『スキル給付』
「何だったんだ....」
突然目が覚めた。
夢を見ていた。否、夢を見ていたというより、誰かの記・憶・を見ていたと言うべきだろうか。
この世界で、全ての人間に崇められている神を滅ぼそうとしていた男の....。
ふと窓から外を覗くともう朝日が地上を照らしていた。
夢のことを考えている暇はないので、急いで支度をするとしよう。
支度を終え、階段を降りると食卓に置き手紙があった。
『見送りができなくてごめんね。少し用事が出来てしまって、それを済ましてくる。教会までは遠いから気をつけるのよ!』
そんな事が書いてあった。
ここから教会までは、歩いて半日はかかる。
俺は、置き手紙と一緒に置いてあった弁当を持ち、家を出た。
道中、あの夢の事を考えていると、数日前に見た青い花が枯れているのを目にした。
数日前はあんなに綺麗に咲いていたのに、そんな事を思いながら再び教会へと歩き出す。
ーーー数時間後ーーー
あれからどのぐらい時間が経っただろう。
幸い、道中何事もなかったため、教会に着いたのは丁度昼頃だった。
「ご用件は?」
教会へ入ると神父にそう尋ねられた。
「16歳になったので、スキルの確認に来ました」
そう言うと神父は頷き、黄色く光らせた目《鑑定眼》をこちらへ向ける。
「何っ、『破壊の捕食者』だと!」
神父は突然大声で叫ぶ。
破壊の捕食者....昨日夢に出てきた男のスキルも破壊の捕食者だった....。
「あぁ神よ、忌々しき悪魔を粛清するため私に力をお貸しください」
神父がそう言うと、緑の髪に緑色の目をしており、体が神々しく光っている女性が現れた。
「神を崇拝する勤勉な神父よ、《宝具の神》である私ケルセミが力を貸しましょう」
ケルセミはそう言うと神父に手をかざす。
「《宝具の神》の名を持って命じる。勝利の神剣ズィークよ顕現し、この人間へ力を貸しなさい」
ケルセミがそう言うと、神父の手に神々しく光る神剣が現れた。
「ありがたき幸せ。ケルセミ様に変わりて悪魔を滅する。」
そう言うと勝利の神剣から、鎖のようなものが伸び始めた。
「勝利神剣、封印ー永遠牢獄ー」
勝利神剣から伸びる無数の鎖が、俺を囲う牢獄となった。
スキルを使いたいところだろが、生憎使い方が分からない。
「悪魔め、これで終わりだっ!」
そう神父が良い、神剣を振り落とそうとしたその時だった。
視界が一瞬白くなり、神々しい光に包まれた宮殿が目の前に現れる。
『力が欲しいか人間よ』
そんな声が頭に鳴り響く。
『悪魔に復讐するのだろう?こんな所で死んでも良いのか」
こんな所で死んでいいわけがない。まだ俺は何もしていない。
『良いわけがないだろう!我はお前を選んだ。我を振るい抗え!抗うのだ!』
目の前に一振りの剣が現れる。
そう言えばエイルさんが昔言っていた。真に剣に選ばれた者は、一度だけ剣と会話する事が許される。そして選ばれた者は、剣を握ったその瞬間、その剣の扱い方が分かるようになるのだ、と。
「力を貸せ!」
そう叫ぶと俺は、一振りの剣を握った。
『我が名は、迅殲剣ゲシュタルト。この世の全てを殲滅する剣なり』
最後にそう言うと、視界が元の世界へ戻った。
手には先程同様、一振りの剣が握られている。
「何だ、その剣は!神剣いや聖剣か?精霊剣、魔剣の雰囲気すら感じる。一体何なのだ!」
神父がそう叫ぶ。
「落ち着くのです。あれは迅殲剣、持ち主によって姿を変える人選剣の姉妹剣。人選剣同様、如何なる剣にも姿を変えられますが、所有者を選んだのはこれが初めての剣。ありとあらゆる者へ勝利を与えてきた、勝利神剣には敵いません」
そうケルセミが言う。
「迅殲剣ゲシュタルト、解放ー殲滅ー」
俺が剣を持った時に使うのは解放。剣本来の力を解放して使うのだ。
剣を扱う物は、その剣を自分の持つ剣技を使用して振る。
神父の剣技は封印だったため、勝利神剣からは鎖が出てきたのだ。
「そんな....勝利神剣の作った牢獄が....」
ケルセミが困惑する。
迅殲剣によって永遠牢獄が壊されたのだ。
ケルセミの目を見ると、夢に出てきたローブの男と同じように、目を赤く光らせている男が映っていた。
今なら、あの男のように『破壊の捕食者』を使えるかもしれない。
そう思い、ケルセミに手をかざすと、ケルセミの周りに禍々しい闇が広がる。
「『破壊の捕食者 〜神物処刑〜』」
すると禍々しい闇がケルセミを包み込み、ケルセミと共に何処かへ消えた。
「まさか....神を....滅したのかっ!」
神父が震えながら、こちらを見る。
「この....悪魔めがっ....」
そうい言うと神父は倒れた。
神父を殺す必要は無さそうなので、俺は教会を出て家へと向かう。
さっきスキルを使って分かったことがある。
スキルを信じ、目的を果たそうとした時に『破壊の捕食者』は能力を引き出す。
その証拠に今、物に手をかざしても禍々しい闇は現れない。
早くこのスキルを使いこなさなくては。
そう思いながら、俺は家に向かって走り始めた。
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