5 魔力測定
基礎学校の入学式は屋内運動場を兼ねた公会堂で行われ、午前中に終わった。集まった新入生とその保護者たちは一旦解散して昼食を取り、午後からは再び公会堂に集まって魔力測定が行われる。
測定の前に、壇上で教師が測定について簡単な説明をする。
「どんな生き物にも魂があります。魂の力で肉体を保ち、魔法を使う時の原動力である《魔力》にもなります」
魂の力を《肉体の維持》のための身力と、《魔法の行使》のための魔力に振り分ける、ということだ。これを意識的に行える者は少なく、均等に分かれているか、あるいは《身力は強いが魔力は弱い》《魔力は強いが身力は弱い》のいずれかになる。
ただし、いくら魔力が強くとも魔法を発動するのは本人の肉体なので、身力が貧弱だと魔法に耐えられない。魔力だけが強すぎても、その本領を発揮できないのだ。
そのような内容を、教師は新入生にも概要が分かるよう、噛み砕いて説明した。
最初の生徒が壇上に呼ばれて、測定用の石版に手をかざす。すると、石版の表面に文字が浮き出てくる。
《アイゼス・ダンゲイト 4.365[2]》
「おや、これは436.5ですね。ちょっと低いですが、これから成長していくでしょう。あまり心配しなくても大丈夫ですよ」
教師が励ましと共に補足説明をする。魂の力が生涯で不変であることは稀だ、と。
石版に浮き出た数値は指数表記だ。彼、アイゼスの場合は4.365×[10の2乗]。カッコの中の数値の分、小数点を右にずらして読む。
そうして、フォスティアが壇上に上がってきた。石版に浮き出た数字は……
《フォスティア・メーデンハイト 9.791[1]》
「こ、これは……! えっ!?」
最初、教師は指数部分が[2]だと思い込み、異常な数値が出てきたと勘違いした。しかし、改めてその表示に気づいた時、彼はフォスティアにどう声をかけるべきか、良い言葉が思い浮かばなかった。
ここまで低い数値を見たことが無かったからだ。
「先生? どうしたの?」
フォスティアの無邪気な顔が教師の心に刺さる。
「え……ああ、うん。フォスティアさん、君はすごく体が強いんですね」
「うん! 力が強いのはあたしの自慢だよ!」
「それは素晴らしいですね。これからの学校生活も頑張ってください」
そんなやり取りをして、フォスティアは自分の席へ戻った。
彼女の背中を見送る教師は、自身の背後で控えている他の教師たちの間から漏れ聞こえてきたひそひそ話が、彼女の耳に届いていないことを祈っていた。
●
基礎学校は、最初の3年間は20人程度の学級を1人の担任が受け持つ、という制度である。入学式の後、新入生たちはそれぞれの教室へと振り分けられ、担任や同級生との顔合わせが行われる。
顔合わせには保護者も同伴するのだが、子に手を引かれて後をついていく保護者や、逆に保護者が前に立ち、子の手を引いていく姿など、それぞれの親子関係が垣間見える。
フォスティアの後ろを歩きながら、シェリーはそんなことを考えていた。
「あっ、ルーク!」
教室に入ったところで、フォスティアが男子生徒の下へ駆け寄っていく。今朝、学校の入口で木刀を投げてきた……おそらく、手が滑ったとか、そんなところではあろうが、その少年だ。
少年の近くには若い女が1人。
「あっ、あなたは今朝の……」
シェリーに気づいたらしい女は、どことなくばつが悪そうに切り出す。
「フォスティアの保護者だ。あなたは、ルークのご母堂か?」
「ごっ、ごぼ……?」
シェリーの問いかけに、女は目を点にする。
「……? どうした、どこかおかしいか?」
「いっ、いえ……! 古い言い回しをなさるんだなぁ、と」
「古い……そうか、古いか」
古いと言われて、シェリーは少し肩を落とす。
「あっ、あの! ところで、わたしはルークの母でフェリシアといいますが、あなたのお名前は……?」
「ああ。わたしはシェリーという。よろしく」
「シェリーさん……(お婆ちゃんと同じ名前)」
言葉の後半は小声で呟いていたようだが、シェリーの耳はしっかりとそれを捕えていた。
シェリーは、自分の感性が古い可能性についてはもう諦めて、子供たちに目を向けることにした。
「僕は5.212の2だから、521.2だったよ。フォスティアはどうだった?」
「あたしは97.91。先生には体が強いって褒められたよ」
「え……それ、ちょっと低すぎない?」
「そうなの?」
なんだか話が良くないほうへ流れていきそうだったので、シェリーは慌てて会話に入る。
「まあ、低くてもよいではないか。先生も『これから成長する』と仰っていただろう」
そう言い出したところで、ちょうどこの教室に振り分けられた最後の新入生が入室してきた。
担任が挨拶を始めたので、シェリーも会話を打ち切ることにした。




