第17話 回復魔法
森で狂暴な魔物に襲われ、必死に逃げた先に突然現れた小さな少女が、圧倒的な魔法であっという間に魔物を倒してしまった。
混乱するのも当然だろうな。
彼の混乱と動揺を鎮めるために納得の行く説明をしたいが、ぶっちゃけ何を言えばいいのか……。
村長さんやリニーさんに注意された通り、ボクの能力は隠しておかなければならないが、この状況で誤魔化せるかな……?
たまたま魔法の道具的なモノを持っていたとか……無理だろうなぁ……。
「え……っとその……ボクは、えー……」
どうにか誤魔化そうと考えていると、ボクの様子を見たおじさんが何かに気付いたように言ってくれた。
「あー……そうだな、スマン。何にも答えなくていいぜ。命の恩人を困らせたくはねぇしな」
いい人だ。助かった。色々察してくれたようだ。
ただ、ボクだってちゃんと答えられることはある。
「いえ、ありがとうございます。ボクはナシロと言って、村の子供です。事情があって、今は村長の家に住まわせてもらってます」
「あ、ああ、そうなのか……いやあ、ウチのスグルとはえれえ違いだなぁ。おんなじ年頃と思えねえ……って、ナシロ? するってぇとお前さんは、あの……」
おっと、どうやらボクの事を知っているようだな。
まあ、ボク達一家が行方不明になった時に、村の守備隊が大々的に捜索に出てくれたりしたもんな、村では結構な事件として話が広まってるんだろうな。
「あの、おじさん。お願いがあるんですが……」
「ん? ああ、オレぁゴルスってんだ。わかってるさ、お前さんの事は誰にも言わねえ。息子と聖統神さまに賭けて誓うぜ」
ゴルスのおじさんはボクが何を言いたいかわかってくれて、約束をしてくれた。
「ありがとうございます。助かります」
ボクはお礼を言ったが、ゴルスさんは照れくさそうにしていた。
「何言ってんでぃ。礼はこっちのセリフだぜ。こんなオッサンを助けに来てくれて、ありがとうよ。この恩は忘れねえぜ。村で困ったことがあったら言ってくれ。オレに出来る事ならなんでもするぜ」
ゴルスさんは立上り、きちんとボクにお礼を言ってくれた。
自分の能力が知れ渡るリスクを冒してでも、助けに来て良かった。
それにしてもあんな魔物に囮になって追い回された割には、確かに目立ったケガはしてなさそうだ。
木こりってスゴイね。
普段から森に入っている職業だけあって、魔物は倒せないまでも、自分一人だけなら何とか逃げるだけはできるのかもしれない。
今回は息子がいたから、自分が囮になるしかなかった、とか。
まあとりあえず、これならこのまま歩いて村まで戻れそうだ。
おっと、そうだ。
いくらゴルスさんが黙っていてくれても、焼け焦げたボアが村の人に見られたらもうバレたも同じ。
なんとか誤魔化しておかないとな……。
橙の才能色の力でボアの下の土を掘り起こし、埋めておいた。
さっきの戦闘ではあまり周囲を壊したり燃やしたりしなかったから、戦闘の跡もあまりわからないはずだ。
ボアがなぎ倒した木々はそのままだし、ボアを埋めた地面は不自然に土が新しいけど。
わかりやすい平地ならともかく、こんな森の中で、魔法もなしにここに辿り着けるかな。着けないように祈ろう。
さて。
後始末も一応終えたし、とにかく早く村に戻ろう。
モタモタしてると他の魔物に襲われる危険だってありそうだしね。
ゴルスさんは、見た所大丈夫そうだけど、魔導書で状態とか確認できないだろうか。
そう思いながら村に向かって歩き出そうとした時、魔導書が反応して新たなページが記載された。
人物一覧のページだ。
――――――――――
【名前】 ゴルス
【年齢】 31
【性別】 男
【所属】 スルナ村
【状態】 軽傷
【基本レベル】 6/17
【魔法レベル】 ――
【魔法色ランク】 ――
【習得魔法】 ――
【武術流派】 ――
【魔技クラス】 ――
【習得魔闘技】 ――
――――――――――
これはマズい。
ゴルスさんは魔法の事を他言しないと約束してくれたが、魔導書はあまりに通常の魔法からかけ離れている気がする。
おそらく魔法の上位スキルだろう『英技』など、あまり広く知られていないと思われる。
例え見られても黙っていてくれるだろうが、あまりアレコレ見せない方が良いのは確かだ。
どう言い訳しようか考えていたが、歩き出そうとして突然止まったボクを、ゴルスさんは不思議そうに見ていた。
「どうした?ナシロ。村に戻らねえのか?」
「いえ、その……ゴルスさん、ボクの傍に何か見えますか?」
「……?? いや、何も見えねえが……何かあんのか?」
この反応……。
どうやらゴルスさんには魔導書が見えていないようだ。
昨日はリルルにも普通に見えていたし、みんなに見えるもんだと思っていたけど違うのか……。
考えられるのは、リルルは≪加入者≫だから見えていて、他の人には見えないということだろうか。
「いえ、何でもありません。村に戻りましょう」
ゴルスさんは本当に軽傷の様だし、さっさと戻ろう。
◇◇
二人で森を抜け、さっきボクが村を出るために使った柵の隙間から、村の中に戻ると、スグルとリルルが、心配そうにボクたちの帰りを待っていた。
「父ちゃん!!」
父の無事な姿を見たスグルが、大声で叫びながらこちらに駆けよろうとしたが、ケガをしている足の痛みに顔を歪ませ、その場に座り込んでしまった。
「スグル!?大丈夫か!?」
ゴルスさんが慌ててスグルの元に駆け寄る。
スグルの足のケガはそれほど出血していなかったが、よく見ると少し腫れている部分がある。
触ってみるとかなりスグルが痛がるので、おそらく打撲か、悪ければ骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
「ナシロ、だいじょうぶなの!?」
騙し討ちのような形でリルルを置いて一人で村の外に出てしまったので、ちょっと怒っているような感じだが、ボクの無事を喜んでくれた。
何の説明もしないで置いてきちゃったけど、どうやらスグルに、何が起こったかは聞いていたみたいだ。
後でちゃんと説明するから、ゴメンねリルル。
さて、どうしたものか。
さっきまでのボクでは出来なかったが、今のボクにはできる事がある。
グレイトボアを倒したことで、ボクの基本レベルは2に上がった。
ということは、魔導書に記載されている、行使可能な魔法が増えたということだ。
その中にはこの状況にピッタリな魔法がある。
あまり魔法を見せびらかしたくないが、ゴルスさんにはもう見られているし、それに……。
スグルは恐らく≪加入者≫だ。
今もまだスグルの頭上には≪023≫の表示が出ている。
魔導書を確認したが、『加入者一覧』にはまだリルルの名前しかない。
この状態では、多分仲間には加わっていないんだろうな……。加入にはそれぞれ条件があるのかも。
今回はゴルスさんを救出することだけでは不十分なのか。
となればイチかバチか、これでどうだ。
「青き水、黄の光よ、かの者に癒しを与え賜え!【癒水】!!」
複色魔法ランク2、『青1黄1』の魔法を使った。
回復(小)の効果を持つという魔法は、みるみる内にスグルの傷を治し、腫れも引いていった。
うーん。
誰も何も反応がない。
しょうがないな。
「どうかな……? 足、まだ痛むかな……?」
「――え? あ、あれ……? 足が……痛く、ない……?」
良かった。ちゃんと効いたようだ。
それに『回復(小)』でちゃんと治ってくれたようだな。
骨折だったら完全には治ってなかったかもしれない。
いや、その場合は重ね掛けでいけるのかな?HP30しか回復しなくても何回もやればOK!みたいな。
こればっかりは大怪我した人がいないと確認しようがないからなあ。怪我なんてしないに越したことはないんだし、ワザと怪我するのもちょっと怖いし。
「なんとまあ……オレぁ夢でも見てるんか……? ナシロ、おめぇさんは神様の生まれ変わりか何かか……?」
ゴルスさんがボクを拝むような勢いなので慌てて否定しておく。
あー、でも『生まれ変わり』って点では正解か。
「ナシロはね、スゴイんだよ! なんでもできるんだから!」
なぜかリルルが興奮しているのでなだめていると、スグルも動揺から回復したようで、色々聞きたいようだ。
「ナシロ、お前……なんで魔法なんて使えるんだ?」
うーん、どう答えたものかな……スグルはおそらく≪加入者≫でもあるから、ずっとナイショにしておくという選択肢はない。
「こないだ教会で鑑定してもらったら才能があって、リニーさんにお願いして教えてもらったんだ」
【癒水】が使えることの説明にはなっていないけど嘘は言ってない。
本格的に仲間になったら、おいおい教えていけばいいと思う。というかボクだってまだ消化しきれてないんだし、しょうがないよね。
「ほんとうかよ!? いいなあ、オレもリニーに教えてもらおうかなあ」
おい、ボクの師匠のお姉さんを呼び捨てにするな。
さすが悪ガキだな。
いや、悪ガキかどうかはわからないがいつもボクとナシロにちょっかいかけてくるし。たぶんそうだろ。
いやそんなことより。
「スグルも魔法色の才能があるの?」
「ああ、あるぜ! すげーだろ!」
いやまあ、たしかにスゴイけど。
今目の前で魔法を使った相手に自慢するのもすごいね。
5歳男子だもんね。それぐらい普通か。
って言うか才能色を持っていることをそんなあっさり言うんじゃありません。ボクが言うなって感じだけど。
「わたしもあるもん!」
リルルも負けじとアピール。
だから言っちゃいけませんってば。
いつもなら慣れない人がいるとほとんど話さないが、この危機的状況でその辺り麻痺しているんだろうか。リルルにしては珍しく大きな声だ。
……と、そういえば、リルルの才能色が【青:1】から【青:1 黄:1】へと進化したことを伝えていなかった。
ちなみにこの才能色があれば、リルルもいずれはボクがさっき使った【癒水】だって使えるようになるはずだ。
まだ村から出たことのない身ではよくわからないけど、神父さんの口ぶりじゃあ、たぶんリルルだって相当貴重な才能なんじゃないだろうか。
リルルの才能色が進化したということは、スグルも進化する可能性があるのかもしれない。
今度タイミングを見て祠に連れていきたいな。
しかしまあ、スグルに才能色があるというのは、良いことを聞いた。
これでますます≪加入者≫に加わってもらわなければ。
魔導書の能力で一番重要じゃないかと思うある事が検証できそうだ。
リルルとスグルがどっちが先に教えてもらうか言い合っているのをどうしたものかと眺めていたが、ふとスグルがこちらに向かって尋ねてきた。
「なあなあ、お前の横に浮いてるのって、なんだ?」
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