表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/67

第22話 代官の要求

「これはこれはモブドン様。このような辺境にまたおいでくださるとは、またどういったご用でございましょう?」


 そう、突然やってきたのは、あの横柄で気味の悪い代官だ。


 いつもは事前に使いの者を寄越して、迎える準備をさせてから来るのに、今日は前触れもなく突然現れた。


 ちなみに今日はまだスグルは来ていない。


 家の用事や父親の手伝いなんかで、来ない日もある。



 小太りで脂ぎったオッサンは、護衛の者を後ろに控えさせ、偉そうに腰かけて、気持ちの悪い笑みを浮かべていた。


「ぐふふふ。どう言ったも何も、わかっておろう? そちも中々忙しそうだからの。ワシが直々に迎えに来てやったのだ。ぐふぅっ」


 ボクとリルルは、モブドンが来たとわかった時点で、部屋に入って出てこないように言われているが、二人とも気になってドアの隙間からこっそり様子を伺っている。


「いえ、その件は……どうぞお考え直しいただけないかと先日もお話させていただいた所ですが……」


 なんだろう。よくわからないけど、先の展開がなんとなくわかったような気がする。


「さあて、知らんな。ワシが寄こせと言ったら差し出すのがお前達の勤めだろう? それとも……」


 ワザとらしく溜めを作って、ギロリと村長さんを睨みつけて、脅しにかかる。


「子爵様よりこの村の監督を仰せつかっておるこのワシに、逆らうと言うのか?」


 マジか、このおっさん。


 ホントにこういうわかりやすい手合いっているんだなぁ……。〇門様に懲らしめられちゃうよ?


「それはひいては子爵様に逆らうという事。もちろんその様な事はするまいな?」


 あまりにもあまりな展開でちょっと面白くなってきちゃった。


 ……いかんいかん、これは現実で、時代劇じゃないんだから笑ってる場合じゃない。



「もちろん逆らうだなどと……しかしですじゃ。ワシらは税をしっかり納めておりますし、今年は定められた税より多めにお渡しいたしました。村の女子(おなご)を替わりに差し出すなどという事は……必要ないはずですじゃ」


 多めに……? ということは既に村から幾らか巻き上げてるんじゃないか。


「なんだと? 必要かそうでないかは代官であるワシが決めることじゃ! 村長ごときが口を出すことではないわ!」


 突然激怒したように口調を荒げるモブドンだが、どうも演技臭い。


 自分が絶対的に優位だと確信しているからか、態度から余裕が見て取れる。


「……ふん、まあしかし? お前の言う事もわからんではない。ではこうしよう。あの娘達二人の代わりに、税を今の2割上乗せするなら話を聞いてやらんでもない。どうじゃ?」


「そ、そんな……!! それでは村はとても冬を越せませぬ! みな飢えて死にまする……! そ、それだけはどうか……!!」


 滅茶苦茶な要求に、村長がうんと言えるはずもない。わかっていてやっているんだろう。


 しかしそうか、やっぱりモブドンの要求は、ボクとリルル二人を寄越せという話か。


 あのオッサンの様子を見ても、まさか屋敷の侍女か何かの為に、という風にはとても見えない。


 ボクはともかく、リルルは正真正銘、まだ5歳のいたいけな少女だぞ……。


 なんて醜悪な欲望なんだ。


 どこの世界にも、如何ともしがたいクズというのはいるらしい。


 手元に置いて、成長してからという事かもしれないが、あのジジイがそんな気が長い性格をしているとは思えない。


 少女を自分の欲望を満たす為のモノとしか考えていない。


 それが今回は自分にも向けられている。


 男だった転生前までは感じたことのない感情……気持ちの悪さと恐怖が入り混じったような……。


 ううっ……! 全身鳥肌でブルっと来たわ……。


「どうしたの? ナシロ、だいじょうぶ?」


 ボクの様子がおかしい事に気付いたリルルに、小声で心配されてしまう。


「あ、いや……大丈夫だよ、リルル。安心してね、ボクが必ず守るから」


「え? よくわからないけど、わかった!」


 そうだ。


 こんな事に負けてちゃいけない。


 行方不明の家族を探し出し、リルルや村長さん達を守って、みんなで普通に暮らす。


 その為には越えなきゃいけない壁がたくさんあるんだ。


 今のボクに何ができるかはわからないけど、せめてリルルだけは守り通す。



「さあ、どちらを選ぶ? 娘か、税か? ワシは寛大な男じゃからなぁ、お前に決めさせてやるぞ?」


「お、お待ちくだされ……! リルルは、ワシの孫娘ですじゃ! ワシら家族に、それにこの村の将来にも欠かせぬ子じゃ……!」


「そんな事はワシには関係ない。……ふむ、そうか、お前では決められんなら、ワシが決めてやろう。ぐふふふ。――おい。」


 そう言って後ろに控えさせている護衛に目配せをする。


「はっ。――おい、娘二人はどこにいる?」


「お、お待ちを……! どうか、どうかお考え直しを……!!」


 村長さんが必死に食い下がっているが、モブドンは聞く耳を持たない。


 護衛に命じてボクとリルルを探して捕まえさせようというわけか。


 うーむ。

 さてどうしたものか……。


 この流れでは、今はこの場をとりあえず逃げておいた方が良さそうだな。


「リルル、外に遊びに行こうか。居間は通れないから、この部屋の窓から出るよ?」


「わかった……! あのオジサンなんだか怖いし、会いたくないもんね!」


 リルルの手を引いて、窓から外に出ることにする。


 この世界の文明レベルでは、まだ窓ガラスという物が普及していないのか、少なくともこの村にある建物の建具は動物の皮で遮光するか、木製の戸を取り付けているかだ。


 この家は木製建具だが、昼間は開放されている。


 二人でそっと音を立てないように出ようとしたところで、部屋のドアが乱暴に開けられた。


 しまった。動くのが遅かったか。


「リルル、先に出て!」


「おいこら、待て!」


 護衛の男が近づいてくる間に、先にリルルだけ外に出した。


 リルルが出た所で、男がボクを捕まえようと手を伸ばしてきた瞬間、ボクは緑の魔力を解放し、男に風をぶつけた。


「おわっ……!」


 男は予想していなかった風に煽られ、体勢を崩して膝をついた。


 ボクはその隙にリルルを追いかけて、窓から外に出た。


 リルルの部屋から外に出ると、そこは裏庭だ。


 このまま走ってどこかに逃げてもいいが、こちらは小さな女の子の脚力だし、さすがにすぐに追いつかれてしまうだろう。


 ……こうなったら捕まらないように、追い返すしかないか。


 代官に逆らって追い返してしまった後に、村がどうなるかはわからないが、今ここで捕まるわけにはいかない。


 捕まったら、ボクやリルルにとって良くない未来が待っていることは確実だ。



「【権能蒐集(スキルコレクション)】!!」



 ボクは魔導書を出し、体勢を整えて身構えた。


 相手の強さがわからないが、とにかく戦闘になるなら、ボクの場合はまず魔導書を出しておかないと話にならない。



「ちっ! 舐めた真似しやがって……! 待ちやがれ! ガキ共!」


 思わぬ反撃で小さな子供に翻弄されたのを恥だと思ったのか、怒りの表情を見せながら、慌てて窓から外に出てくる。


 ボクは背後にリルルを庇いながら、裏庭で男を待ち受けていた。


 ここに来て、リルルも何やら恐ろしい事が起きていると気づいたようで、身体を強張らせて必死にボクの服をつかんでいる。


 ごめんね、怖がらせて。すぐ終わらせるから。



 二人が逃げていなかったのが意外だったのか、一瞬だけ驚いた表情を見せるが、すぐにニヤリと勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


「おぅ、どうした、鬼ごっこはおわりかぁ? さっさと逃げないと捕まえちまうぞぉ? まぁ逃げてもムダなんだけどよぉ! ゲハハハ……!」


 ボクは男を睨みつけながら、様子を観察する。


 男はかなりがっしりした体型で、無精ひげを生やし、年齢は30代前半だろうか、見るからに鍛えられているのがわかる。


 腰に剣をぶら下げているが、剣を抜いたりはしていない。子供相手に武器など必要ないと思っているのだろう。


 それにやはり、ボクの魔導書は見えていないようだ。


 視線が一度もそちらに向かないし、まったく警戒していないようだ。



 ――何者だろうか。


 代官の護衛なんてしているんだから、多少腕に覚えがあるんだろうが……もしかして魔法使いだろうか。


先ほどボクの魔力で風をぶつけてみたけれど、驚きはしてたみたいたけどすぐに気を取り直して追いかけてきたし、魔法に対する恐怖心は無いようだ。


 

「多少魔力があるようだが、それだけだな。魔法ってもんをわかっちゃいねぇ。それじゃあ冒険者にもなれねえぜ、俺の様な、な!」


 そう言うと男は右腕を立てて前に構え、手を軽く握るようにして―――



 赤々と燃え盛る、炎をその手に纏わせた。


 ――その瞬間、魔導書が眩く輝き、『人物一覧』に新たな記載が加わった。



お読みいただき、ありがとうございます。


ブックマークなど頂けたら、とても嬉しいです(#^^#)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ