第18話 加入者の恩恵
「なあなあ、お前の横に浮いてるのって、なんだ?」
――スグルがそう言った瞬間。
パァァァアアアア―――
魔導書が金色に輝き、パラパラとめくれていく。
これは――!!
ボクが期待していた通り、魔導書に新たなページが出現していた。
――――――――――
【加入No.】 023
【名前】 スグル
【年齢】 5
【性別】 男
【所属】 スルナ村
【称号】 木こりの子
【状態】 疲労
【基本レベル】 1/26
【魔法レベル】 1
【魔法色ランク】 赤:1
【習得魔法】 ――
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
おおッ!?
やはり!思った通り、スグルは≪加入者≫として登録されたようだ!
『ナンバー002』のリルルに続いて二人目、さっき見た番号通り、『ナンバー023』にスグルだ。
確かに、【赤1】の才能色を持っているようだ。
と、なると……気になる項目を早速確認してみる。
自分の能力ページだ。
――――――――――
【加入No.】 001
【名前】 ナシロ
【年齢】 5
【性別】 女
【所属】 スルナ村
【状態】 良好
【基本レベル】 2/8
【魔法レベル】 8
【魔法色ランク】 赤:2 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1
【習得魔法】 ランク1…【火球】【土球】【土壁】【風香】
ランク2…【癒水】
【習得英技】 ランク6…【権能蒐集】
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
ワオ!エクセレント……!
などと思わず口走りそうになってしまったが、これはやはり、思った通りだ……!
基本レベルが上がり、先ほど使用した魔法が習得魔法に追加されたのは先ほど確認済み。
しかしここで最も重要なのは、【魔法色ランク】が変化したこと、それと【基本レベル】上限が増えたことだ。
さっきグレイトボアを倒してレベルが上がった時に確認した時は、昨日魔導書で見た時と同じ、
【赤:1 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1】
だったのだが、スグルが≪加入者≫に登録された今の才能色は、【赤】の才能色が1つ上がって、
【赤:2 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1】
こうなっている。
そしてスグルの魔法色ランクが【赤1】。
ここから予想できるのは、才能色を持つ者が≪加入者≫に登録されると、その人物の持つ才能色ランク分だけ、ボクの才能色ランクがアップするということだ。
この予想を立てられたのは昨日だ。
そもそもボクの才能色は、教会で鑑定してもらった通り、
【赤:1 橙:1 青:1 緑:1 黄:0 紫:1】
こうだったはずだ。
しかし昨日祠で【権能蒐集】を獲得した際、
【赤:1 橙:1 青:2 緑:1 黄:1 紫:1】
という才能色に変化した。
これは一緒に祠に訪れたリルルの才能色が【青:1】から【青:1 黄:1】へと変化し、それが≪加入者≫として登録されたことで、ボクの才能色に加算された。
そして今、そこへさらにスグルの持つ才能色【赤:1】が加算された事で、その予想は正しかったんじゃないかと思う。
これが【権能蒐集】のとんでもない能力だ。
≪加入者≫が何人いるのかわからないが、これから仲間を増やす度に、ボクの魔法はどんどん進化していくだろう。
現にチラッと【習得魔法一覧】には薄字ではあるが使用可能な魔法がいくつか増えている。
あ、でも……≪加入者≫だからって、才能色を持っているとは限らないのかも……
それから基本レベル上限についても、スグル加入前のボクの基本レベル上限は5だった。
それが今は8に上昇している。
半ば予想、というか期待していたんだけど、どうやら仲間が加入すると上限が上昇していく仕組みらしい。
祠で魔導書を授かった時に誰かに呼びかけられるような声が聞こえたが、誰かが何かの意図を持ってボクにこの能力を与えてくれたのなら、仲間を集めさせたいのか。
それで何かやらせたいのか。定番の、魔王倒すとか? でも魔族と戦争してないって聞いたけど……
誰かさんの意図は不明だが、とりあえず、ボクの当面の目標である家族を探し出す為には、才能色を強化し、自分の戦力充実を図らなければならない。
その為には、使用可能な魔法を充実させ、≪加入者≫を見つけ次第仲間にするための行動を起こす。
5歳の少女に他に出来る事はそう多くはないし、しばらくそういう方針で行こうと思う。
「な、なあナシロ……オレに魔法を教えてくれねえか?」
「わ、わたしも! わたしにも教えてくれる!? ナシロ!」
スグルとリルルが目を輝かせてボクに詰め寄ってきたが、ゴルスさんが制止してくれた。
「スグル、まあ待て。リルルちゃんも。今はとにかく戻ろう。とりあえず守備隊の詰所に知らせなきゃなんねえ。もしかするとまだ他にも魔物がいるかもしれねえからな」
スグルの気持ちはわかるが、ゴルスさんの言う通りだ。早く然るべき所に魔物の事を知らせなければならない。
守備隊の人達と、村長さん、後は神父さんあたりだろうか。
ゴルスさんが守備隊の詰所に行ってくれるということなら、ボクらはまず村長さんに伝えに行こう。
「ゴルスさん、お願いします。ボクたちは村長さんに伝えに行こうと思います」
「ああ、そうだな、そっちは頼まあ。後でオレも行くからよ。改めてお礼もしなきゃなんないしな」
「いえ、お礼だなんて……では、またあとでね、スグル」
「あ、ああ。ナシロ、父ちゃんを助けてくれてホントにありがとな!」
ボクとリルルは、二人と別れて、急いで村長さんの家に戻ることにした。
◇◇
二人で家に戻って、村長さんを探して居間に飛び込んだ。
「おじいちゃん、たいへんなの! 森に魔物が出たの! それでゴルスさん……が……」
リルルは勢い込んで村長さんに事の次第を伝えようとしたが、徐々にトーンを落としてしまった。
居間には村長さんの他に、人が何人かいたからだ。
その中の一人に見覚えがある。
コイツは確か……。
「リ、リルル……! なぜ帰ってきたんじゃ……と、魔物じゃと?」
そうだ、今日は来客があるので外で遊んでいるようにと言われていたんだった。
魔物の事で頭が一杯になってすっかり忘れていたが、緊急事態だし仕方がないんじゃないだろうか。
「おやおや、いきなり入ってきて無礼な娘じゃな。まあ、こんな辺境の土臭い娘なら仕方ないかもしれんがな。それもいずれワシが直々に……ぐふふふ」
げっ。
例の気味悪い視線を向けてくる代官だ。
来客ってこのオッサンかよ……。
どうりでリルルを遠ざけようとしたワケだ。
だが、今はそれどころではないので、とりあえずオッサンは無視して、村長に状況を伝える。
「村長さん、北の森に魔物が出ました。木こりのゴルスさんとスグルが襲われましたが、何とか逃げてきて無事です。少しケガをしていますが、今は二人で守備隊の詰所に向かっていると思います」
リルルは代官の気持ち悪さにすっかり怯えてボクの後ろに隠れてしまったので、替わりにボクが村長さんに状況の説明を行う。
「なんと……! それで、二人のケガは大丈夫なのか?」
二人とも軽傷で心配ない事を伝える。本当はスグルは少し重いケガだったけど、ボクが治しちゃったし、そこまで言わなくてもいいよね。
チラリと代官の方を伺うと、相変わらず気持ちの悪い視線でボクとリルルを眺めている。
今にも舌なめずりでもしそうな雰囲気だ。
「こうしてはおられんな。モブドン様、まことに申し訳ありませんが、緊急事態が起こってしまったようで、お話の続きはまた後日……」
「ふん、何を言っておる。ワシの話より大事な話などないわ。こんな田舎くんだりまで、またいちいち出向いてられるか。そういう事なら、あの話は進めてよいという事だな? ぐふふっ」
……なんだ?
何の話かは判らないが、ボクとリルルにとって悪い話だという事には自信がある。
「そ、そんな……お待ちくだされ……!」
さっさと自分の言いたいことだけ押し付けて、代官は居間から出て行ってしまった。
こちらの話の方が緊急性が高いと思ったのか、村長さんはそれを追いかけずに、この場に留まった。
「まあ、仕方ないのう。代官様には折を見てワシから話に行くしかないの。それより、先ほどの話じゃ。詳しい話は、詰所に向かいながら聞かせてくれるかの?」
村長さんはボクとリルルを連れて、道すがら事情を聞きながら詰所まで向かった。
◇◇
詰所に近づくと、普段より人が多く、慌ただしい雰囲気が伝わってきた。
中に入ると、喧騒は一層強くなり、所々で大声が飛び交っている。
ゴルスさんとスグルの姿が見当たらないが、別室にでもいるのだろうか。
「な、なんだか大変だね……」
人がたくさんいるせいだろう、リルルはおどおどしてボクの後ろにくっついている。
大丈夫だよ、と声を掛けてとりあえず安心させておく。
村長さんが守備隊員に声を掛ける前に、入り口付近にいたボク達に気付いた隊員が声を掛けてきた。
「村長! 今隊長を呼んできますね!」
隊員さんが慌てて隊長さんを呼びに行ったので、ボク達はその場で待つ。
すぐに、隊長さんだと思われるゴツイ男性が近づいてきた。
あれ、この人……?
「サイよ。おおよその話は孫娘達に聞いたが、様子はどうじゃ?」
「ええ、村長。今、森に一隊を出して探りに行ってもらってまさあ。戻るまで、とりあえず村の周囲を警戒する隊を二つ出しやした。残りの一隊は待機でさあ」
村の守備隊は全部で4隊しかないのかぁ……。まあ、辺境の村だし、それなりの規模の守備隊があるだけでもいい方なのかも……?
「了解じゃ。それで、ゴルスとスグルの様子はどうじゃ?」
「あの二人なら大丈夫でさ。今は救護室で休んでやすが、大したケガぁないようでさ」
「そうか。グレイトボアに襲われたというに、よう無事でおってくれたのぅ」
「まさに奇跡ってヤツでさあね。大人のグレイトボアなら、魔法使いでもいない限り守備隊全員で掛からにゃならんとこだ」
どうやら二人とも、ボクの魔法の事は黙っていてくれているみたいだな。助かる。
とりあえず戦闘痕は誤魔化したし、少しは時間が稼げるはずだ。
「そうか。ではワシも二人に話を聞いておかんとのぅ」
村長さんが救護室に向かったが、ボクとリルルは広間で待っているように言われたので、大人しく椅子に座って待っていることにした。
「ね、ねえナシロ……もしかして、ナシロがまものたおしちゃったの……?」
周囲に聞こえない様に声を落として、リルルが聞いてきた。
そうだ、まだリルルに詳しくは説明してなかったな。
「うん、実はそうなんだ。でも、しばらくはそのことはナイショに――」
「わあぁっ、すごい! だってスグルの足もなお――むぐっ!」
あわててリルルの口をふさぐ。
周囲の喧騒で他の人に聞かれないとは思うけど、ちょっと焦っちゃうよね。
その後、しばらくすると村長さんが出てきて、ボク達と一緒に広間で森に向かった調査隊の帰りを待っていた。
村の周囲を巡回している2隊にも、特に異変がないようで、待機中の一隊が交代で巡回に出たりしていた。
詰所に到着した時のような喧騒が徐々に落ち着いて来た頃、森に調査に出ていた一隊が戻ってきた。
どうやらリニーさんが率いる隊の様だ。
確かに、魔物がいるかもしれない森の調査なら、唯一守りの魔法が使えるリニーさんが適任だろうね。
むむ。
リニーさんなら、ボクが誤魔化したボアとか見つけちゃったりして。
【土球】と【土壁】しか使えないと言ってたし、【風香】でもない限り大丈夫な気がするけど……。
詰所に戻ってきた隊員の中には、リニーさんがいなかったが、外で待機しているのだろうか。
「ただいま戻りました。ゴルスさんから伺った辺りを中心に少し探索しましたが、グレイトボアの姿はありませんでした。暴れた跡は発見しましたが、すでに森の奥に戻ってしまったかと思われます」
隊員さんが隊長さんに報告する。
ほっ。
よかった、どうやらボアの死体は見つからなかったようだ。
「ふうむ。不思議なこともあるもんじゃ。ボアが逃げた獲物を追わずに帰ってしまったとはのう」
「まだ村の近くの森の中を移動してるかもしれねえな……。しばらくは巡回の隊を増やして回るとしますかい」
「そうさの。そうしてもらうと助かるの。守備隊には負担をかけてしまうが、どうか頼むの」
「任せてくだせえ。グレイトボア一頭ぽっち、オレ達が村には一歩も入れさせねえぜ。なあ、みんな!」
オウ!と頼もしい声が聞こえた所で、村長さんに促されて、ボク達も家に戻ることにした。
「ではサイよ。後を頼む。何かあったら何時でもワシの所に来てくれ」
詰所を出て、村長宅へと向かう道すがら。
どうやらボクの暗躍は露見せずに済んだようで、ホッとしながら歩いていた。
すると村長さんが何でもない事のようにポツリと言った。
「それで、ナシロよ。どうやってグレイトボアを倒したんじゃ?」
――どうやら誤魔化せない人もいたようだ。
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