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第23話 裏庭の攻防

 男が手に炎を纏わせた事にも驚いたが、魔導書に何が追加されたのか確認するのが先だ。


 男はすぐにその炎で攻撃しようという気はないようだ。


 ニヤニヤしながらこちらを見据えている。


 どうせ炎に怯える様子でも眺めたいのだろう。下衆野郎だな、ウン。


 しかし丁度いい、今の内に――



 ――――――――――


【名前】 ゲスク

【年齢】 29

【性別】 男

【所属】 冒険者ギルド・リルザ支部(ランクD)、モブドン家護衛

【状態】 アルコール中毒(弱)

【基本レベル】 14/18

【魔法レベル】 1

【魔法色ランク】 赤:1

【習得魔法】 【火球】【火波】

【武術流派】 ――

【魔技クラス】 ――

【習得魔闘技】  ――


 ――――――――――



……おっしゃああ!!


予想通り、人物情報が更新されたぜ!



うー-ん……っと……あっ!!!


 ――やはり! コイツも魔法使いだ!!


 ただの才能色持ちというだけじゃない、【赤1】の魔法を二つ、習得しているんだ。



(それに……冒険者だって!?)



 確かに冒険者は魔法が使えないとなれないと教えてもらった。


 そうか、こいつは冒険者なのか。


 初めて会った冒険者だし、本来なら色々聞きたいところだけど、コイツから情報を聞くのは諦めよう。



 魔導書の情報が確かならば、コイツは単色の赤魔法使いということだろう。


 もし複色魔法を持ち、発動可能な基本レベルも満たしていたら、かなりやっかいだと思っていたので、単色で運がよかったな。


 その他は……


 『アルコール中毒』ねぇ……そんな事までわかっちゃうのか。


 30代かと思ったけど、酒や無精ひげのせいで老けて見えていたようだ。


 基本レベルも、上限は低いが現在レベルは当然ボクらよりも高い。


 それなりに経験を積んでいるのだろうか。


 冒険者ランクがDというのもどの程度かよくわからない。


「なあに、雇用主から傷は付けないように言われているんだ。だから安心しな。今なら何も痛い思いをせずに済む。さあ、こっちへ来るんだ」


 ニタニタ笑みを浮かべながら、手に出現させた炎の形を変えたりして弄んでいる。


 こちらを無力な少女二人と侮っている内がチャンスだ。


 幸い向こうの目的からして、こちらに大きなけがを負わせるわけにはいかないはずだ。


 態度からして向こうは違うみたいだが、こちらは初めての対人戦だし、これくらいのハンデがありすぎるくらいで丁度いい。


「早く来ねえと、ちぃとばかし熱い思いをすることになるぜ……!」


 男が全身の魔力を手に集中させ、炎がさらに大きくなる。


 おっと。


 そろそろ余計な考察は止めて、目の前の敵に集中しないとな。



「ナ、ナシロ……!!」


 それを見たリルルが目に涙を浮かべ、体を強張らせて、ボクの服の裾を掴んだ。


「大丈夫。大丈夫だよ、リルル」


 またリルルが怖がっているのかと思い、安心させるように声を掛けたが、


「ううん、リルルも……!」


 そう言って、リルルも手に水を纏わせて、抵抗する意思を見せた。


 おお、スゴイぞ、リルル……!


 顔は恐怖に歪んでいるが、ボクだけに任せず、必死で一緒になんとかしようと勇気を出しているんだ。



 この数日で、リルルは驚くほどの成長を見せてくれている。


 ボクの家族が行方不明になり、ボクと一緒に暮らすようになって、何か思うことがあったのだろう。


 リルルなりに今のままではダメだと思って、自分を変えようと努力していたんだ。


 そんなリルルの決意に水を差してしまうのは心苦しいが、


「リルル。ここはボクに任せてほしい」


「でも……!!」


 なお食い下がろうとするが、ここはリルルに危険を及ぼすわけにはいかない。


「お願い。大丈夫、絶対なんとかするから」


 リルルの目をしっかりと見て、大丈夫だと伝えると、リルルは一応納得してくれたようで、一歩下がってくれた。


 ただ手に水は纏わせたままで、何かあったらいつでも参加するつもりだという事だろう。


 よしよし、いい子だ。


 自然と笑みがこぼれてしまう。


「おいおい、なに笑ってやがる……? これから自分がどんな目に合うか……ま、わからねえか、こんなガキじゃよぉ」


 ふと、男は浮かべていた笑みを消して、何かを考える表情を見せる。


「……しかし……こんな上玉で、しかもどちらも才能色持ちなんて、こりゃ何の冗談だ……? モブドン様がコイツらに拘るもわかるってもんだなぁ……ちっ、あいつにはもったいねぇぜ……売り払やぁいったいどんだけの値がつくか……」


「ゲスク! 何をしておるか! 早く捕まえんか!」


 家の表側から出てきたのか、モブドンが裏庭に回ってきた。


 続いて村長も出てきて、聞く耳を持たないモブドンに、考え直すように何度も食い下がっているようだ。


「わ、わかってまさぁ……! その代わり臨時ボーナスいただきますぜ……!」


「わかっておる! 少しくらい火傷させても構わんぞ! 領都には治癒魔法士がおるからな!」


 モブドンはもうボクとリルルを手に入れた後の事でも考えているのか、下品な笑みを浮かべて品定めでもしているようだ。


「聞いた通りだ、嬢ちゃん。さあ、大人しく捕まるなら今の内だぜ?」


 男はそう言って、手をこちらに差し出し、魔法の発動体勢に入った。


 いくらこちらに有利とはいえ、安全第一、下手に警戒される前に勝負を決める。そのために……


「さっきから待ってるのに、早くしてくれない? おじさん雑魚なんだから、どうせボクに勝てないんだし」


 ワザと怒らせるように挑発してみる。


「なんだとこのガキャアア!!」


 狙い通り、顔を真っ赤に怒らせて挑発に乗ってくれたようだ。


 こんな小さな子の言葉をまともに受け取っちゃって、心が狭いなぁ。


「火傷で済むと思うなよぉおお!? 赤き炎よ猛き力となり、我が元から燃え広がれ!【火波(ファイアウェイブ)】!!」


「ま、待てゲスク! 殺すんじゃない!」



火波(ファイアウェイブ)】。


 これは【赤1】の魔法で、自分では発動させたことがあるけれど、もちろん他人が使うのは初めて見た。


【火球】より広範囲に炎を広げて、威力は落ちるが複数の敵を攻撃できる魔法だ。


 男から放たれた炎が、ボクとリルルを囲い込むように燃え広がる。


「くっ……! あっつ……!!」


 意外と激怒している割には手加減しているのか、直接炎に炙られる様な位置には発動していないが、熱いものは熱い。


「ううっ……!」


 リルルも熱そうだ。


 またボクに寄り添うようにギュッとしがみついている。


 しかし、魔導書で読んだ様な使い方ではないな……。


 なるほど、【火波】はある程度自由に炎の形を変えられ、単なる攻撃以外の用途にも使えるという事か。


 そこまでは魔導書には書いていなかった。


 やはり実際に使ってみて、それぞれどんな事が可能なのか実験しておかないとなぁ。


 とりあえず、この【火波】をなんとかしないと。



 うーん、手持ちの魔法でなんとかするには、まずは――


「【土壁(アースウォール)】!!」


 ボクとリルルを取り囲む【火波】から守るように、土の壁があっという間に生成される。


 よっし、できた……!!


 リニーさんとの練習で初めて発動させた時と違って、かなりの魔力を込めて、自分の前方だけじゃなく、ボクとリルルを中心に、【火波】から守るようにイメージして、円筒状の土壁を発生させてみた。


 ゲスクの【火波】を見て、ある程度形が自分で決められそうだと思ったからだ。


 魔法の使い方を教えてくれてありがとう。



「な、なんだと……!? て、てめぇその年で魔法使いか……!! だ、だが今、詠唱も無しに魔法を唱えやがった……!?」


 男が驚愕の表情で、突然現れた土壁を見上げる。


 やっぱり詠唱無しなんて、普通じゃないんだなぁ……。


「それになんだそのデカい【土壁】は……!? せいぜい自分の身長ぐらいまでしか作れねぇはずだ……!!」


『魔法レベル8』のボクが力を入れて作った壁は、高さ3メートルほどの巨大な円筒状の壁になっている。


 これでしばらくは火が襲ってくることはない。


 しかしいくら強固に作っても土の壁である以上、徐々に熱は通してしまう。


 それに、形を変えられるなら、壁の上から炎を発生させることも出来るかもしれない。


 という事で、さっさと火を消すに限る。


「さ、さっきは【緑】の風を起こしやがったはずだ……。ま、まさか【緑】と【橙】の複色持ち!?」


 ――残念!! 不正解です!


 ボクは再び魔力を集め、あるイメージを描きながら新たな魔法を発動させる。


「【水霧(アクアミスト)】!!」


またもや無詠唱で、【青1】の魔法を発動し、【土壁】の周囲に大量の水の霧を発生させると、ゲスクが放った【火波】の炎が、見る見る内に勢いが衰えていった。


ちなみにここ数日の魔法の練習により、現時点で発動可能な魔法は全て習得済みで、無詠唱での魔法発動が可能になっている。


「クソッ……!! もう一人のガキも魔法使いか!? だ、だがどういう事だ……!? 【水霧】でなぜ火が消える!?」


 自らの魔法が無効化された事に驚き、固まってしまうゲスク。


【土壁】の壁に隠れて誰が魔法を発動したかわからなかったようで、さっき【青】の力が使える所を見ていた為、【水霧】を発動したのはリルルだと思ったらしい。


 この魔法の主な使い方は、敵の周囲に濃霧を発生させて敵の視界を奪う事と魔導書に書いてあったが、それだと消火に使える程の効果が無いかもしれないと思ったので、もう少し水分を多めに、発生させる勢いも増大させてみた。


 勢いが強くて細かい水のシャワーみたいな感じ。


 すると、水による冷却効果と、細かい水の粒子が周囲を覆うことによる窒息効果によって、炎が継続して燃え続ける事を阻害する。


 要するに、水噴霧消火設備のような役割の魔法にアレンジしてみたのだ。


 スプリンクラーは広く知られていると思うけど、その違いは水をより細かく噴射させて、冷却に加えて窒息効果を得る事だ。


 これは建築知識というよりは消防設備の知識だけど、建築と消防は切っても切れない関係にあるので、建築を学ぶ者は同時に消防知識もある程度学んでいる。


 今回はその知識が役に立った。


 魔法の炎と言えども、周りに燃焼空気が存在しないと炎の維持は難しいんだろうと思う。


 自然科学と魔法。


 相容れない両者の様に思うが、それぞれ無視できない影響を及ぼすんじゃないだろうか。



 ものの数十秒で、【水霧】によって衰えた炎が、完全に消えてしまった。


 ただ、これも『魔法レベル』による威力差があるから出来る事だろう。


 もしボクより『魔法レベル』が高い者が発動した炎だったら、そう簡単には消せなかったんじゃないかと思う。


 あと心配だったのは『基本レベル』の差が魔法の効果にどれくらい影響するのか。


 ボクは『基本レベル2』で、ゲスクは『基本レベル14』だ。


 これも『魔法レベル』と同じくらいの影響を及ぼすようなら、とても勝てない所だけど、どうやらそこまでの影響はないらしい。レベル2でも普通に勝てた。


【土壁】を解除し、ボクとリルルが再び姿を現す。



「さて、では今度はこちらの番だな」


 ニヤリと笑みを浮かべて、何事もなかったように立っているボク達の様子を見て、ゲスクは信じられない物を見たとばかりに、唖然とした表情で立ち尽くしていた。




お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)



主人公メモ

(魔法は本文で出て来た物のみ)


【基本レベル】 2/8

【魔法レベル】 8

【魔法色ランク】 赤:2 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1

【習得魔法】 ランク1…【火球】【土球】【土壁】【水霧】【風香】

  ランク2…【癒水】

【習得英技】 ランク6…【権能蒐集】

【武術流派】 ――

【魔技クラス】 ――

【習得魔闘技】  ――




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