『帰路』
もう夜になりかけている。
来た道を通って帰っているのだが、非常に日が暮れるのが早い。
「森が....燃えている」
目の前に広がる森を見て、思わず呟いた。
この森を通らなければ、家に帰ることは出来ない。
今日中には帰りたいのでこの森に入るしかないだろう。
そう思い、森に入ろうとしたその時だった。
「人間かぁ、今すぐここを立ち去れ。さもなくば殺す」
クククククと、赤い目で赤い角の生えた男が目の前に現れ言う。
悪魔だ。
「そうかぁ、立ち去らねぇかぁ。これから死ぬお前に、教える必要はないだろがその脳に俺の名を刻め。トイフェル72柱、序列37番【不死鳥】フェネクス様の配下が1人、フランメ・ファイアーだ」
トイフェル72柱....【大魔王】ソロモンに使えし、最凶の悪魔の集団だ。
「フェネクス様は争い事を嫌っている。もう一度言うが、お前が直ぐにここを立ち去るのなら、生かしておいてやっても良いぜぇ」
悪夢の言うことは信じられない。
今、逃げたとしても、悪魔を滅ぼす際また戦うことになるだろう。
それなら、ここで倒すのが得策....か。
「おいフランメ、何をしている。そこの奴を今すぐ殺せ」
蒼い目、蒼い角の男が現れ言う。
この場に悪魔が2人も揃った。
「『水龍の捕食者 〜逆鱗激流〜』」
突如、森全体に激流が走る。
「生きていたのか、しぶといな」
蒼い目の悪魔の視線の先には、エイルさんが立っていた。
「やぁフレイ。教会には行けた?」
エイルさんの全身からは、大量の血が流れている。
「エイル....さん....」
「心配しなくて良いよ、私は大丈夫だから」
こんなに大量の血が流れているのに、大丈夫な筈がない。
「おいソロモス、人間に手出しするなと言った筈だ」
フランメが言う。
「我が君、【地獄の大公爵】フォカロル様はそんな事を命じていない」
「お前の主が命じてなくても、フェネクス様が命じられた筈だ。今回は、この森に降りたった神を天界へ追い払うだけだと」
フランメとソロモスが言い争う。
「悪魔ソロモスの名を持って支配する。そこの女の捕食者、我が器となれ」
ソロモスが言うと、エイルさんはソロモスのもとへと歩き始める。
エイルさんの歩みを止めたいが、ここから全く動くことができない。
「おいおい、ソロモスやめろ。人間と悪魔の関係にまだ傷をつけるつもりか!」
フランメがそう言っている間に、ソロモスの魂がエイルさんの体に入る。
「あぁ、流石捕食者の体だ。よく馴染む」
悪魔が完全にエイルさんの魂を支配したのだ。
また、悪魔によって殺されるのか....両親のように、また大切な人が悪魔に殺されるのか?
駄目だ、そんな事は許さない。悪魔は俺が滅ぼす!
「まずはそこの人間を殺すとしよう」
そう言うと、ソロモスはこちらに手を向ける。
「暗闇魔術《水魔龍砲》」
悪魔がそう唱えると、大きな水の砲弾が俺に放たれた。
「『破壊の捕食者 〜落雷破壊〜』」
禍々しい魔力を伴った漆黒の雷が、ソロモスに落ちる。
「おい破壊の捕食者、水龍の捕食者を殺すつもりかっ」
ソロモスの真上にフランメが現れる。
フランメは漆黒の落雷を受け止めた。
「お前は怒りにより忘れているだろうが、今水龍の捕食者の体はソロモスに乗っ取られている。そのソロモスの体を傷つければ、水龍の捕食者も死ぬぞ。よく考えることだ」
フランメがそんな事を言う。
悪魔の言う通りだ。エイルさんを助けながら、ソロモスを倒さなければならない。
「水魔霊剣ヴァッサーよ、顕現しろ」
ソロモスがそう言うと、魔剣と霊剣を合体させたような不気味な青い剣が現れる。
「来い、迅殲剣ゲシュタルト」
俺がそう言うと、俺の手の周りに闇が広がり、一振りの剣が現れる。
「迅殲剣だと....神が作った人選剣の姉妹剣が何故....」
ソロモスが言う。
俺は迅殲剣が何なのかも分からなければ、何故俺を選んだのかも分からない。
只、今は目の前にいる悪魔を倒し、エイルさんを救うことだけを考えていれば良い。
「忘れたか、ソロモス。此奴は破壊の捕食者だ。数百年前、悪魔エルサエムが破壊神の手を借り、唯一人間へ送ったスキルだ」
破壊の捕食者をこの悪魔は知っているのか?
悪魔エルサエム....何故その悪魔は何故俺にこのスキルを送ったんだ....。