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第24話 可憐な化け物

「て、テメェ何もんだ……? まさか今の【水霧】もテメェが……!?」


 ボクとリルルの様子を見て、魔法を使ったのはボクだと気づいたようだ。


「【緑】、【橙】に、さらに【青】だとぉ……!? あ、ありえねぇ……三色持ちなんぞ、Aランク並みだぞ……そんな……そんな化け物がこんな所にいるわけねぇんだ!!」


 おい、こんな可憐な少々を捕まえて“化け物”とは失礼な。


 ナシロの容姿はあくまで『ナシロ』のものであって、『名城』のそれではないので、なんというか素直に称賛できるんだよね。


 自画自賛にならないというか……変な感覚だなぁ。


 なんだかちょっと面白くて思わず笑っちゃう。



 この場面でヘラヘラ笑っているボクを見て、ゲスクがここに来てようやく、相手の余裕と異常さに気がついたようだ。


「な、なんなんだテメェは……?」


「何って、ただの村娘だけど……?」


「ちょ、調子に乗ってんじゃねぇ!! こ、こうなったら……!!」


 ゲスクの顏から余裕が全て消え、蹂躙する対象から、倒すべき敵として認識されたのか、真剣な表情に変わった。


「赤き炎よ猛き力となり、我が敵を燃やし去れ!【火球(ファイアボール)】!!」


「【水球(アクアボール)】!!」


 いきなり本気の【火球】を発射してきたので、こちらも慌てず無詠唱で【水球】をぶつける。


 無詠唱が可能なおかげで、先に相手に詠唱されても十分間に合うのが助かる。


 魔導書サマサマだ。


 魔法レベルの差による大きさと勢いの違いにより、炎の玉は水の玉に飲み込まれる。


 それにより、【水球】は大きさと勢いをかなり失いながらも、なお標的に向かっていく。


 バシャァアアア……!!


「ぶはっっっ……!!」


【火球】によって攻撃力が相殺されたものの、水の塊がゲスクを直撃した。


 ゲスクは全身をずぶ濡れにしながら、後ろに吹き飛ばされた。


「ぐうぅっ……ち、チクショウ……」


 フラつきながらも、何とか立ち上がるゲスクだが、


「もう終わり? まだやるんだよね?」


 そう言って一歩前に出ると、ゲスクは表情に恐怖の感情を貼付け、無意識にジリッと後退りをした。


「ひっ……!?」


「どうした! ゲスク、何をモタモタしておる!? さっさと捕まえんか!」


 モブドンには、ゲスクが今感じている感情は伝わらなかったようだ。


 さっきからぎゃーぎゃーとうるさい。


 そのすぐ後ろでボク達を守ろうとモブドンに掛け合っていた村長さんも、状況を見てかなり驚いているようだ。


 村長さんに、リニーさんに教えてもらった魔法以外も使えるようになった事は、まだ話してなかったもんね。



「おい、オマエら! ワシが直々に可愛がってやろうというんだ! つべこべ言わずにさっさと来い! ぐふふふ、まずはそのカラダで楽しませてもらってから、その魔法もワシのために使わせてやる。オマエ達にとっても良い話であろう!」


 ゲスクとは対照的に、ヒートアップしているモブドンは、聞くに堪えない言葉を喚き散らしながら、こちらに向かってズカズカと近づいて来た。


「もうよいわ! ワシが……」


 本気で言ってんのか、このオッサンは。


 さっきの魔法戦を見ていただろうに、こう見えて意外に腕っぷしに自信があるのか……?


 やっちゃっていいのかな……やっぱりマズいよなぁ……村を監督する代官だし……後々絶対面倒な事になるんだよ……


 あまりに不用意に近づいて来たので、あれこれ考えている内につい接近を許してしまった。


「さあ、ワシと共に来るんだ!」


「やあっ……!!」


 モブドンが強引にリルルの腕をつかんで、連れて行こうとする。


 ――野郎!!


 とっさに魔力を集め、緑の魔法力に換えて一気に解放し、リルルに当たらないように、モブドンに向かって空気の塊をぶつけた。


 ドンッ……!!


「ぎゃぁあああっっ!?」


 いきなり煽られて、モブドンはキレイに10メートルほど吹っ飛ばされ、地面にぶつかって転がってから止まった。


 あっ……! しまった……!


 いきなりリルルの腕を掴むもんだから、思わず吹っ飛ばしてしまった。


 えーっと……だ、大丈夫かな……?


 ちょ、ちょっとやりすぎた……?


 やっぱり見た目通り、ただの一般人だった。


 一般人に魔法使う時は加減に注意しないとな……。


ちゃんとした魔法を当てなくてよかったぁ……。


「ナ、ナシロ……お主……いや……」


 とっさの事とは言え、やらかしてしまったボクに何かを言いかけたが、その先は飲み込んで、村長さんがリルルを助けたお礼を言ってくれる。


「ありがとう、それにすまん……こんな事になってしもうて……ワシがもっとしっかりしておれば……」



 吹っ飛んでいった先で、しばらくうめき声をあげていたが、どうやらモブドンに特に酷いケガなどはなかったようで、ゲスクに手助けされて立上り、こちらを睨みつける。


 そんなに睨みつけられたら……


「まだやる? 今度は手加減無しで、黒焦げになりたいの?」


 今度は手に炎を纏わせて、脅してみる。


「ひいっ……!?」


 モブドンは恐怖に顔を歪ませ、ゲスクは全身から冷や汗を流しながら、二人とも慌てて裏庭から出て行こうとする。


「き、キサマら……ぜ、絶対にゆるさんぞ……! 覚えておれ……!」


 姿が見えなくなる直前に、ありがちな捨て台詞を残して、二人は村長さん宅から引き上げていった。



「ふうっ……」


 本気の殺し合いじゃないとは言え、初めての対人戦に、やはりかなり緊張していたようで、その緊張が緩んだ拍子にため息が漏れ出た。


「大丈夫か、二人とも……?」


 村長さんがボク達の無事を確かめて、ひとまず安堵している。


「うん、だいじょうぶだよ、おじいちゃん。ナシロが助けてくれたもん」


 リルルもかなり怖かっただろうけど、今は笑顔を見せてくれている。


 対照的に、ボクの表情は浮かない。


「村長さん、すいません。話を余計に拗らせてしまったかもしれません……」


「お前達が無事ならそれでええ。なあに、ワシがなんとかしてみせるわい。お前さんたちは何にも心配はせんでええ」


 ボク達を安心させるように、笑いかけてくれる村長さんだが、大丈夫だろうか……?


 何か無茶な事を考えていなければいいけれど……。


それに、アイツらはやけにあっさり退散していったな。


これで諦めたとはとても思えない。


去り際に「覚えておけ」とか言っていたし、何かを企んで、また必ずボクとリルルを連れ去りに来るだろう。


しばらく警戒は解けないな。



 その後、何も知らないスグルがいつもの様に家に来て、みんなで昼食を食べて、遊んだり魔法の練習をしたりした。


いつもの元気があまり見られないボクとリルルの様子に、少し訝しんでいたようだが、スグルは何も聞かずに黙々と魔法の練習をしていた。


 村長さんは、急ぎやる事ができたという事で、昼食も食べずに、どこかに出かけて行って、夜も遅く、ボクらが寝た後に帰宅したようだった。



 ◇◇



 スルナ村郊外に建つ、ある館。


「おのれ……村長にあのガキども……まったく忌々しい……」


 王都に勤める宮廷貴族の三男として生まれたモブドンは、その出生順によって、爵位の継承ができず、さりとて特筆すべき能力もなく、不本意ながら、仕方なく辺境の役人として勤めてきた。


 しかし爵位の継承は出来なくとも、王都にある貴族用の学院に通っていた頃の縁や、親のコネなどを利用して、辺境の役人としては破格と言える不自由のない生活を送っていた。


 数年前にスルナ村の代官に任命されてからは、その立場を悪用し、村に便宜を図らせて、自らの欲望を満たす為、税を着服したり、本来村が献上する必要のない様々な物を要求するようになった。


 金品はもちろんのこと、村の男衆を自分の為だけの労役に駆り出し、あまつさえ自分の欲求を満たすために若い女性まで要求し、そしてこの館もモブドンの為だけに建造された。


 普通の代官は、管轄する村に職務として訪れる際は、村長の家であったり、村の宿屋に宿泊したりするものだ。


 しかしモブドンはそれを良しとせず、自分のために郊外の高台に、自分が宿泊するための専用の館を建てさせ、維持管理も村の仕事としてやらせていた。


 村に建つどんな建物よりも立派で、村の教会よりもさらに丁寧に造られた石造りの平屋建てで、広さもかなり広い。


 その中の一室で、モブドンはナシロに吹き飛ばされたときに負った、擦り傷などの手当てをゲスクから受けていた。


「それにしても、お前も役に立たんな、ゲスク! お前を雇うためにワシが幾ら払っているか、わかっておるのか!? あんなガキ共にいいようにされおって!!」


「そ、それは……め、面目ねぇです……。だがアイツは……あのガキは普通じゃねぇ。持ってる才能色も信じられねぇが、こんな貧乏な村の子供が、あんな数の魔法を使えるわけがねぇ……普通じゃねぇ……」


 モブドンに叱責されたゲスクだが、先ほどのナシロとの戦闘を思い出して、ブツブツ言いながらすっかり顔が青ざめてしまっている。


「フン。訳の分からんことを言ってないで、また明日にでも娘らを奪いに行く手筈を考えよ!」


 ゲスクの危惧をまったく理解できていないモブドンは、諦めるつもりは毛頭ない。


「このワシをこんな目に合わせおって……もはや娘をもらうだけでは済まさんぞ……村長め……!」


「ま、待ってくだせぇ……! 悪ぃがオレの魔法じゃアイツには勝てねぇ……連れてきてる他の護衛のヤツらだって、冒険者じゃねぇ。魔法使いには魔法使いじゃねぇとまともに勝負にもならねぇですぜ……アイツを捕まえるなら、最低でもあと二人ぐれぇ冒険者を連れて来ねぇと……」


 すぐにでもまた娘を奪いに行こうとしているモブドンに、今の状況では難しい事を伝える。


「そんなに待てるか……! ぐふふふ……まあ心配するな。ワシに策がある。これを使えば……ヤツらは終わりじゃ」


 そう言ってニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、モブドンは懐から黒色に輝く宝玉を取り出した。



お読みいただき、ありがとうございます。


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