ぐいぐい清楚な彼女
「転校生を紹介するぞー」
その言葉で今日は始まる。いつもと変わらない日々、いつもと変わらない生活。
突然だが、俺の話をしよう。俺は近藤和馬で、17歳。つまり高校2年生だ。
ここは高2C組。あまり特筆したところはないが、せめて言うなら美男美女が多いぐらいだ。
「え、どんな人かな?美人ならいいな」
「俺、朝教員室に日誌取りに行ったとき知らない人みたけどめっちゃ美人だった。」
ふーん、転校生は女か。しかも美人とかこの学校の比率がおかしい。
「久し振り、和馬。どんな美人だと思う?」
俺に話しかけてくるのは数少ない親友、久保圭吾。爽やかイケメンで陽キャで、なぜ俺の親友になったか今でもわからない。
「さあ、知らん。」
「本当に君は女子には興味ないな。」
「当たり前だ。」
そんな話をしている間に先生の話は進んでいく。
「姫野。入ってこい。」
「はい。」
きれいな声が返ってくる。
そして、姫路と呼ばれた高校生が教室入ってきた。
その女子は一言でいえば八方美人。俺からでも美人だとすぐに分かった。髪は長くスタイルも下手なモデルよりもいいと思う。顔立ちは凛としていて、まさに清楚。どう見ても高嶺の花だ。
……まあ、興味はあまりないが。
「姫野です。これから皆さんと交流を深めていければと思います。よろしくお願いします。」
お手本のような完璧な紹介だ。
「では、姫野はそこの空いている席だ。」
ちなみに俺の近くの席ではない。俺の席は誰もがうらやむ窓辺の一番後ろ。姫野さんの席はちょうど真ん中だ。
「それではSHRを始める。」
僕からは彼女の後姿が見える。先生の話もつまらないのか彼女に視線を向ける人も多くいる。
「和馬、あの人美人じゃね。」
「お前……その発言お前の彼女に告発するぞ。」
「それだけはやめろ!」
そう、圭吾には彼女がいるのだ。だから彼は主人公にはなれない。でも、一途になれるのは良いことだ。俺?俺はもちろん彼女はいない。
そして、SHR終わりのチャイムが鳴る。先生が教室を出る。
ここからは転校生が来た時の恒例行事。質問timeだ。
「姫路さん、好きな食べ物とかある?」
「生まれた日はいつ?」
「もしかして、彼氏とかいる?」
そんな質問だ。そして、彼女は質問に丁寧に答える。だが、俺はそこに壁を感じた。俺の勘違いかもしれないが。
質問に答えるときにこちらのほうを向いた。その目は……まるで俺のようだった。
「和馬はあの中に行かないのか?」
「興味ない。お前はいかないのか?」
「何言ってんだ。俺には麻琴がいる。」
「麻琴と姫野さん。どっちが可愛い?」
「もちろん麻琴だ。」
流石、彼女補正が入っている。麻琴は圭吾の彼女の名前だ。幼馴染の関係らしい。
そのまま一日が過ぎ去った。一日中質問攻めに姫野はあっていた。これが夏休み終わりの二学期始まりだった。
二日目。今日から二日間夏休み実力テストを受ける。本当は姫野は受けなくてもいいけれど受ける姿が見えた。よほどの自信らしい。
「今回成績どうだった?和馬」
「いつも通り良くも悪くもって感じ。」
「いつも中盤のほうにいるなんてすごいと思うよ。逆に。」
「そういう圭吾は?」
「ふふん、見て驚け!」
ふむふむ、赤点ギリギリか。まあ、いつも通りだし驚きはしない。
「どうせ今回も勉強しなかったんだろ?」
「いいや、今回は予定が入ったんだ。」
「デートとゲームか。」
「なぜわかった!?」
これもいつも通りの茶番。これを今まで何回も繰り返してきた。
だけどいつもと違う点がある。姫野だ。学年順位を見てみると一位に姫野の名前が書いてある。
テスト返還日も終わり今日から普通の日が始まる。姫野への質問攻めも終わったようでいつもの日常に戻る。
次の時間は体育だった。そこでも姫野は魅せてくる。運動力も完璧で男子の目線が姫野を追う。彼女は才色兼備だとこれでわかる。頭もよく運動もできて、何より美人。これは嵐の予感がする。
次の日、トイレに行こうとすると姫野は女子に連れられて屋上への階段に向かっている。
突然だがカースト制度の話をしよう。この学校でもカースト制度がある。……もちろん学校が推奨しているわけではないが。連れて行った女子は多分カーストトップの細川に見えた。多分子分を連れていじめるのだろう。
理由は簡単だ。細川がトップに居続けたいから。細川も天才だが性格が荒い。そして、新参者の姫野には負けるが。それが気に食わないのだろう。
俺は底辺だ。平凡な顔で成績もあまりよくなく運動もいまいち。最底辺ではないがあまり認識されない程度。最底辺の人は「キモイ」などと言われるが俺は言われない。どちらがいいかはその人次第だが俺は底辺でいいと思う。別に構ってほしいとは思わない。ちなみに圭吾は上だ。成績は悪いが運動できてイケメンで陽キャだ。意外とモテる。まあ、彼は麻琴一筋で誰から見ても付き合っているから誰からもアプローチされないけれど。
現実逃避してた。さて、どうしよう。追いかけては俺も痛い目見るし見逃せば俺はいつもと変わらないだろう。だが罪悪感に責められるだろう。清々しい学校生活を送りたい俺にそれは似合わない。
「はあ、めんどくさいなぁ」
そういいながら俺は後を追いかけていった。さて、どうしようか。
階段で見た光景は思った通りだ。姫野の回りを囲む細川とその子分。まるで不良が金を奪う時の光景だ。……まあ、その類で間違いないのだが。
息を吐くとまっすぐ姫野のところに向かう。近づくと細川に声をかける。細川達は恐喝に夢中で俺に気づいてないようだ。
「あの、何をしているんですか?」
こういう時は猫をかぶって喋る。これ常識です。
「ちっ。おまえはおまえは誰だ。」
あら、怖い。まあ俺のことは知らないだろうな。私の子分だったらなーみたいな意味だろう。
「二年C組の近藤和馬です。あなた達は何をしているんですか?」
この言葉は強い。さらっと味方ではないことを言い、何も見ていないと彼女等に逃げ道を示す。
「ちっ。お前等行くぞ。」
あら、素直。もっと粘ってきたり暴力をふるってくるかと思った。その時の対処法も考えてきたのに。
「あの…」
姫野が声をかけてきた。だがここで返事してしまったらこの後が大変になる。学校生活が変化してくるだろう。こういう場合は逃げるに限る。
「……」
無言のまま俺は早歩きで逃亡を図る。幸い彼女は追ってこないようだ。
次のチャイムが鳴る。姫野は来なかったがその次の時間は来た。まるで何事もなかったかのような顔で。それでも少し変わった。
俺のほうをチラチラとみるようになった。流石にここまで露骨だとわかる。
「なあ、姫野さんこっちのほう随分見てこないか?」
圭吾も気づいた。まあ、あそこまで露骨だとな……周りも少しは気づいているだろ。
「確かにみているな。」
「お前なんかしたのか?俺に心当たりはないんだが。」
「俺もだ。」
はい、嘘つきました。滅茶苦茶関わりました。むしろあれでこっちを見ていなかったら冷徹すぎると思う。
このまま何事もなければいいが。
何事もありました。休み時間になったらこっちに近づいてきました。
「おい、和馬。なんか姫野さんがしかづいてくるんだが?」
「………」
ちゃんと認識しております。でも認識したくありません。そこで、寝たふり。我ながら安易な作戦。
伏せていると…視線を感じる。でも俺は屈しない。屈しないで屈しないで…屈しました。
顔を上げるとジト目の彼女がいる。こんな表情、見たことない。(現実逃避)
すると横から声がかかってくる。
「おい、何かは知らないが謝ったほうが良くないか。」
「そうだな。」
全く意味が分からないがとにかく謝ろうと思う。
「あの、すべて聞こえてますからね?」
「「すいませんでした。」」
困ったような顔をしている。そりゃそうだよな。
「とにかく、今回はありがとうございました。それでは。」
そういうと颯爽と自分の席に戻っていく。俺たちは呆然とする。
「何だったんだ?」
「さあ。」
残念ながら俺は知っているけど。
まるで嵐のような人だったなぁ。
それからはいつもと変わらない日だった。少し姫野がこっちを見てくるだけだが……
これからは何もないだろう。そう、思っていた。
偶然かはたまた運命か次は三日後の放課後、突然雨が降ってきた。圭吾は体育館で部活なので今日は一人で帰る。そして出会ってしまった。姫野に。
姫野は一人、外を見ていた。なんで一人なんだろう?彼女なら友達なんて簡単にできるのに。
その様子を見る限り傘を持っていないようだ。
さて、どうしようか。スルーすることもできるがここまでかかわってしまった。でも傘をあげてしまうと俺がびしょぬれになってしまう。まあコンビニで買えばいっか!
「ん……」
やばい。彼女を前にすると語彙力がなくなってしまう。女子全般に対してはそう。彼女が特別なわけではない。それでも彼女に傘を渡そうとする。
「これは……私にくれるのですか?」
「そうだ。」
「ではもう一つ持っているのですか?」
正直に首を横に振る。
「それならあなたはどうするつもりなのですか?」
「走る。」
正直に答えたら相手にため息をつかれた。なぜ?
「はぁ~。それなら一緒に帰りましょう。」
「え!?つ、つまり?」
「もちろん一緒に傘に入るのですよ?」
何言ってんの?みたいな顔してるけどそれは俺がしたい。あれ?俺がおかしいのか?
「それって相合傘ってこと?」
「そんな…ズバリ言わないでください…」
そんな急に顔を赤くするな!こっちまで恥ずかしくなる。
「…………」
「もしかして、いやなのですか?……そうでしょうね。」
「 違う!!」
だからそんな捨てられそうな顔でみるな!そして否定されたからってキラキラした目でこっちを見るな。……姫野ってこんな性格だっけ?
「はぁ、分かった。どっちの方向だ?」
「駅の方面です。」
幸いにして同じ方向らしい。
「それにしてもどうして傘なんて忘れたんだ?今日の天気予報高い確率で雨が降るって言ってたのに。」
「それは……持ってきたのですが……」
なるほど。その反応はわかりやすい。
「いじめられたってことか。」
「ビクッ。」
「いま、反応したな?」
「いいえ、ただ寒いだけです。」
「そうかそうか。それはすまんな。」
「はい?いいえ違います。傘がなかったのが悪いんです。」
「ほうほう。つまり持ってきたということだな?」
「い、いいえ?違いますよ?」
まあ、いじめはここまでにしておくか。
「ごめん。少しいじめ過ぎた。姫野さんの反応が面白くて。」
「ま、まあ、とにかく。和馬君には感謝しています。」
「今更取り繕っても……へ?和馬君?」
「嫌ですか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「では、決まりですね。」
なんか勢いで決まってしまった。こんなことになるなんて最初は思わなかった。会話が終わるとこの状況を意識してしまう。なんか気まずい。
「あの、こっちの角を右に曲がりますが……あなたもこっちの方角ですか?」
「えっ?ああ、こっちの方角だ。すごい偶然だな。」
「そうですか。」
なんか嬉しそうにしてる。ちょっと気持ちがわかってしまうけどまだ違う。そのはずだ。
「本当にこっちですか?」
「そ、そうだが何か。」
「ジー」
「……」
「ジージー」
「………」
「まあ、許しましょう。ちなみにここが私の家です。」
ここが……うちより何倍もでかい。大富豪程ではないが家政婦を雇っていてもおかしくない。
「じゃあ、さよならだ。」
「今回もありがとうございました。」
これも無言でスルーする。そして……見えなくなったら駅へ戻る。本当は駅から通学している。だがこの場合は言わないほうが良かっただろう。もうかかわってこなければいいが。
次の日。
「なあ、和馬。こっちに向けて情熱的な目線を送ってくるんだが。」
「…………」
「絶対にお前のせいだろ!」
「……はぁー。しょうがない。」
そして俺は階段での出来事や昨日のことを簡単に話した。
「絶対に他のやつには言うなよ?まあ、麻琴なら別にいいけど。漏らさないと約束するならだが……」
「ようやくお前にも春が来たんだな。」
「違う。」
こいつきいてねえ。
「えっ、まさか彼女の気持ちに気づいていないのか。鈍感か……」
「違う!彼女の気持ちは分かってる。俺は鈍感でも難聴でもラブコメの主人公でもない。」
「なら、ハーレム作るか?」
「作らない!!」
もう手遅れだ。どうしよう。
「というか本当に気づいているのか。」
「もちろんだ。」
「それはつまり……?」
「尊敬だ!」
「やっぱり鈍感か…。」
「違う。からかっただけだ。好意だって気づいてるよ。」
「なんだ、気づいているのか。ならその好意を受け止めればいいだろ?」
「そういうわけにはいかない。」
「なぜだ?」
「それは……彼女に好意を全く感じないからだ!」
「ここに全男子の敵がいる!そんなのいいから付き合えよ。多分いちころだぞ?」
「お前だって彼女がいるだろ。麻琴に好意を感じない男が近づいたらお前はどうする?」
「殺す!」
「だろ?」
「それとこれとは違う!」
「何も違わない!」
これは苦労しそうだ。ダブルデートしようぜとか言ってくるし。俺なんかに好意があるはずがない。こんな地味な俺にあんな彼女が。そんなことは……ない……はず。…たぶん。
そう話している今だってチラチラ見てくるし。しかも何か決意したような顔してるし。これは怖い。何してくるかわからない恐怖がある。
次は体育の時間だ。憂鬱だ。今日も姫野が魅せてきた。そして俺は疲れた。圭吾も伊達に運動部しているわけではないし。もう、辛い。
体育の時間が終わり次の授業が始まる。その準備をしていると机の空洞部分から手紙が出てくる。(ちなみに俺はその正式名称を知らないだけだ)凄く嫌な予感がする。姫野のほうを見ていると頑なにこちらのほうを見てこない。
手紙にはこう書いてあった。
{放課後、体育館裏で待っています。}
悪い予感が的中してしまった。この口調は彼女しかいない。
「ごめん、圭吾。今日は一緒に帰れない。」
「おう、それは急に。残るなんてお前にしては珍しいな?なんかあるのか?」
「悪い用事が残っているんだ。明日、説明できると思う。」
「OK.わかった。」
そして、放課後になった。約束は体育館の裏だ。この学校には体育館裏がありそこは一種のスポットとなっている。いじめもしくは告白のどちらかだ。俺は今までにどちらも経験した事がないから行ったことはない。でも呼ばれたってことはこのどちらかだ。予想がついているのだが……
体育館裏につくと予想通り姫野がいる。
「姫野さん………」
「和馬君。来たのですね。」
「そりゃ、あんな手紙を仕込まれたら。」
「なんで呼ばれたかわかりますか?」
「……わかりません。」
ここはぐいぐい拒否する。そしたら相手も嫌がるかもしれない。……ほぼないといっていいけど。
「はぁ~鈍感ですか。」
「俺は断じて鈍感系主人公ではない!」
「それならわかりますよね。」
「そ、それは…わかるにはわかるけど…わかりたくないっていうか?」
「ならば、率直に言いましょう。」
「は、はい。」
「私はあなたのことが好きです。」
…………
やっぱりきたかあああああぁぁぁ。そりゃいじめじゃないよなぁ。
「それは、罰ゲームとかではなく?」
「断じて違います。」
「俺のどこがいいの?」
「それは………」
この後滅茶苦茶話された。実質2回しか会っていないのにこんなに話されるとは……
「~だからです。」
「あ、ああ。それで俺は何をすればいい?」
「返事を返すだけです。」
そうか、返事を返すだけか。それ、YESかNOを言えってこと?今?
「……本当に今言うのか?」
「当たり前です!」
「ふん、俺の答えは……断るだ。」
「それは告白に対してですか?」
「そうだ。」
「……私のどこがいけないのでしょうか?顔が好みとかではないことですか?」
「そういうわけではないが……俺がお前に対して好意を抱いていないし……絶対後悔するぞ」
「それでは好意を抱かせます。絶対に後悔させません!」
「それは……無理やりか?」
「そうです。」
このままだと埒が明かないな。しょうがない、彼女にとっても俺にとっても都合のいい提案をしよう。そうしないとどうせ帰れなそうだし。
「よし分かった。」
「付き合うのですか?」
「いいや、付き合わない。だけど姫野さんにチャンスをやる。」
「なんで上から目線……わかりました。いいでしょう。」
「では、提案というのはこういうものだ。:今から俺たちは友達だ。そこで姫野さんには一年間のチャンスがある。来年の今日にもう一度体育館裏に来て告白される。そこで俺がまだ好意を持っていなかったら断る。そしたらもう付き合うのはやめよう。万が一でも好意を持ってしまったら付き合おう。
これでどうだ?」
姫野さんが考えるスピード僅か0、5秒。
「いいでしょう。」
「はやっ。それならもう帰っていいか?」
「はい、帰りましょう。」
よしよしそれなら早く帰って……?
「なんでついてくるんだ。」
「?それは友達だからですよ。」
あれ?友達って一緒に帰るものだっけ?まあそういうものか。
「今日も本当にありがとうございました。」
「今更だよ。」
「それもそうですね。」
話が続かない。何を話せばいいのか全然わからない。
「そういえば姫野さん…」
「冬華。」
「っえ?」
「冬華。」
「と、冬華……さん?」
「よろしい。」
友達って下の名前で呼び合うんだっけ?……これじゃ恋人と変わらなくない?
「姫野さんの…」
「…………」
「冬華さんの家って大きいよね。」
「そうですね。普通の家から見たら大きいと思います。」
「なんであんなに大きいの。なんか会社でもやってんの?」
「姫野文庫って知っていますか。」
「もちろんしってるけど……まさか?」
「正解です。」
「……ちょっと付き合いたくなってきた。」
「え?まさかお金ですか?」
「いや、そういうわけじゃ。将来作家になりたいんだよ。」
「それは何でですか?」
「まあ、いろいろ事情があって……」
「そうですか。」
なんか話す話題がなくなった。気まずい。
「あ、ここで真っ直ぐ駅に向かうから。また明日。」
「えっ?」
「えっ?」
「ジー」
「な、何か?」
「……」
「???」
「相合傘。」
「ああああ!」
思い出した。そういえばあの時、嘘をついたんだった。こんな関係になったせいで昨日のことなんてド忘れしていた。
「い、いやー(汗)」
「まあ、いいでしょう。また明日、よろしくお願いします。」
次の日。
俺は圭吾に昨日のことを話した。そしたら
「付き合えばよかったじゃん。」
「そういうわけにはいかないんだよ。」
「でも、絶対になんかアピールしてくるぞ?」
「そうだよな。それが問題なんだよ。」
そして、アピールは昼食時の出来事だった。
「和馬君。4人で一緒に食べましょう。」
「え?」
「「「…………」」」
通常は俺と圭吾と麻琴で昼食を食べているから……姫野も合わせて4人だな。…そういえば姫野が友達と一緒に食べているところを見たことがないな。まさかボッチ?しゃ、それはないだろう。だって、あの才色兼備で八方美人の姫野だよ?
教室の中は姫野の行動に呆然としている。そして、それは麻琴が教室に入ってくるまで続いた。
「圭吾ー、和馬ー。一緒に食べよー」
そして周りの空気に気づく。
「なにこの状況。」
そんな麻琴のために俺らは今までの経緯を話した。
「なんだ、つまり姫野さんは和馬の彼女ってこと?」
「違う!ただの友達だ。」
「彼女だなんて(笑)」
「「「え?彼女?というかあいつ誰?」」」
彼女と言われて少し頬を染める姫野。そも反応に驚く民衆。
「まあ、とにかく一緒に食べよ?姫野さん。」
「はい、そうですね麻琴さん。」
女子二人で決められてしまった。俺たちはそんな彼女らを見守ることしか出来なかった。
「そういえば姫野さんとLIMO繋ごうー。」
「そうですね。これがこの学校で初めての友達です。」
「俺もいいか姫野さん。」
「はい、久保君。いいですよ。」
麻琴だけでもなく圭吾もLIMOをつなぎやがった。俺はつながない。繋いでしまったら関係が深くなってしまう気がする。それだけは勘弁だ。
だからこっちに期待しているような目で見るな!
「おい、和馬。ここは繋いだほうが良くないか?」
圭吾がそう言ってくるが黙々とパンを食べる。圭吾もそっちの味方か。
「和馬は頑固だからここまで来たらもう無理だよ。」
麻琴がそう言ってくる。よくわかっているじゃないか麻琴よ。
「LIMO繋げないからってそんな悲しまないで。全部和馬が悪いんだから。」
「えっ?」
慌てて顔を姫野の方向へ向けると……涙目の姫野がいる。いや、なんで?
「大丈夫です。私からの一方的な恋ですから。」
「あーあ、和馬が姫野を泣かせちゃった。」
なんでそんなので泣くんだ。しかも恋とか言ってんじゃねぇよ。みんなにバレバレじゃんか。
「わかったわかった。はいこれ。」
俺は慌ててそう返事を返すとスマホのコードを姫野に見せた。
「ありがとうございます!」
姫野さんは涙ながらに笑顔を見せる。
「素直じゃないなー。和馬。」
女の涙が一番強い。今、ここでよくわかった。
「和馬君は弁当じゃないんですか?」
「家はお金ないし、弁当も作れないから。」
「……そうですか。」
この後も談笑しながら昼食時間が過ぎた。
「いい奴じゃん、姫野さん。末永く幸せにな。」
「だから俺は付き合わないって。」
「あんな完璧なお嫁さんになるのに?」
「だから好意が湧かない。」
「以外にお前、ロマンチストだな。」
「断じて違う!」
放課後になると姫野が声をかけてくる。
「和馬君。一緒に帰りたいけど、いい?」
「う、うん。」
微妙に上目遣いになっている。……多分無意識だと思うけど周りへの被害が大きい。
「おい、姫野が上目遣いだぞ」
「やば、超かわいいんですけど」
「グ八ッッッ!」
最後に至っては胸を押さえながら血を吐き出した。結構やばくね?
「あ、今日は圭吾と麻琴がいるけどいい?」
「はい、大丈夫です。」
言葉のわりに少し寂しそうだった。めっちゃ気持ちがわかってしまう。
「和馬。」 圭吾が囁いた。
「ここは二人で帰れ。姫野さんが可哀そうだ。」
「わかってる。」 俺は囁き返す。
「だから二人きりは俺に好意が向けられる。よって四人で帰る。そこでお前に好意が向けられるように俺が作戦を考える。」
「俺に二股しろと!?」
「そういうことだ。大丈夫。お前はイケメンだから。刺されても病院に電話してあげるから。」
「刺される前提かよ。」
そんな話をしながら俺たちは麻琴を待った。
麻琴が来ると全員駅方面に向かう。圭吾と麻琴も電車通学なのだ。
他愛のない話をしながら分岐点につく。
「それではさようなら。」
「じゃねー」
気楽に麻琴が返事をする。そして彼女が見えなくなったら俺に話を振ってくる。
「なんで付き合わないの?お似合いなのに。」
「だよなー麻琴。俺もそう思う。」
「別に俺はイケメンでもないしお金も持ってないし好意も何もないし。何より……いやなんでもない。」
「はぁ。和馬は自己肯定が低すぎるんだよな。自意識過剰よりはいいかもしれないけれど。お前は髪を切ったらもっとイケメンになるし優しいしきちんと約束は守るだろう。お金は……誰かに貢いでもらえ。」
「お前……マジで言ってんの?」
「おおマジ。」
「マジか。」
「マジのマジ。」
次の日。昼食時間。
今日もパンを買いに行こうとすると姫野から待ったがかかった。
「どうしたの、姫……冬華さん。」
「実はその……弁当を……作って……来たの。」
「へっ、弁当?なんで?」
「うっ、聞こえてたの??」
「いや別に俺は難聴ってわけでもないし……」
「そ、そうですよね。」
「ちょっと作戦会議していい?」
「作戦会議ですか?」
返事を待たずに俺は圭吾を招集する。
「よかったじゃん。手作り弁当なんてもらって。」
「そこじゃない。手作り弁当をもらうって友達になる?」
「どう考えてもラブラブな恋人だな。」
「そうだよなー。でも、手作り弁当を食べないと捨てることになるし……」
「ここは潔く食べろ!」
「だよなー。」
「その、冬華さん。ありがとう。」
「どうしまして。で食べましょうか。」
手作り弁当を開けてみると……めちゃ本格的だった。試しに伊達巻を食べてみると……
「その、どうでしょうか。」
「……滅茶苦茶おいしい。おいしいよ、冬華さん。」
「それはよかったです。」
そのあともいろいろ食べてみるけどどれもおいしい。毎日コンビニのものを食べているけど、この味は食べたことがない。
「今度から作ってあげます。」
「本当にありがとう。」
見事に胃袋をつかまれた近藤和馬であった。
それから一週間何事もなく日常が進んでいった。
その出来事はHRの時間だった。
「それでは文化祭準備委員の立候補を決めたいと思います。誰かやってみたいと思う人はいませんか?それではくじ引きで決めたいと思います。」
先生も候補者が出てくると思わなかったのかご丁寧にくじ引きまでもってきている。
「それでは今年度の委員は近藤君と姫野さんでお願いします。」
パチパチパチと拍手が聞こえるが俺はそんなのに構っていられない。神様っていないのかこの世界は!
「和馬君。よろしくね。」
「ああ、よろしく。」
姫野はものすごくうれしそうにしている。
「和馬。よかったじゃねぇか。」
「お前は黙っとけ。」
「では委員の二人は放課後仕事があるので忘れないようにしてください。」
この時はまだめんどくさいなーとしか思っていなかった。
放課後になり、集まる場所に行くと高2の委員たちがそろっていた。
「では、これより第一回文化祭準備会議を始めたいと思います。」
あれ、なんか急に眠気が……最近働きすぎたかな?まあ、あまり意味内容だし寝るか。
「・・君。・馬君。和馬君!」
「うおっ、びっくりした。……なんだ、姫野さんか。」
周りを見てみると姫野さん以外に誰もいない。結構な時間寝てしまったようだ。
「起こしてくれて助かった。」
「別にいいですよ。まあ、寄りかかってうれしかったといいますか……」
「えっ?なんか今絶対に言わないであろう言葉が聞こえたが……気のせいだな。まだ少し疲れてるようだ。」
「こほん。それで会議の話ですが会長は・・君で副会長は…………」
姫野は会議のことを要約して話してくれた。正直助かる。幸いにして役職には選ばれなかったようだ。
今日は姫野と一緒に帰る。
「和馬さん。さっきは何で眠っていたんですか?」
「そりゃあ、眠かったからだ。」
「それはそうですけど……夜、ちゃんと寝てないのですか?」
「まあ、コンビニでアルバイトしているからな。」
「……え?」
「だってうち、貧乏だし。」
「その、ご両親は何をしているんですか?」
「もう、この世にはいない。」
「………」
「あ、別に普通の事故だからね。物心つく前の旅行帰りに、車で走っていたら逆走車にぶつかって。前に乗っていたお母さんとお父さんは死んじゃったけど後部座席の俺は運よく生き残ったし。そのあと、祖父母に預けられたけど二人とも寿命で死んじゃったし。だから今はアパートで独り暮らし。
相続金とアルバイトで何とか食いつないでるって感じ。まあ、まだ余裕はあるけど。
「…‥……」
この空気めっちゃ悪い。何とか場を和ませたいけどこんな思い話をした俺が悪いし。
そのまま分岐点につくと無言のまま別れた。その次の日からはいつも通りだけど少し無理して笑っているような気がした。
「和馬、姫野さんとなんかあったか?」
「ああ、実は俺の両親のことを話したんだ。」
「なるほど。言っちゃ悪いが重いもんな。」
「そうなんだよなー。まあ、これで別れるんだったらそれでもいいけど。」
「こういう時はデートだ。思い切って誘え!」
「デートなんてするわけないだろ。」
「ちぇ、つまんね。」
次の時間はHRだった。文化祭の出し物について決めた。委員(ほぼ姫野)が中心となって決める。結局、お化け屋敷をするようだ。まあ、楽ならば何でもいいが。
その夜、久しぶりにLIMOに通知が来ていた。開いてみると姫野のようだ。
「って、姫野?」
『お疲れさまでした。ところで今週の日曜日、午前九時以降空いていますか?』
『空いてるぞ』
『それでは日曜の九時に駅前に集合でお願いします。』
『え、何するの?』
『それはもちろんお化け屋敷の準備です。』
『そうか、忘れていた。』
『それにデートも兼ねています。』
『そうだよな、デートも……デート?それって、恋人のすることじゃないの?』
『いいえ。辞書には恋人とは書いてありません。恋する相手と書いてあります。つまり、一方的でも問題はないのです。』
『そ、そうか?それなら問題はないか?』
『ええ、問題はありません。それではまた明日。』
『ああ。』
まるで一方的な連絡であった。
次の日、圭吾に相談してみる。
「ぎゃははは。和馬が姫野に丸め込まれてる。」
「うるせぇ!だからどうすればいい。」
「そんなのかっこよくいくに決まってんだろ。和馬はどんな感じがいいんだ?」
「それはもちろんお金がかからないところ。」
「お前……それだけだな。ロマンチックとかないのかよ。」
「別にデートなんていかなくていいし。」
「はぁ、ちゃんとした服装くらいしろよ。」
「何言ってんだ?外出用の服なんて一着しかないぞ?」
「……おまえ、マジか。そのレベルなの?」
「いや、別にまあまあのものなら買えるくらいには貯金たまってるし。」
「わかった。デート中に服買え。」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ!」
と助言されたので何もしないまま日曜の九時となった。目的の場所に丁度着いた。
「ごめん、待った?」
「いいえ、全然待っていません。……これは普通男女が逆なのですよ。」
「そういうもんか?」
「そういうものです。ところで、計画を立ててきましたか?」
「デートのこと?いや、全然。」
「そう誇らしげに言われても……まあ、今回は私が立ててきましたので。」
「ありがと。」
俺は笑顔でお礼をする。姫野は顔を赤らめる。
……もう、笑顔は見せないようにするか。もっと惚れられそう。
「とにかく、服屋には行けと久保君が言っていました。」
「圭吾め……明日一発殴る。」
「まあまあ。それから久保君から伝言です。今日は楽しめよ……」
「圭吾……」
「貧乏人。だそうです。」
「……もう一発追加で。」
「では、そろそろ出発しましょう。」
「あ、そういえばそのワンピース可愛いよ。水色で清楚さが際立っているような遊び心があるような気がして。」
「和馬君……」
「っていえばいいと麻琴が言ってたな。」
「最後さえなければ最高でした。」
まあ、わざと言ってんだけどね。余計惚れられそうで……だから断じて鈍感ではない。
とにかく、最初は服屋に行くことになった。なぜか姫野が服装からデートに入るべきというので、パパっと決めようとした。SAILの文字を見て決めたけどなぜか姫野が反対して今は着せ替え人形中。着せ替え人形の気持ちがわかった。お金も当初より多く払ったけどまだあるしいっか。そのまま買った服を着て今度は本屋に行くことになった。
俺は本という娯楽は……図書館でしか見ないが、姫野は本をたくさん読むらしい。それはわかる気がする。意外なのはライトノベル略してラノベを好んで読むらしい。滅茶苦茶いろんな本を紹介してくれた。俺にはラノベと小説の違いがわからない。何が違うんだ?姫野もよくわからないらしい。残念ながらお金に余裕はないので買わなかったが本屋の店主からカップルと言われた。
姫野は喜んでいたが俺はため息をつく。やっぱり他人から見たらカップルのデートなんだなと。
その次は昼食を食べに行く。高いレストランはいけないしコンビニの弁当はダメだと姫野が言うのでファミレスに入ることになった。まあ、その時はさすがにあーんをすることもなくただ談笑して時間が過ぎた。少し安心。
昼食を食べた後、俺らは目的のホームセンターへ着く。そこで段ボールやら画用紙やらを買う。何事もなかったけれど俺が買うにはお金が足りなかったのですべて姫野さんの所持金で買った。別にレシートを先生に見せればその分のお金はくれるから借りってわけでもないんだけど……男として恥ずかしい。
そんなことをしていたらもう3時だった。
「姫野、ごめん。4時から用事があるから今日はもういけない。」
「そうですか。それは残念です。」
「だけど、今日はすごく楽しかったからまた行ってもいいと思った。」
「本当ですか?その言葉絶対に忘れないでね!」
「え、ああ。もしかしてまた行くのか?」
「もちろんです。」
俺は顔を引きつらす。このままだと絶対に別れる気はしないだろうな。
「それじゃ、また明日。」
「はい、今日はありがとうございました。」
そういうと俺は家に帰り病院へ行く。
はい、本作はここで終わりです。まだ途中ですが一区切りつけたいと思います。
王道恋愛を一度作りたいと思ったので書いてみました。
もし好評なら連載で書こうと思うのでもし気に入ったら評価のほうをお願いします。
それでは卵の怠惰でした。また今度。
(クゥー、こんな甘酸っぱい恋愛してみたかった。)