5.5 半人半龍
フォスティアが基礎学校に通うようになり、保護者である白龍シェルキスにもある程度の余裕ができてきた。
そんなある日、シェルキスは知己である黒龍イヴィズアークに誘われ、彼の家を訪ねた。
「よく来てくれた、シェルキス」
イヴィズアークが出迎える。シェルキスの体色をそのまま黒くしたような容姿だ。
「龍間通信で話せばよいものを、直接会いたいとは珍しいな」
「まあ……おまえに妻を紹介したくもあったしな」
イヴィズアークは言いながら尻尾の先端を軽く振り回す。
「妻? ……ほう、これは先を越されてしまったか」
そんな会話をしながら、シェルキスは翼を小さく畳んで門をくぐる。
部屋の中では、もう1体の黒龍、おそらくイヴィズアークの妻がシェルキスを待ってくれていた。
「あんたが夫の知己かい? わたしはディアーズライド、よろしく」
「ああ、よろしく。シェルキスという」
「さて、挨拶も済んだところで、本題に入ろうか」
イヴィズアークが切り出した。
まず、シェルキスが問う。
「愛玩目的で人族の飼育が禁じられたのは、おまえの祖父アーゼンホルトが原因だそうだな」
「ああ。……なんというか、うちのジーさんが『やらかして』くれたよ。俺の生まれる200、いや、300年前か、それぐらいの頃のことらしい」
「何をやらかしたんだ?」
シェルキスの問いに、イヴィズアークは一瞬目を逸らしてから話し始めた。
「あの頃、ジーさんは人族の雌の幼体……人族の言葉で《少女》と言うんだったか、それを1人飼っててな──」
アーゼンホルトに飼われていた人族の少女エイナは、ある日、飼主であるアーゼンホルトに求愛、つまり愛の告白をしてきた。
人族の繁殖について研究していたアーゼンホルトは、自身の好奇心も手伝い、エイナ本人の了承を得た上で、彼女の《求愛》を受け入れた。
「──人族と龍族では体のサイズが違いすぎるからな。体外じゅ」
「待て待て待て待て。なんだそれは、いくらなんでもそんなこと」
「できちまったから仕方ない」
イヴィズアークも遠い目をしていた。
少し間を置いて、さらに説明を続ける。
経緯はどうであれ、実際に両種族の間に子が生まれたことから、人族は《龍族との交配が可能な種族》として認定された。そして、龍族と交配可能な種族は龍族と対等な扱いをすべき、との観点から、人族を家畜・研究対象・愛玩動物などとして扱うことを禁ずる法律も制定された。
ただし、今までの扱いを急に変えることは現実的でないことや、現状の《在庫》として管理されている人族の個体をどうするのか、という点にも配慮され、法律の制定から500年でペット化の禁止、1000年で龍族の管理下から完全解放(ペット化の禁止から500年)という猶予期間が設定された。
「──って訳だ」
「ふむ……完全解放まで後470年と少しか」
「そうなったら、今の保護区がそのまま《人族の国家》ってことになるだろうな。龍族の勢力圏じゃない空き地もけっこうあるから、人族が領土を拡げることがあるかもしれない」
「随分と思い切った決断だな。この恒星系でハビタブルゾーンにある星はここ、ゼルク・メリスだけだったはずだが……?」
「まあ、辺境の宙域だからな。人族に星1つ与えても構わんってことだろうさ。……というか、この仕事しててそんなことも知らないのかよ」
イヴィズアークは半眼でシェルキスを睨む。
「悪かったな。この仕事は最近始めたばかりなのだ。……それで、その子……おまえの伯親はどこで暮らしているのだ?」
シェルキスがそう聞くと、イヴィズアークの動きが一瞬止まった。そして、ゆっくりと語りだす。
「そうか、ジーさんの子だから、俺の伯親なんだよな。この星から離れて、ジーさんと一緒に住んでるよ。……なんだ、会いたいのか?」
「いや、俺ではなく、俺の初仕事で保護した少女に、できるだけ多くの種族と触れ合わせてやりたい、と思っていてな」
「ふむ……考えておくよ」
その後、龍たちは雑談に興じ始めた。
用語解説
作中に登場した本作独自の用語を解説します。
◆龍間通信(インドラコム)
インタードラゴン・コミュニケーション。
龍族の通信魔法を用いて、個体同士の間で音声や映像をやり取りする技術。会話はもちろん、見聞きしたものをビデオのように直接やり取りすることも可能。
◆伯親(ペイブル)
親の兄弟姉妹を性別を指定せずに言う言葉。
日本語の伯父、叔父、伯母、叔母を総称することと同義。
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なお、この小説は【作中世界の言語を日本語に翻訳して書かれている】という体裁で書いているので、「なぜ龍族が英語を使っているのか」のような趣旨の質問は受け付けません。
龍語で《龍間通信》に相当する意味の言葉が、日本語(外来語を含む)ではインタードラゴン・コミュニケーションに相当する、とご理解ください。




