「お、おわっ!?」
ボクはとっさに魔法を発動させ、隊長のすぐ横を文字通り風のように飛び出した。
しかしこの魔法は短距離の移動に向かない。
そこで、ボクは飛び出した瞬間に魔法を遮断して慣性に任せて移動し、目的の場所に近づいた所で進行方向逆向きの風の力を自分自身に当てて、急ブレーキを掛ける。
そうしてリニーさんを背に庇うようにして、目の前に立ちふさがり、すかさず次の魔法を発動する。
「【土壁】!!」
今まで試したことのないくらいに、全力で魔力を込めたその壁は、ボクとリニーさんを中心に相当ぶ厚く、強固に生成され、グリフォンが放った風の魔法に表面がいくらか削られただけで、完全に防ぎ切った。
「大丈夫ですか、リニーさん!?」
目の前で起こった出来事に頭がついてきていない様子のリニーさんに声を掛けると、ようやくこちらに気付いたように、驚いた顔を見せる。
「お、お前は、ナシロか! ど、どうして、今、何を……!?」
色々な疑問が沸き起こっているだろうけど、今は丁寧に答えているヒマはない。
一撃目が弾かれた後も、グリフォンは立て続けにこちらに向かって魔法を唱え続けているが、ボクの全力の【土壁】がことごとく跳ね返してくれているようだ。
あれはおそらく『緑1』の魔法【風球】じゃないかと思うんだけど……。
っと、そういえば……!
ボクは慌てて魔導書を確認して、グリフォンの情報が掲載されていないかを探す。
えーっとえー-っと――あ、あった……!!
――――――――――
【種族名】 グリフォン
【称号】 緑の聖獣、風の王者
【ランク】 C(-2.5)
【状態】 忘我・暴走(呪)
【基本レベル】 24(-40)/78
【魔法レベル】 4
【魔法色ランク】 赤:1 緑:3
【属性】 緑
【習得魔法】 ランク1…【火球】【火波】【風球】【風香】
ランク2…【昇壁】【風走】【熱風】
ランク3…【飛燕】【空駆】
ランク4…【炎雷】
【特殊能力】 緑の加護、不滅
【備考】
世界に数体しか存在しない聖獣の内の一体。
火や風の攻撃を得意とする。
やや青の属性を苦手とする。
――――――――――
グリフォンから一瞬も注意を逸らさないように、慎重にザッとひと読みした。
うわぁ……なんじゃこりゃあ……思っていたより相当強いんじゃない? この方……。
ランク4の魔法とか、恐ろしげなスキルや能力が満載。
称号なんて聞いたこともない物まで持っていらっしゃる……。
聖獣というのも伊達じゃないな。
色々気になる情報満載だが、一番はやっぱり【状態】欄に『忘我・暴走(呪)』とある事だ。
どうやら聖獣というのは滅多やたらに人を襲ったりしないという話だし、何かがあって、暴走してしまっている状態なんだろう。
可能ならその暴走状態を解除してあげたいが、そんな方法はわからないし、今は調べている時間もない。
このまま村を襲うようなら、仕方がないが倒すしかない。
それに、手加減して勝てるような相手じゃない……っていうか勝てるか? コレに……。
今ボクが持てる力の全てを発揮しても、あんまり勝てるイメージが沸かないけど……突破口があるとすれば、相手は暴走状態で、冷静な闘いが出来ないんじゃないか、という所に賭けるしかないだろう。
それにどうやら本来の能力よりかなりダウンしているようだな?
これも暴走している影響だろうか。
読み取り方がイマイチわからないが、おそらく本来のランクより下がってCランクに、基本レベルが40も下がっているという事か。
ランク4の魔法なんて使われたら、今のボクではひとたまりもなさそうだし、このレベルダウンのおかげで、魔法の発動に必要なレベルを満たしていないことを祈るのみだ。
もしグリフォンが万全の状態で、空から縦横無尽に攻撃されたら今のボクではとても勝ち目はない。
この暴走している状況で、速攻で地上戦で決着を付けるしかない。
「グォォォオオオオオン!!」
自分の攻撃が相手に届いてない事に業を煮やしたのか、グリフォンが大きく咆哮を挙げた。
すると、
「熱ッ……!!」
どうやらグリフォンが攻撃を変えてきたようで、【土壁】や周囲から異常な熱を感じる。
隣のリニーさんや後方の隊員達もかなり熱そうで、みんな必死に熱に耐えている。
これは……もしかして「赤1緑1」の【熱風】か!?
土の壁というのは基本的に断熱性能が低いので、物理的な攻撃を防ぐには有効だが、こういう攻撃には弱い。
暴走してるクセに、コイツそこまで冷静に考えてやっているのか!? それとも熱や風を操る生物としての本能で行動している……?
とにかくこのままでは、ボクも守備隊の面々も、あっという間に干物になってしまいそうだ!
「【氷結】!!」
ボクは慌てて【土壁】の外側に新たな魔法を展開させて、周囲に漂う熱を相殺する。
これは【青1紫1】の複色攻撃魔法で、本来は対象を凍結させるだけの魔法だが、ボクの魔力とイメージによって対象を一体に絞る事なく、周辺を一気に冷却させるようにアレンジを加えている。
ただそういうアレンジを加えてしまうと、本来の使い方よりは威力が弱まるような感じがするが、ボクの【氷結】で、グリフォンの【熱風】を相殺できている。
そして、周囲の熱が収まった所で、魔法のアレンジを解除し、そのままグリフォンに【氷結】を伸ばして攻撃を加える。
【土壁】を解除して相手の様子を観察すると、明らかに氷を嫌がっているのが見て取れる。
やはり魔導書の情報通り、青系統の攻撃がやや苦手の様だ。
「ナ、ナシロ、お前……いつの間にこんな魔法を……しかも今詠唱せずに発動したのか!?」
リニーさんがあまりの状況に混乱してしまっているが、こっちも答える余裕はない。
「大丈夫です! ボクに任せてください! みなさんは退避を!」
「何を言っている!? 逃げるのはお前だ、ナシロ!!」
だよなぁ……。
5歳の女の子に任せろと言われたところで、村を守ることが仕事の守備隊の人達が、素直にうなずけるはずもない。
さて、どうしたものか。
【氷結】で攻撃を続けながら、守備隊を巻き込まないようにどうするか考えていたが、グリフォンの足先が凍り付き始めた所で、聖獣は狂ったような怒りの咆哮を挙げ、身体全体が緑に光ったかと思うと、大きな羽根を羽ばたかせて、空中にかなりのスピードで逃れて行った。
あれは……何らかの魔法か!?
緑の才能色はランク1しか持っていないボクの魔導書には載っていない魔法を、グリフォンは四つ持っている。
【昇壁】に【飛燕】と【空駆】、それから【炎雷】だが、これはその中でも、名前と効果から推測して【空駆】っぽい。
初速が、普通に鳥が飛び立つような速さじゃない。
弾丸のように飛び出し、あっという間に上空へ。
ちなみに【炎雷】は薄字で書かれている。
おそらく【赤1緑3】のランク4という超強力な複色魔法だと思われるので、使えないのなら非常に助かる。
もしかしたら、暴走状態で基本レベルが一時的にダウンしているからかもしれない。
それにしても、このまま空から魔法で攻撃されるとやっかいだが……。
しかしグリフォンはそうせずに、上空で弧を描いて方向転換し、巨大でするどい鉤爪をこちらに向けて突き出しながら、突進してきた。
――ヤバッ!?
魔法もヤバいがあんな攻撃をまともに受けたら、こちらは物理的にはただの人間だし、ひとたまりもない!
とっさに【風走】を発動して逃げる。
申し訳ないけど、とてもリニーさんや他の隊員達を守りながら戦う余裕がない。せめてグリフォンを倒すことに集中できるように、この場を離れて一対一の状況を作りたい。
「ま、待てナシロ!! 一人でなんて無茶だ……!」
リニーさんがボクの意図に気付いたように制止してくれるが、構わずにそのまま風に乗って駆け抜ける。
破壊された村の柵から外に出て、森の方へ……!!
案の定、暴走して怒り狂っているグリフォンは、他の人間に目もくれずに、自らを攻撃してきた人間を一目散に追ってきた。
よし、ちゃんとヘイトは取れているみたいだな!
このままもう少し森の方へ―――
「―――ってうわぁっ!!!」
風のように駆け抜けながら、チラリと後方を確認すると、すぐ目の前までグリフォンの太い腕が迫って来ていて、慌ててその場で転がって鉤爪をかわす。
しかしタイミングが遅く、その凶悪な鋭さを持つ鉤爪がボクの右腕を少し掠って、切り裂かれてしまった。
ゴロゴロと村の外の草原を転がっていく。
全身を傷みが襲うが、何とか立ち上がる。
腕を見ると、肘から下の辺りにパックリと大きな裂傷があり、ダラダラと流血している。
「ぐうううぅぅぅっっ!!」
―――生まれて初めて感じる、気を失いそうな痛みだ。
こちらの世界に転生してきた時とは違う、生々しい死の恐怖だ。
お読みいただき、ありがとうございます。
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主人公ステータスメモ
(魔法は本文で登場した物のみ)
【基本レベル】 2/8
【魔法レベル】 8
【魔法色ランク】 赤:2 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1
【習得魔法】 ランク1…【火球】【土球】【土壁】【水球】【水霧】【風香】
ランク2…【風走】【癒水】
【習得英技】 ランク6…【権能蒐集】
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――




